水産振興ONLINE
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2021年9月

内水面漁協による環境保全活動について

玉置泰司(国立研究開発法人 水産研究・教育機構元中央水産研究所経営経済研究センター長)
坪井潤一(水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部 内水面グループ主任研究員)
阿久津正浩/高木優也/久保田仁志/吉田 豊/小原明香/山口光太郎/関森清己/星河廣樹/澤本良宏/傳田郁夫(主担当者)

第1部 中央水産研究所経営経済研究センター調査

国立研究開発法人 水産研究・教育機構
元 中央水産研究所経営経済研究センター長

玉置泰司

結果及び考察(つづき)

3. 内水面漁協への聞き取り調査の結果

郵送アンケートに回答した内水面漁協を訪問して、実際の活動の詳細について聞き取り調査を行った。他の漁協で環境保全活動を実施する際の参考にもなると考えられるので、事例紹介を行う。

A. 内水面漁協が今後実施したい環境保全活動上位3種について

現在未実施であるが将来やりたいとする漁協の比率が高かった上位3つの活動が「石倉・笹伏・投石等隠れ家造り」、「希少種の調査保護」、「河川環境改善」であった(表22)、これらの活動は、漁協がやりたいが実行困難な活動としても上位にある(表22、表49)。

表22 貴漁協での環境保全活動の今後の取組について [再掲]
資料:2017年内水面漁協アンケート
表49 内水面漁協が今後取り組みたい環境保全活動上位3種
資料:2017年内水面漁協アンケート

このため、2017年度の漁協アンケートで「石倉・笹伏・投石等隠れ家造り」、「希少種の調査・保護」、「河川環境改善(河床耕耘・瀬の造成等)」を実施していると回答した漁協を訪問し、活動内容の詳細について聞き取り調査を実施した。他の漁協で実施する際の参考にもなると考えられるので、事例紹介を行う。

(1) 石倉・笹伏・投石等隠れ家造り
① 埼玉県:埼玉西部漁協
ア.活動開始のきっかけ

2014年に埼玉県漁連から水産多面的機能発揮対策事業の説明があり、書類作成のサポートを県漁連が行ってくれるということから応募した。組合長が中心となり高麗川流域地区活動組織を作った。組織の構成員は漁協組合員29人、その他22人からなる。
1940年代には子供たちが川で石を積み上げ、ウナギを捕るなどの経験があったことが、石倉を実施することにつながった。当漁協では高麗川以外に越辺川もあり、越辺川は堰がないため、ウナギの遡上も可能であるが、越辺川の地区は組合員数が少ないため、堰があり現状ではウナギの遡上は困難であるものの、高麗川での活動となった。

イ.具体的な活動内容

石倉籠(ポリエステルでできた亀甲網(1m×1mで高さ50cmくらい)の中に20~30cmの石を並べて、重機でつり上げて河川内に設置する(図1)。高麗川横手地先右岸に、2014年11月14日に石倉6基(作業は漁業者15人+その他15人で実施。以下同様)、11月15日に石倉4基設置(漁業者13人+その他10人)。2015年は5月23日に高麗川栗坪地先に石倉10基設置(漁業者8人+その他9人)。2016年度からは水産多面的機能発揮対策事業の実施のためには交付金の地元負担が必須となったことから、この年は地元負担の手当ができず実施できなかった。翌年度は地元負担の手当ができて、2017年11月13日に石倉10基設置(漁業者10人+その他10人。なお、その他のうち3人はボランティアであった)。

図1 石倉の設置状況(埼玉西部漁協提供)

2018年2月11日に3基の石倉のモニタリング調査を行った(漁業者を中心に12人)。石倉籠を細かい網で下から覆えるように設定されており、石倉籠を覆ってから重機で持ち上げ、隠れている魚を採取しモニタリングできる。1カ所当たり81尾から795尾の生物(オイカワ、カジカ、ナマズ、ギバチ、エビ類等)が採取された。

