「ISOP (Ishinomaki Save the Ocean Project)」
ここ数年、「持続可能」とか「サステナビリティ」、そして「SDGs」という言葉が日本のビジネスシーンでやたら使われるようになってきました。
「これからの時代、サステナビリティについて考え、行動していかなければ人も企業も生きていけない」とまで言われるようになっています。
こういう話に対して、ほんとに?と思う人がまだまだたくさんいます。正直なところ私も最初はそうでした。
でも日本だけでなく世界の状況や動きに目を向けてみると、一般の消費者としてはもちろん、国や企業が本気でサステナビリティについて考え、行動していることがわかります。
ブルーカーボンについても、その流れの中で存在感を増しつつあります。
世界では人口が増え続け、このままだと2050年には100億人規模になり、資源の枯渇、食糧不足、経済格差が広がるリスクがあります。
産業革命以降、CO2排出量はそれまでと比べ物にならないレベルで増え続け、地球の平均気温も海水温も上昇し、生物多様性の崩壊や自然災害の被害拡大も年々大きくなっています。
日本でも台風や大雨の被害についてはみなさん肌で感じていることでしょう。
世界でもハリケーンや洪水、熱波が増えており、ここ20年での損害保険金の額は2倍以上に膨れ上がっているそうです。
気候変動を放っておくと、自然災害だけを見てもこのようにお金がかかってしまい、企業としてもそれを無視して自分達のビジネスのことだけ考えていればいい、という状況ではなくなってきているのです。
CO2排出量(Gt-CO2換算/年)
自分が所属している地域や会社のことだけではなく、ビジネスパートナーたちも含めて長く仕事を続けていくには、地球の資源について考え、気候変動をおさえて自然災害を減らすこと、そして生物多様性の維持なども考えていかねばなりません。
ブルーカーボン生態系は、これまでのこの連載の記事にあるように、CO2の吸収や貯留に効果があるという研究が進んでいます。そして海の生物多様性を守るためにも、海藻や海草はとても大切です。さらに国内外において藻場やマングローブ林・サンゴ礁の復活や維持は、防災・減災にも効果があるとされていますので、さきほどまでに書いたいくつかのリスクを減らすためにブルーカーボンがいかに重要かがわかると思います。
日本でも菅首相(当時)が2020年に「2050年カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現を目指す」と宣言し、あらゆる分野で脱炭素に向けた取り組みを進め、経済と社会に変革をもたらしていく考えを強調しました。
これからは国としてもさまざまな支援事業や金融政策を行うことでしょう。
これまで世界においても日本においても、社会の課題を解決するのは国や行政の仕事と思われていました。しかしそれでは色々な意味で課題の解決には至りません。
第3回コラム「「JBE」と「Jブルークレジット®」」の中で、JBEの桑江さんが「ものごとの社会実装には「ヒト」「モノ」「カネ」「シクミ」の4つをすべて揃える必要があり、ブルーカーボンの社会実装には「シクミ」と「カネ」が足りなかった」と書いていらっしゃいます。まさにその「ヒト」「モノ」「カネ」を大きく動かすためには「企業や投資家に頼る」こともやっていかねば、ということで世界ではSDGsやESGを前提としたが活発になり、企業が地域を応援する「シクミ」をつくったり、企業と地域をつなぐ「シクミ」がたくさんできたのです。
企業は、自分たちが排出しているCO2を自分たちの努力で削減できればいいのですが、そうもいかない場合が多々あります。そうなると誰かがCO2等を削減したという環境価値を購入し相殺(オフセット)するしかありません。
企業はブルーカーボンによる環境価値が欲しいのです。
数年前、私がブルーカーボンに興味を持ち始めた時は、日本では環境価値として正式に認められていなかったため、企業としては手を出しにくい状態でした。ここ2~3年で一気に仕組み化が進み、企業としての「関わりしろ」を作ってくださったことにはとても感謝しています。
この仕組みができてきたことで、ブルーカーボンに取り組む地域もどんどん増えてきました。
私が所属するヤフー株式会社では、2021年に企業版ふるさと納税を活用した「Yahoo! JAPAN 地域カーボンニュートラル促進プロジェクト(https://about.yahoo.co.jp/csr/donationforcarbonneutral/)」を立ち上げました。これは、国内の脱炭素化および再生可能エネルギー化への取り組みの一つとして、企業版ふるさと納税を活用し、地方公共団体が行うカーボンニュートラルに向けた取り組みを募集し、それに対して私たちが寄付を通じた支援を行う、というものです。
2021年度は10の地方公共団体へ総額2.7億円を寄付。そのうち半分の5つの地方公共団体(宮城県、新潟県、平塚市、尾鷲市、五島市)で、ブルーカーボンの取り組みを行っています。2022年度の寄付先についてはまだ公表できていませんが、今年度も引き続きブルーカーボン関連の取り組みに寄付をさせていただいております。
このようなお金の流れはこれまでありませんでした。企業が海藻関係の活動(藻場造成や養殖など)に寄付をするとか、海藻が吸ったCO2の価値を欲しがるなんて、10年前では誰も想像していなかったでしょう。
持続可能な社会をつくるためには、海も山も人も経済も全部つながっていることをみんなが理解し、力をあわせて良い流れをぐるぐると循環させ続けなければいけません。
ブルーカーボンについても、まさにこのリレーコラムに登場するようなみなさんがつながり、手を取り合うことがものすごく重要です。研究をする人、実際に海に潜る人、制度をつくる人、お金をまわす人。この循環の中には、ブルーカーボンのことやそれに関わる人たちを「知る人」も大切です。これを読んでくださったみなさんが、少しでもブルーカーボンに興味を持ち、それを誰かに伝えてくれたら、地域の活性や気候変動、生物多様性の改善にもきっとつながります。ぜひみなさんも、この循環の中に飛び込んでみてください。
(第14回へつづく)