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水産振興コラム
20225
ブルーカーボンで日本の浜を元気にしたい
第2回 ブルーカーボンへの期待
長谷 成人
(一財)東京水産振興会 理事
藻場の保全活動(ウニの駆除)(出典:令和2年度水産白書)

ブルーカーボンについてのリレーコラムが始まりました。温暖化対策は、いまや漁業界だけでなく今世紀最大の人類の課題で、我が国もすでに2050年カーボンニュートラルを宣言しています。この大きな世界のうねりの中で、漁村には洋上風力発電との共生という課題が持ち上がっていることから、昨年「洋上風力発電の動向が気になっている」というリレーコラムを連載しました。今回のブルーカーボンもそのような温暖化対策が不可避となった世界の新しい大きなうねりへの対応の一つです。

今年の3月25日には、水産基本法に基づく新しい水産基本計画が閣議決定されました。同計画の中では、「藻場・干潟等は豊かな生態系を育む機能を有し、水産資源の増殖に大きな役割を果たしており、藻場は二酸化炭素の吸収源として、カーボンニュートラルの実現の観点からも重要であることから、効果的な藻場・干潟等の保全・創造を図る必要がある。このため、……漁業者等が行う藻場・干潟の保全などの水産業・漁村の多面的機能の発揮に資する取組を推進する。また、藻場の二酸化炭素固定効果の評価手法の開発……等を推進する」との記述が盛り込まれました。

カーボンニュートラルの目標年である2050年には、我が国の人口は1億人を下回り、その後も急激に減少すると想定されています。そうした人口大減少時代においても、環境の保全や海上の不審な行動の抑止など多面的機能を有する漁村の存続を図っていかなければなりません(漁業法第174条にも配慮事項として特記された)。

海藻などによる温室効果ガスである二酸化炭素の固定効果の評価手法を確立することにより、第1回の堀さんのコラムにあったようにクレジット化し取引が可能となります。藻場再生だけでなく食品以外の多様な形の海藻養殖などを行うことで、漁村地域の住民の新たな副収入として期待が持てるというわけです。温暖化対策、環境保全、漁場価値の向上、収入増と一石で何鳥にもなる話ではありませんか。

水産業・漁村の多面的機能については、水産庁は、まずは水産多面的機能発揮対策事業の予算確保を考えていくのだろうと思いますが、補助金だけに頼るのではなく、将来的にクレジット化により収入を得ることによって取り組みがより足腰の強いものとなることも期待しています。

このリレーコラムでは、効果的な藻場等の保全・創造や二酸化炭素固定効果の評価手法の開発などについては堀さんたち研究者の方から、水産業漁村の多面的機能の取組については実際に現場で取り組んでいる方たちから、その他ブルーカーボンをめぐる様々な動きも併せ紹介していきたいと思います。

さらに、ブルーカーボンとの関連で、ここでは沿岸漁場管理制度について紹介したいと思います。そもそも漁業は、漁場を適切に保全・管理することによって、はじめてその生産活動が持続的に可能となります。我が国では、各地の地先水面において、藻場の保全をはじめ漁場の保全・管理のための活動がこれまでも多様に行われてきました。沿岸漁場管理制度は、このような活動を単なる自主的な活動にとどめるのではなく、都道府県知事が一定の漁場を設定して漁協等に保全活動を委ねることができるように、また、その活動の運営体制の適正化・透明化を図りつつ、外部の者からの理解、協力が得られやすいようにと漁業法の第4章第4節の中で創設されました。この制度では、その活動主体は、漁協や漁連だけでなく一般社団法人や一般財団法人もなり得ることになっています。妥当な範囲内で外部の受益者に対して金銭徴収を含め協力を求めることも出来ます。その際、受益者の協力が得られない場合の知事のあっせん制度も含まれているのです。

沿岸漁場管理制度の概要

この制度を有効に活用することにより、水産業・漁村の多面的機能の発揮に資する取組についての社会的な認知度が高まり、一般市民にもウイングを広げ、地域に根差した取組とすることができると考えます。コンブなどの海藻の漁場はもとより、アワビ漁場にせよウニ漁場にせよ、第1種共同漁業権の管理と密接な形で、藻場の保全活動が現になされているならば、このコラムを読んだ、意欲ある漁業者、漁協職員、普及員を含め都道府県庁職員等の中から、来年の9月から全国で行われる漁業権免許の切替のタイミングを見計らって、ブルーカーボンをめぐる新たな潮流とも絡めつつこの制度の活用を考えてみようという動きが出てくることを期待しています。

漁業権制度については、社会的に様々な見方をされることがありますが、藻場の保全・創造のようなSDGsの時代にふさわしい活動と結び付け上手に情報発信することが一般国民の共感、支持を高めるために有益であると思います。

今後展開されるリレーコラムにおいて、ブルーカーボン全般についての関係者の認識が深まるとともに、藻場等の保全・創造のための活動強化に向けて多くの関係者に情報が共有され、将来の漁村、沿海地域のコミュニティーの存続・発展につながっていくことを期待しています。

(出典:令和2年度水産白書)

第3回へつづく

プロフィール

長谷 成人(はせ しげと)

長谷 成人 (一財)東京水産振興会理事

1957年生まれ。1981年北大水産卒後水産庁入庁。資源管理推進室長、漁業保険管理官、沿岸沖合課長、漁業調整課長、資源管理部審議官、増殖推進部長、次長等を経て2017年長官。2019年退職。この間ロシア、中国、韓国等との漁業交渉で政府代表。INPFC、NPAFC(カナダ)、宮崎県庁等出向。
現在 (一財)東京水産振興会理事