ウ.水産多面的機能発揮対策事業予算

2014年度250万円(国100%)、2015年度150万円(国100%)、2017年度150万円(国105万円、日高市45万円)、2018年度100万円(国70万円、日高市30万円)。なお、この予算には (2) ① で説明する河川環境改善の予算も含まれている。

エ.事業実施上の問題点

石倉の設置について飯能県土整備事務所の理解がなかなか得られず、計画段階で埼玉県水研、県漁連、漁協で何度も打合せを行ってやっと許可された。その際、事業終了後撤去しなければならなかったが、撤去費用は事業費には含まれていない。多面的事業は2016年度から市町村負担ができないと実施できないように変更された。このため2016年度には市町村負担の手当が間に合わず、一度途切れることとなり、前年度までに設置した石倉も撤去せざるを得なかった。2014年度・2015年度に設置した石倉の撤去には、重機の借り上げ費用7万円と人夫賃8人分48,000円を要した。この際県漁連で、撤去した石倉に生息している魚類の生息調査費用5万円を負担したが、残る68,000円は組合長の個人支出となった。また、設置する石倉の大きさが指定されているが、指定されている大きさ・構造では重機で設置せざるを得ないため、重機が乗り入れられる場所にしか設置できない。サイズはもっと柔軟に対応できるよう要望があった。

② 岩手県:豊沢川漁協
ア.活動開始のきっかけ及び実施内容

県の土木工事に際して、漁協から工法等について要望を出すようにしている。護岸工事をコンクリート造りではなく、2トン入りの石積みネット(目合4~5cm)にしてもらうようにした。県は当初は認めなかったが、国交省が北上川の堤防が破れたところでそのような工事をやっていたことを知っていたので、指摘した結果、県も国がやっているのであればと認めてくれた。
これとは別に、砂止め堰堤について、コンクリートではなく木工沈床(丸太を井桁に組み石を詰めたもの)にするように要望し、実現した。

③ 青森県:三戸漁協
ア.活動開始のきっかけ及び実施内容

青森県の三八地域県民局から河川護岸工事の設計の段階で漁協に相談があったとき、コンクリートの打ちっ放しではなく、コンクリート枠の中に石を詰める形にしてもらうように要求し、実現した。

④ 広島県:西城川漁協
ア.活動実施内容(石倉)

大水の時、魚の避難場所がないので、県の建設局庄原支局に頼み、石倉を組んでもらった(図2)。

図2 西城川漁協の石倉
イ.事業実施上の問題点(②~④共通)

あくまでも県の実施する工事なので、漁協からはお願いする形でしか実現できない。

⑤ 群馬県:吾妻漁協
ア.活動実施内容(笹伏)

アユの放流直後に竹を10本くらい川に入れる。河畔の石や木に結びつけて設置する。10人位での半日の作業。山から竹を切り出し、トラックで運ぶ。作業賃として1人1回1,000円位を支払っていた。アユの解禁時には撤去する。

⑥ 宮崎県:祝子川ほうりがわ漁協
ア.活動実施内容(投石)

アユの漁期が始まる前に、河原の水がない場所から大きな石を運んで投石する。漁協役員やアユの漁業権を行使する組合員など10人程度で実施。1回2~3時間位の活動。

⑦ 兵庫県:加古川漁協
ア.活動実施内容(石倉)
(ア)水産多面的事業での実施

2015年度に加東市の東条川にある松沢堰付近に石倉2基を重機で設置した。1m四方で高さ0.5mほどの大きさである。籠に入れる石は30cm以下としている。5人で5時間ほどの作業であった。2基設置後はモニタリングを定期的に実施している(図3)。モニタリングではウナギがいる時といない時がある。モニタリングは重機で引き上げて中のチェックをして同じ場所に設置する。加古川は本流に堰があるので、ウナギの遡上は難しい。天然遡上よりも放流したウナギの住処となっている。

