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水産振興コラム
20226
ブルーカーボンで日本の浜を元気にしたい
第4回 国土交通省港湾局におけるブルーカーボンの取り組み
山口 貴弘
国土交通省港湾局 海洋・環境課

私からは国土交通省港湾局によるブルーカーボンに関する取り組みについてご紹介します。

カーボンニュートラルポートの取り組み

島国の日本では、港湾は輸出入貨物の99.6%が経由し、かつCO2排出量の約6割を占める発電、鉄鋼、化学工業など多くが立地するエネルギーの一大消費拠点でもあり、港湾地域はCO2削減の余地が大きい地域であると言えます。

そんななか、政府の関係省庁により2020年12月に策定され、2021年6月に具体化された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、カーボンニュートラルポートを形成し、2050年までに港湾におけるカーボンニュートラルの実現を目指すことにしており、その一環として、ブルーカーボン生態系を吸収源とするCO2削減の取り組みを進めています。

港湾事業による浅場や人工干潟等の整備

港湾事業では、新たなターミナル整備を行う際や船舶の大型化に対応するため、航路・泊地の浚渫やその増深を行います。その際に発生する浚渫土砂の処分が課題となることがあります。浚渫場所によっては土砂の受け入れ先確保が困難な場合もあり、浚渫土砂の有効活用を行う方策として浅場や人工干潟の造成を行っております。その浅場や人工干潟については海草や海藻等の生息場にもなっています。また、浅場や人工干潟の整備以外にも釧路港のように泊地浚渫により、大量に発生する土砂を利用して防波堤背後への盛土による藻場の造成を行っている事例や、環境共生型護岸の整備により、ワカメ等の海藻によるブルーカーボン生態系が育成された事例もあります。これらの整備は水生生物の生息環境の創出にも資するとともに、水産振興にもつながるものと考えています。

国土交通省港湾局におけるブルーカーボンに関する検討会の取り組み

国土交通省港湾局では、2019年6月に「地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」(以下:検討会)を設置し、CO2吸収源としてブルーカーボン生態系の活用に向けた検討を行っています。具体的には、ブルーカーボンのインベントリ登録を見据え、ブルーカーボン生態系にかかるCO2吸収量の定量的な評価手法を確立することなどを目的として検討を行っているとともに、ブルーカーボン生態系に関する普及啓発の検討も行っております。

国連気候変動枠組条約に基づき、環境省から国連に対して行う我が国の「温室効果ガスインベントリ報告」

2021年度には、環境省の藻場・干潟に関する最新の衛星データを基に全国の重要港湾以上を対象とした港湾区域内に生息分布する藻場、干潟等のブルーカーボン生態系によるCO2吸収量を試算し、約4.5万トンCO2/年との試算結果を得たところです。試算結果はNHKでもテレビで取り上げられ反響を呼んだところです。

ただ、藻場等の観測精度の面では向上の余地を残していますので、今後、準天頂衛星などを活用し測位技術を高精度化しつつ、水中透過性の高いグリーンレーザーをドローンに搭載することによって藻場等の繁茂状況を正確に把握し、データ等の管理も含むシステム開発を進めています。

ブルーカーボン・オフセット・クレジット制度の試行

2020年7月に国土交通大臣が認可した「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合」(以下JBE、第3回を参照)は、同2020年度には横浜港、翌2021年度には横浜港、神戸港、徳山下松港、北九州港の4港において、藻場等の保全活動等によりブルーカーボン生態系が吸収したCO2量を「Jブルークレジット」として認証し、企業等との間で取引を行うブルーカーボン・オフセット・クレジット制度の試行を実施したところです。そのうち、横浜港、神戸港、徳山下松港においては、藻場等の保全活動に漁業関係者の方が参画され、保全活動により魚介類の漁獲高が増えたという事例も確認できています。

今後、全国的な制度として取組みを継続的に進めていくためには、①浅場・人工干潟、藻場等を造成する国や港湾管理者、②保全活動に尽力されているNPO・市民団体・漁業関係者の皆さん、③SDGs等に積極的に取り組まれている各企業、の三者が連携できる仕組みが必要となります。この制度によって、藻場等の保全活動がさらに推進されることを期待しております。国土交通省港湾局としては、JBEと密接に調整を図りつつ、検討会での有識者の方や関係省庁等の助言等を頂きながら取り組みを進めてまいります。

(出典:国土交通省)

ブルーカーボンのインベントリの登録に向けた取り組み

ブルーカーボン生態系について吸収源としてインベントリに位置付けがされていないところです。

現在、国土交通省では、環境省、農林水産省等の関係省庁と連携しCO2吸収量算定方法の確立、活動量(面積)の計測方法、取得したデータの管理体制等の課題に対して検討を行っているところです。引き続き、ブルーカーボン生態系にかかるCO2吸収量のインベントリ登録を目指して取り組みを進めています。

第5回へつづく

プロフィール

山口 貴弘(やまぐち たかひろ)

山口 貴弘(国土交通省港湾局 海洋・環境課)

1973年生まれ。1992年佐世保工業高等学校卒後、運輸省(当時)入省。国土交通省九州地方整備局、国土交通省港湾局計画課、伊万里市役所(出向)、国土交通省港湾局技術企画課等を経て2022年4月より国土交通省港湾局海洋・環境課 課長補佐