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水産振興コラム
20226
ブルーカーボンで日本の浜を元気にしたい
第3回 「JBE」と「Jブルークレジット®
桑江 朝比呂
ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)理事長

はじめに

私は学生時代に農業経済学と水産資源学を専攻しました。水産の区分で公務員試験を受けたのですが、たまたまその年は水産庁だけではなく旧運輸省にも採用枠がありました。進路を迷ったあげく、水産庁ではなく旧運輸省に就職し、研究所配属となり研究を続けることになりました。

つまり、もともと農林水産に興味があったにもかかわらず、どういうわけか港湾という土木の世界に漬かることになったのです。

そのような経歴の私が、ブルーカーボンという新たなテーマに対し、研究や政策化をすすめつつも、社会実装にむけて「JBE」と「Jブルークレジット®」をなぜつくったのか、簡単にご紹介したいと思います。

ブルーカーボンの実装に足りなかった「シクミ」と「カネ」

ものごとの社会実装には「ヒト」「モノ」「カネ」「シクミ」の4つをすべて揃える必要があるといわれています。ブルーカーボンの活用あるいは藻場などのCO2吸収源拡大を実装していく際に、この4つのうち何が欠けているのかを私は考えておりました。

「ヒト」と「モノ」についていえば、例えば海草藻類の種苗生産や増養殖に関して水産分野で世界に伍する人材と技術があり、海草藻類の生育基盤に関して土木分野で世界に伍する人材と技術があると感じておりました。

一方、ブルーカーボンの取り組みの受け皿となる「シクミ」は十分ではないと感じておりました。水産と土木の技術連携によってはじめて、藻場の基盤づくりから増養殖、そしてCO2吸収源拡大まで一気通貫で可能となる一例が示すように(写真)、気候変動対策あるいはブルーカーボンの取り組みは、関連するセクターが自然や環境にとどまることなく社会や経済にも深く関係するため、産官学民が対等に、そしてざっくばらんに連携して課題解決に向け取り組むための受け皿が必要でした。

写真 構造物にもブルーカーボンを増やすことができる例

「カネ」についていえば、これはもう圧倒的に不足していると感じておりました。これまで、海域環境の保全や再生に民間資金が持続的に導入される例がほとんどありませんでしたし、公的資金を導入する際には用途が限定されてしまうため、水産生物のための予算を海岸構造物に活用したり、海岸構造物の予算を水産生物に活用したりすることができないためです。

例えば港湾分野では、浚渫土砂を有効活用した、海草の生息基盤となる砂泥域形成や、海藻の生息基盤となる港湾構造物の整備までは公的資金でカバーできるものの、その先の藻場創出の促進や維持管理の予算をカバーすることができません。ですから、藻場を造成しようと思うと、地元の漁業者やNPO等のボランティア活動に全面的に依存する状況でした。

これでは、ブルーカーボンやCO2吸収源の規模拡大には、資金やマンパワーに限界が生じてしまいます。さらに、「カネ」の面における縦割りは、同じ志を有する様々な分野や産官学民の間の連携という「シクミ」を阻害する要因にもなります。

JBE

上述の隘路を打開するため、「シクミ」については「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(Japan Blue Economy Association)、JBEと略称」を創設し、現在、実社会でテストをしています。

JBEは、2020年7月に国土交通大臣によって認可された法人であり、海洋との関わりをより深め、次々世代以降も持続的に海から恵みを受けられるようにする、新たな方法や技術の開発を目標としています。その目標達成のため、企業、自治体、漁協やNPOをはじめ、各法人や各団体と対等な立場で異業種連携して研究開発を進めております。

「環境」や「SDGs」といったテーマは、これまでその重要性がイメージで語られることが多かったように思います。しかし、それでは各主体の本格的な参画や、環境のビジネス化には至りません。ですからこの法人では、「科学技術的な根拠」、「数値」、「経済価値」、「具体的手法」にこだわり、例えば

といったニーズに応える調査研究を進めています。

「ジャパン」を法人名の先頭につけたことを気に入っています。ジャパンとついているからといって、事業を国内にとどめておく意味合いではなく、海外に売り込むためのブランドだと信じています。

Jブルークレジット®

「カネ」については、2021年に「Jブルークレジット®」というカーボンクレジット制度をJBEが創設し、こちらも実社会でテストをしています(図)。

図 ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が現在試行的に運営している
ブルーカーボンを活用したクレジット制度(Jブルークレジット®

カーボンクレジットの意義を説明するときに、私はよく、win-winの経済価値をつくりだす貿易に例えます。漁業者などの地元の環境活動団体は、CO2の吸収源をつくりだす強みがありますが、資金や人的資源には弱い場合も多いと思います。一方、民間企業は、資金や人的資源では漁業者よりも強みがあるものの、海を活用したCO2排出削減や吸収という実績について弱みを持っています。

そのような状況をカーボンクレジットという制度によってCO2吸収量と資金という価値をお互い交換しあうことにより、両者の弱みを克服し強みをさらに活かすことで、ブルーカーボンの取り組みを持続可能にすると考えました。

ブルーカーボン、水産、JBEの将来

JBEは、漁業者とも様々な局面で連携しています。現在お付き合いのある若手の漁師は、漁業だけでなく、海域環境の保全、再生、創造活動も精力的に取り組まれ、地域コミュニティのリーダー的存在の方も多くいらっしゃいます。そのような生業こそ「海業」であり、そのような漁師は「海師うみし」と呼ばれるようになるのではないかと思います。「海師」とは、海のことなら何でもするプロフェッショナルを表す著者の造語で、「海師」が将来増えることにより、ブルーカーボンの取り組みは持続可能になるとも予想しています。

第4回へつづく

プロフィール

桑江 朝比呂(くわえ ともひろ)

桑江 朝比呂(ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)理事長)

1993年 京都大学農学部卒業
1995年 京都大学大学院農学研究科修了
1995年 運輸省港湾技術研究所 研究官
2001年 (独)港湾空港技術研究所 主任研究官
2009年 (独)港湾空港技術研究所 沿岸環境研究チーム チームリーダー
2010~2017年 熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター 客員教授
2016年~現在 港湾空港技術研究所 沿岸環境研究グループ グループ長
2020年~現在 ジャパンブルーエコノミー技術研究組合 理事長