図3 石倉のモニタリング(加古川漁協提供)
(イ)水産庁事業「2017年度鰻生息環境改善支援事業」での実施
ア)実施状況

2017年の5月に県内水面漁連から事業の説明があり、2016年度に全国で11カ所に設置され、兵庫県内でも揖保川漁協で設置されたとの説明があった。九州大学望岡准教授など4名の外部専門家による検討会を開催し、望岡准教授は候補水域の現地確認や7月10日の設置時の作業にも立ち会った。設置は加古川市西川の西川橋周辺として重機により10基を設置した(図4)。1基13万円であった。作業に2時間を要した。

図4 石倉の設置状況(加古川漁協提供)

その後2017年7月26日に第1回目のモニタリングを行い、設置場所を河川中央よりに移動した。モニタリングでは530gの魚介類を確認できたが、ウナギは目視にとどまった。同年9月24日に2回目のモニタリングを実施した。933gの生物が確認され、ウナギ1尾(70g)も採補できた。

イ)問題点

当初はウナギの漁場近くの下流地区を想定していたが、事業において設置場所についてはウナギが住み難い所という基準だったため、加古川支流の上流部分となった。結果としてモニタリング時に確認されたウナギは少なかった。設置場所は平常水位が30cm前後のため、石倉籠の上部10~15cm程度は露出状態となった。2017年11月から加古川本流下流の堰堤の改修工事により2018年3月10日の工事完了まで水面が下げられ、石倉籠は露出状態となった。

⑧ 新潟県:魚沼漁協
ア.活動実施内容(石倉)

砂防堰堤により石の供給がなくなった。土砂浚渫の際に、巨石を業者においてもらう(図5)。

図5 魚沼漁協石倉設置状況
⑨ 群馬県:上州漁協
ア.活動開始のきっかけ(笹伏)

カワウの飛来が多く、放流アユの食害が多かったので、糸を張ったり、花火で威嚇したがあまり効果が無かったので、10年以上前から笹伏を開始した。

イ.実施体制

支部毎に実施している。各支部最低10人位参加する。漁協の単独事業。弁当やお茶は漁協負担。

ウ.具体的な活動内容

設置現場近くで真竹を切り出して、場合によってはトラックで運搬し、ロープで結んでいかだに組んで、河床部に打ち込んだ鉄骨と結び、笹伏を設置している(図6)。放流前に設置し、解禁前に撤去する。鉄骨は2m近くあるものをハンマーで打ち込むのだが、鉄骨を押さえる手を誤ってハンマーで打たないように、また細い鉄骨の頭をハンマーでうまく打ち込めるように、鉄工所で手作りの道具を作成した(図7)。真竹を切り出してから設置まで2日がかりで、撤去も2日の作業になる。撤去した竹は細かく切断して腐らせる。

図6 笹伏設置状況(上州漁協提供)

図7 鉄骨と自作の打ち込み補助具 2種類
エ.活動の問題点・課題

設置後に大雨が降ると流されてしまうことがある。国交省に撤去するように要請されたこともある。

(2) 河川環境改善(河床耕耘・瀬の造成等)
① 埼玉県:埼玉西部漁協
ア.活動開始のきっかけ

2014年に埼玉県漁連から水産多面的機能発揮対策事業の説明があり、書類作成のサポートを県漁連が行ってくれるということで応募した。組合長が中心となり高麗川流域地区活動組織を作った。組織の構成員は漁協組合員29人、その他22人からなる。河床耕耘については、石が砂に埋まり、水生昆虫や魚の隠れ家がなくなり、鮎の餌の付着藻類も付かなくなるため、石を砂から掘り出す作業が必要となった。

イ.具体的な活動内容

砂から石を掘り起こすような活動で、重機による耕耘と、人手による鋤簾を用いた耕耘を平行して行った。2015年6月13日に高麗川横手地先650m2を実施(漁業者10人+その他8人)。2015年8月8日に高麗川栗坪地先650m2を実施(漁業者8人+その他6人)。2017年12月17日の午前に高麗川北平沢地先650m2、午後に高麗川横手地先650m2を実施(漁業者9人+その他5人)。

