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水産振興コラム
202210
ブルーカーボンで日本の浜を元気にしたい
第12回 NEDOでのブルーカーボンの取り組み
南 誓子
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス(GHG)の排出量を全体としてゼロにする)の実現に向け、様々な研究開発を行っています。2020年1月に策定された「革新的環境イノベーション戦略」において、国内でのGHGを削減するための行動計画が立てられました。その中に「ブルーカーボンの追求」が含まれ、海藻類等の新素材・資材として活用する技術開発が必要であるとされました。同年、経済産業省と農林水産省の協力の下でNEDO技術戦略研究センターにおいて調査事業「ブルーカーボン(海洋生態系によるCO2固定化)の追求に関する技術戦略策定調査」を行いました。この調査では、海洋へのCO2固定化の促進と海草・海藻の有効利用について検討しました。日本は古くより海藻養殖産業が盛んであり、世界トップレベルの技術・ノウハウを保有しています。特に食用海藻の種苗、養殖、加工、製品販売を含むサプライチェーン(一連の流れ)が確立していることも大きな強みと言えます。食用以外でも紅藻フノリ、ツノマタなどの抽出液が漆喰の混合材料(糊)として建材利用されてきました。今回の調査では、海草・海藻の利活用候補を整理しました(図1参照)。これまで積極的な利用がされていなかった海草などが、セルロース含量が多い(海草代表品種のアマモは約40%)ことからセルロースナノファイバー(CNF)への利用が候補に挙がりました。CNFは植物や木材を原料として、セルロース繊維を機械的に破砕・せん断処理することで作られる原料で、プラスチックなどの強度向上などで活用されています。日本は木質系CNFの開発において世界で先行しており応用展開が考えられます。海藻は褐藻由来アルギン酸(約30%)から汎用品、高付加価値品への生産が候補に挙がりました。アルギン酸は現在も世界各国で食品・医薬品・化粧品・繊維加工などに活用されています。

図1 海草・海藻の利活用候補 図1 海草・海藻の利活用候補

このように海草・海藻は食用以外でも様々な活用が期待されています。しかし過去にも研究開発が行われてきましたが、有用成分やバイオマスとして利用する場合は、原料となる海藻の安定供給やコスト面の課題がありました。そこで、海草・海藻の利活用への課題・対応策(案)について有識者と議論した上でまとめました(表1参照)。技術的課題としては、乾燥工程の効率化、工業用製品に向けた基礎研究、機能性評価、環境影響評価(ライフサイクル評価:LCA)の4つの課題が、制度的課題としては、クレジット制度の整備、漁業権との調整など2つの課題が挙がりました。制度的課題については、これまでのコラム中で取組みが紹介されていますが、技術的課題についてはまだ取り組んでいないものがあります。特に海藻採取―原料生産―製品生産の一連の工程におけるCO2排出量を把握するLCAが重要となります。これは、海草・海藻が吸収したCO2と海草・海藻を加工するときのCO2排出量のバランスも考慮する必要があるということです。

表1 海草・海藻の利活用への課題・対応策 表1 海草・海藻の利活用への課題・対応策

前述の課題解決に向けた取組みとして、2020年度NEDO先導研究プログラム「ブルーカーボン(海洋生態系による炭素貯留)追及を目指したサプライチェーン構築に係る技術開発」を行いました。その一部をここで紹介します。三重大学が取り組んだ「大型海藻類の完全利用に向けた基盤技術の開発」では、海藻の完全利用を目指し、有用成分抽出、付加価値の高い物質へ変換する生産プロセスの開発を行いました(図2参照)。褐藻ホンダワラからは、機能性ポリフェノール類(フロロタンニン類)とアルギン酸由来のアルギン酸デオキシ糖を、緑藻アオサからは、硫化多糖(ウルバン)を生産するプロセスです。いずれの有用成分も機能性表示食品や医薬品への活用が期待されています。また、緑藻アオサの異常繁殖である「グリーンタイド」の発生が環境問題となっていることから、グリーンタイドを有用成分に転換するための処理・加工方法としても有望です。

図2 大型海藻類の完全利用に関する研究開発構想(出所:三重大学提供) 図2 大型海藻類の完全利用に関する研究開発構想(出所:三重大学提供)
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日本製鉄を代表とするグループが取り組んだ「マリンバイオマスの多角的製鉄利用に資する技術開発」では、臨海製鉄所の近隣海域で海藻(マリンバイオマス)を生産するための育種技術の開発と、その海藻を製鉄プロセスの中で利用される炭素源(炭材や炭素材料)の代替素材として活用することを検討しました。この新たな炭素循環システムを構築することでカーボンニュートラル製鉄に貢献すると考えられます(図3参照)。

図3 製鉄所における新たな炭素循環システム(出所:日本製鉄ニュースリリース「マリンバイオマスの多角的製鉄利用に資する技術開発に着手(2021/05/25)」) 図3 製鉄所における新たな炭素循環システム
(出所:日本製鉄ニュースリリース「マリンバイオマスの多角的製鉄利用に資する技術開発に着手(2021/05/25)」)

これまでは海藻の利用が目的で行う海藻養殖は炭素吸収源として考慮しないとされてきましたが、農林水産省の委託事業「ブルーカーボンの評価手法及び効率的藻場形成・拡大技術の開発」において、生育期間中も炭素吸収源となり得ることが解明されつつあります(本連載10参照)。ブルーカーボンのクレジット化は、CO2吸収源である海草・海藻の生産・利用の活発化に寄与することが考えられます。これまで生産者の皆さんが築きあげてきた食用海藻の生産技術に、新たな技術を加えることにより、養殖されてこなかった海草・海藻の生産や新しい活用法が生まれることが期待されます。NEDOでは、これまで紹介した取り組み以外でも、海藻生産時の重労働を軽減できるような機械化・自動化および環境観測を行うセンサー技術など工学的技術開発の面からも貢献できると考えています。

第13回へつづく

プロフィール

南 誓子(みなみ せいこ)

南 誓子(NEDO)

1997年東北大学大学院農学研究科環境修復生物工学専攻博士前期課程修了。化粧品会社勤務を経て、2001年より株式会社山本海苔店・山本海苔研究所研究員。2011年 東北大学大学院農学研究科資源生物科学専攻博士後期課程修了、博士(農学)。2012年 株式会社白子(白子のり)研究開発センター研究員。2018年より国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)・技術戦略研究センター・バイオエコノミーユニット研究員。