水産振興ONLINE
水産振興コラム
20252
日本の浜を元気に! - フィッシャーマン・ジャパンの挑戦

第10回 美味しく食べて海を守る!ベンナーズが作る持続可能な未来

津田 祐樹
株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長

ベンナーズは、「サステナブルな水産インフラを構築していくことで、世界の水産業界にとって最も必要とされる会社を創造すること」をビジョンに掲げ、未利用魚に新たな価値を見出す事業を展開しています。少量しか獲れない、加工が難しい、味にクセがある等の理由で活用されることのなかった魚を独自の技術で商品化しています。その中でも、海藻を食べ尽くして藻場を破壊する食害魚を、美味しく加工しアップサイクルさせる同社の取り組みは、ビジネスの力で環境海洋保全を推進するフィッシャーマンジャパン・ブルーファンドの理念が合致しています。本記事では、ベンナーズがどのようにして食害魚も含めた未利用魚を活用し、持続可能な水産業に貢献しているかを詳しくご紹介します。

「海のゆりかご」が食い尽くされている

藻場は海の生態系において重要な役割を果たしている場所で、魚やエビ、カニといった多くの海洋生物の成長の場となる「海のゆりかご」と呼ばれています。しかし、近年、藻場が急速に減少しており、その原因の一つとして食害魚の増加が挙げられます。

藻場が海になくてはならない理由

藻場は、海草や海藻が繁茂するエリアで、幼い魚たちが成長する場所として欠かせない存在です。藻場に住む生物たちの多くは、ここで安全に育ち、成長を遂げます。藻場は、幼生や稚魚の隠れ場所を提供し、また食物連鎖の基盤となる藻類やプランクトンを供給するため、海洋生物全体の栄養源となっています。

さらに、藻場は二酸化炭素を吸収し、酸素を生成することで、気候変動の影響を軽減する役割も担っています。これらの重要な機能を失うことは、海の生態系に甚大な影響を及ぼす可能性があります。

磯焼けの進行

藻場が急激に減少したり消失した状態を磯焼けと言い、磯焼けも日本中で問題となっています。藻場が枯れた後、海の生態系が崩れ、多くの海洋生物が生息できない環境となり、海の生態系全体に悪影響を及ぼします。

藻場の減少は、すぐ解決すべき問題ですが、食害魚以外の原因とされる海水温の上昇や栄養不足などは、いち企業や団体が解決できるような課題ではありません。しかし、食害対策についてはアプローチできる余地があります。フィッシャーマン・ジャパン(以下、FJ)でも、磯焼け対策のプロジェクトを行っており、優先度の高い課題です。

フィッシャーマン・ジャパンの磯焼け対策プロジェクト
ISOP -Ishinomaki Save the Ocean Project-
https://fishermanjapan.com/project/isop-ishinomaki-save-the-ocean-project/

「海のゆりかご」減少の背景

藻場の減少にはいくつかの原因がありますが、食害魚の増加はその主要な要因の一つです。

<藻場の減少に影響を与える要因>

食害魚が問題となる背景

アイゴ、イスズミ、ブダイなどの食害魚は食べにくく、味のクセが強いなどの理由で市場では値が付かず「未利用魚」とされています。そのため、これらの魚は積極的に獲られることなく、駆除の対象としか見なされてませんでした。例え獲っても、焼却などの処分費用もかかってしまうので、漁師たちは食害魚を獲ることを後回しにせざるを得ませんでした。さらに昔は海水温が下がる冬場は食害魚の食欲も下がり、食害魚が海藻を食べるスピ―ドより海藻が生えるスピードが上回っていたため藻場は維持されていました。それが昨今の海水温の上昇により、食害魚の食欲が冬場でも衰えることなく、一年中海藻を食い尽くしています。海水温の上昇を発端に食害魚が増え、しかしそれを獲る経済的メリットがない、これが藻場が消失してしまう原因の1つです。

食害魚を食べて解決

そんな藻場減少の解決策として、食害魚の活用があります。食害魚を獲って、利用することが、藻場の回復に寄与する可能性があります。これらの魚を美味しく食べることができれば、市場にも流通し、経済的価値をつけることができます。そうすると、食害魚にも獲る価値が生まれ、漁業者が食害魚を積極的に捕獲するインセンティブが生まれます。

このように、海の中で問題とされていた食害魚を、美味しくなるよう加工して付加価値を持たせ、食害魚にも獲る価値をつけたのがベンナーズの事業「フィシュル!」なのです。ベンナーズの登場により、積極的に食害魚を獲る漁師たちが出てきたというのが現在の大きな変化です。

今までは、お金にならないので漁獲の優先度が低く、獲らない、獲ったとしてもコストをかけて駆除するしかなかった食害魚。しかし、「海を壊す食害魚を美味しく食べられるように商品化した」ことは評価されるべきもので、フィッシャーマンジャパン・ブルーファンドはベンナーズへの投資を決定したのです。

捨てられていた魚が、食卓へ。ベンナーズの取り組み

ベンナーズは、日本の食と漁業を守ることをビジョンとして掲げ、サブスクリプションでの宅配事業「フィシュル!」をメインとし、飲食や卸売事業、魚の加工などの商品企画などを事業としています。

