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水産振興コラム
20229
ブルーカーボンで日本の浜を元気にしたい
第10回 南伊勢町でのブルーカーボンを活用する取り組み
山川 倫徳
三重県南伊勢町役場 水産農林課種苗センター

南伊勢町の漁業

南伊勢町の海域にて行われているブルーカーボンに関連する漁業としては、採捕漁業のうち、内湾にて行われるアワビ・サザエ等の採貝漁、ヒジキ・フノリ、ヒロメ等の採藻漁、養殖漁業では、アオサノリ、ヒロメになります。

その他の主な養殖漁業では、真珠、牡蠣、ヒオウギ貝、マダイ等の養殖が営まれております。

南伊勢町の海域で水揚される貝類・海藻類は年々減少傾向にあり、過去5年間の推移を考察すると貝類はおおよそ1/3程度、海藻類はおおよそ1/2程度にまで出荷量は落ち込んでいます。

出荷量の減少原因としては、東日本大震災等に起因する津波による養殖施設被害の影響を受けたこと、従事者の高齢化による離職、燃料代の高騰、藻場環境の変化に伴い漁獲量の変動が大きく生じる分野の漁業であること、近年ではコロナウイルスによる外食産業からの受注減少など多岐にわたる要因があげられます。

図1 貝類・海藻出荷量の推移(採貝漁・海苔養殖・採藻漁)
出典:三重外湾漁業協同組合各支部データ
写真1 南伊勢町ブルーカーボンに関連した商品(一例)

新規就業者

南伊勢町の水産業は主に採捕漁業(まき網、遠洋漁業、定置網、内湾漁業等の採る漁業)、養殖漁業(育てる漁業)により構成されています。

後継者、新規就業者の確保については、漁業法に基づく海面利用制度(漁業権)に関する規制について、2018年12月に同法の一部改正がなされ、新たな漁業就業の展開や新規参入事業者への門戸がより開かれることとなり、漁業参入へのハードルは下がりました。

今後は、「漁師塾」を活用した漁業活動に必要な経営管理知識・技術習得、各種制度資金の活用等により、若者の漁業への就業機会を増やしていくことができる環境が整いつつありますが、ブルーカーボンに関する漁業の新規就業者は、藻場再生事業の進行状況に関係してくるものと考えます。

表1 平成24年度—平成29年度の年齢別新規漁業就業者 出典:南伊勢町まちづくり推進課による調査

ブルーカーボン関連の経営体数の推移

南伊勢町のブルーカーボンに関連する漁業経営体は、東海農林水産統計年報によれば、採貝・採藻漁の経営体数は10年間で290経営体から254経営体となり、36経営体が減少しました。

採貝・採藻漁では、従事者の高齢化による離職、燃料代の高騰、藻場環境の変化に伴い漁獲量の変動が大きく生じる分野の漁業であることが経営体数の減少原因が考えられます。

養殖漁業でのり養殖については、町の特産品であるアオサノリ養殖が盛んに行われていますが、経営体数は減少傾向となっています。のり養殖の経営体数の減少原因としては、従事者の高齢化による離職や燃料代の高騰などがあげられます。

表2 種別経営体数の推移(採貝・採藻漁、のり養殖がブルーカーボン関連)

藻場再生への取り組み事例

南伊勢町では種苗センター(町直営施設)が中心となって、アワビ等の種苗生産・中間育成・放流等による水産資源の安定と増大に向けた「つくり育てる水産業」を実践し、持続可能な漁業を推進しています。

その育成場所となる藻場の再生については、平成30年度より、三重外湾漁業協同組合、漁業者、三重大学、中部電力株式会社とともに、当センターで母藻から種を採取後、ヒジキ種約1,927万粒を相賀浦地内にて、散布試験、スポアバック方式試験やヒロメ養殖の普及等を行いました。(注)

(注) スポアバック方式とは母藻を網袋等に入れ磯に散布・設置する方法で、当センターでは上記の種採取に使った後の母藻を使用しています。

当該区域試験においては、北側は順調にヒジキの新芽が確認されましたが、南側はムラサキウニやガンガゼ等の食害生物による影響が大きく、殆ど新芽が確認されませんでした。

そこで藻場再生については、食害生物の影響等を鑑み実施することが重要であることが当該試験によりわかり、3地域では水産多面的機能発揮対策事業としてウニ駆除の作業が行われ、7地域ではヒジキ種まき作業等、ヒロメ養殖、他藻類養殖を行っています。

また、南伊勢町での食害生物であるムラサキウニ、ガンガゼ、アイゴ等は、藻場造成の重要な藻類の新芽が育つ冬場の水温が上昇することによりにより、活動が休止することがなくなり、食害範囲が増え、天然藻類、養殖藻類等の沿岸海域の砂漠化(磯焼け)が進んでしまっています。

三重外湾漁業協同組合、漁業者による駆除も進められていますが、藻場の再生には食害生物の管理も最重要事項と位置付けとされています。

図2-1 平成30年度 相賀浦地内藻場再生試験(北側)
図2-2 平成30年度 相賀浦地内藻場再生試験(南側)
図2-3 ヒロメの試験養殖

南伊勢町の海藻養殖・藻場による二酸化炭素吸収量調査

令和3年度、三重大学とともに南伊勢町の海域における藻場・海藻養殖面積調査、生息海藻の種類調査を潜水、ドローン、船外機船、シーカヤックによる目視調査を実施、また海域藻場・海藻養殖による二酸化炭素吸収量把握、現状のブルーカーボンオフセット量積算を実施することにより、海洋植物資源による二酸化炭素吸収量を見える化を進めています。

南伊勢町の海域にて生産されたアオサノリ、フノリ、ヒジキ等の炭素量の分析を行い、1kgあたりの二酸化炭素吸収量を確認することで、水揚げされた収穫量からブルーカーボンオフセット量が把握されました。

表3 南伊勢町内で生産される海藻類の二酸化炭素固定化量(tCO2/年)

また、同校とともに実施した現況把握の為の潜水調査においては、多くの海域にて磯焼け状況が確認されており特に大型海藻類の減少が目立っています。

写真2 令和3年度潜水調査による磯焼けの状況と食害生物(ムラサキウニ等)

今後の方針

南伊勢町としては、高齢化問題、後継者問題など多くの問題があります。

また、現状の藻場の状態では、天然資源の減少、養殖資源の品質の悪化等が避けられないことから、この状況を打破し豊かな海を守り再生するため、水産種苗センター(町直営施設)を中心として現場に出向き、豊かな海を再生するため、三重外湾漁業協同組合、漁業者、大学等の研究機関、民間事業者等との協力により、南伊勢町が一体になり取り組む必要があります。今後、食害生物の駆除だけでなく有効活用を含めた対策やスポアバックの設置・種苗生産・藻類養殖等・藻場再生事業をさらに進めていき、関連産業を活発化することにより、ブルーカーボンとして活用して行きたいと思います。

第11回へつづく

プロフィール

山川 倫徳(やまかわ みちのり)

山川 倫徳(三重県南伊勢町役場 水産農林課種苗センター)

1965年生まれ
1983年 南島高等学校卒業 愛知県企業就職
1987年 地元(旧南島町)水産会社就職
1989年 旧南島町役場種苗センター就職
2005年 旧南勢町と合併により南伊勢町誕生
2020年 両種苗センター(南島種苗センター、南勢種苗センター)のセンター長となる。