「フィシュル!」では、「未利用魚」を積極的に活用し、日本の持続可能な水産業のために「食の三方よし」を目指しています。お魚ご飯の定期便として、その月に獲れた魚を、それぞれの味を最大限引き出す味付けを施し、食卓へお届け。消費者としては、旬の魚を手軽に食べられ、しかもフードロスにも貢献できる点がヒットし、「フードロス削減アワード2024」の食品メーカー部門にて大賞を受賞したり、「時短調理大賞」も受賞。各メディアでも多数紹介されて、2025年2月現在で会員数4万3000人を突破する急成長しているサービスです。

海の課題解決を、楽しく、みんなで。

ベンナーズの代表である井口さんは、父や祖父母が水産業に従事しており、小さい頃から水産業の問題を目の当たりにしてきたそうです。漁業者の減少・高齢化、日本人の魚離れなど水産業界が抱える課題を解決する為に、株式会社ベンナーズを2018年4月に創業。新型コロナの影響で、ちょうど巣ごもり需要が高まっていた時期だったため、このサービスは大きく成長しました。

魚が水揚げされたその日のうちに、手作業で丁寧に捌いて味付け。-30℃の瞬間凍結を行うことで、捌きたて鮮度を保持し、食べにくい魚でも鮮度が良い状態で調達し、臭みの出ないものに加工する体制を構築しました。

さらには、サブスクリプションを利用することで、ベンナーズとしては、その時に獲れた旬の魚や珍しい魚を余すことなく提供でき、消費者側としてもいろいろな魚を楽しめるという点がwin-winの関係であったと言えます。ベンナーズの事業が広がることで、食害を引き起こす魚の活用が進み、藻場の回復など海洋環境保全にも貢献しているのです。

環境問題は一般の人々にとって遠い世界の話になりがちです。「自分一人が何かをしても意味があるのか」「具体的に何をすれば良いのか分からない」と感じ、行動に移すことにためらいを覚える方も多いのではないでしょうか。

ベンナーズは、そうしたハードルを取り払い、”美味しい魚を食べる”という、日々の暮らしの中で、自然と環境保全に貢献できる仕組みを実現しました。難しい取り組みを強いるのではなく、普段の食卓で魚を選ぶだけで海を守るアクションにつながる。この手軽さと実効性も、ベンナーズの事業の大きな魅力です。海洋環境保全は、水産業に関わる人だけが取り組めばいい問題ではありません。「楽しく参加できる仕組み」で一般消費者も巻き込んでいけるビジネスモデルは、未来の水産業を守るためにも不可欠だと考えています。

今後の展開

今回の資金は、もっと消費者を巻き込んでいくための広告宣伝費等に使われています。

今後は、給食や社食といった場面にも「フィシュル!」を活用してもらうことで、個人宅以外での消費拡大を促進していくそうです。食育活動も積極的に行っており、魚食文化の再建を目指しています。

実際に、青山学院初等部全校生徒760名分の給食に未利用魚を毎月1回提供したり、代表による出前授業なども行っています。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000058243.html

このように急速に需要が拡大している中で、本社のある福岡から、日本各地へ製造拠点を拡大し、製造ライン・流通を増強しています。急増する需要には福岡の拠点だけでは注文に追いつかないため、ブルーファンドでの投資後は、FJの強みである、全国ネットワークを活かして、全国で「フィシュル!」の製造が出来る拠点の開発サポートをしています。

まとめ

ベンナーズの取り組みは、単に未利用魚を活用するだけではありません。食材としての新たな価値を生み出すことで、漁業者の経済的な支援につなげるとともに、食害魚の有効活用による海洋環境保全にも貢献しています。

特に「フィシュル!」のような仕組みは、消費者にとってハードルの高い環境保全活動を、“美味しい魚を食べる”という身近な行動に変えるものです。これにより、一般の人々も無理なくサステナブルな取り組みに参加できるようになりました。

また、今後は学校給食や社食への導入を進め、より多くの人に未利用魚の価値を知ってもらう機会を増やしていく予定です。加えて、FJとの連携によって、製造拠点の拡大や流通網の強化が進められており、ベンナーズの活動は全国へと広がりつつあります。

水産業界が直面する課題に対し、ビジネスの力で持続可能な解決策を生み出すことこそ、ブルーファンドの使命です。今後も第二弾、第三弾と投資先を増やしていく予定です。次世代に豊かな海を引き継ぐための挑戦は、さらに進んでいきます。

ベンナーズ
https://www.benners.co.jp/

第11回に続く

プロフィール

津田 祐樹(つだ ゆうき)

株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長
宮城県石巻市出身のグロービス経営大学院卒業生。石巻魚市場の仲買を経て、東日本大震災の被害を受けて2014年にフィッシャーマン・ジャパンに参画。2016年には販売部門を株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングとして分社化し、代表に就任。国内外の販路拡大、飲食事業、コンサルティング、政策提言、海洋環境保全活動を推進し、日本の水産業の未来を切り開く。