2017年度の例では、11月6日に事前モニタリングとして50cm×50cmの川床から石の下にいる川虫などを採集した。12月17日に河床耕耘を実施後に、2018年3月3日には事後モニタリングとして、河床耕耘を実施した場所と対象区で同様に生物モニタリングを実施した(漁業者を中心に12人)。多面的事業の予算は(1)①の石倉で説明した中に含まれている。

② 三重県:銚子川漁協
ア.活動開始のきっかけ及び実施内容

漁協の事業ではないが、県に漁協と地区が陳情して河床に堆積した土砂を重機で除去してもらっている。地区としては洪水の危険があるからとして要望する。工事は、水が少なく魚もいない冬期間に実施。

③ 青森県:三戸漁協
ア.活動開始のきっかけ及び実施内容

青森県の三八地域県民局から中州の河床掘削について漁協に相談があったとき、中州の掘削を行うときに、30cm以上の石は中州に戻すことを要求し、実現した。

④ 群馬県:吾妻漁協
ア.活動開始のきっかけ及び実施内容

河川の護岸工事の際に、川の流れを止めて実施するが、工事終了後の川の流れを漁場として良い形になるように工事業者に依頼している。

⑤ 岐阜県:郡上漁協
ア.活動開始のきっかけ及び実施内容

県土木が発案した「ベストリバー事業」を2006年から開始した。県と漁協、地元、用水組合、自治会で話し合い、河床の改善を行っている。コンクリートは使わず、「土佐積み」という方法で石組みを入れている。2017年台風が直撃したが、十数カ所の内、石が崩れたのは4カ所だけであった。

なお、通常の土木工事においても、河川工事等調整会議を開催し、土木事務所、漁協、建設協会で話し合い、工期の変更等の要望を行っている。

⑥ 石川県:白山手取川漁協
ア.活動実施内容

新幹線の架橋工事等で建設業者の重機が入った際に、業者に依頼して泥がかぶった石を掘り起こしてもらう。また、9月の産卵時期に「手取川を愛する会」で、ボランティアが川に入って石の表面の泥をはく。会のメンバーは、漁協職員・組合員以外に市役所や工事関係業者など。

⑦ 宮崎県:延岡五ヶ瀬川漁協
ア.活動実施内容

毎年秋になると、アユの瀬付漁のため、アユの産卵場を作る。トンネル等の工事業者に、大きな石が出たときはダンプで河川敷に運んでもらい、秋まで保管しておき、ユンボで運びながらならして瀬を作る(図8)。瀬付漁は、夕方から夜にかけて、船上あるいは徒歩でアユを引っかけて獲る。

図8 五ヶ瀬川の瀬付漁場
⑧ 宮崎県:祝子川漁協(堆積土砂の撤去)
ア.活動実施内容

台風などで砂利や木が流れてきて蓄積し、川幅が狭くなっているところを、土木工事の許可を県から得て、土木業者に頼んで重機を入れて砂利等を撤去する。組合員12~13人位も手作業で手伝う。

⑨ 山形県:最上漁協(堆積土砂の撤去)
ア.活動実施内容

鮭川にある石名坂頭首工(図9)は、5~9月に閉鎖する。前面に中州があるため、右岸側を進むと左岸側にある魚道にたどりつけない魚が多いため、県に依頼して中州を撤去してもらった。

図9 鮭川の石名坂頭首工(最上漁協提供)
⑩ 秋田県:鷹巣漁協(河床耕耘)
ア.活動実施内容

水産多面的事業により、河床耕耘を実施した。多面的事業サポーターの指導を受け、秋田県水産振興センターにもアドバイスを受け、川幅10mの所、左岸側の半分幅5mを100mほど4時間かけて重機で実施。その後人力により10人以上で2時間手作業により石を運んだ。

⑪ 和歌山県:有田川漁協(堆積土砂の撤去)
ア.活動実施内容

二川ダムの下流に土砂が堆積するので、県に要望して撤去をしてもらう。その際、川にあった大きな玉石はアユのために残すようにお願いしている。撤去土砂量は年間3万立方メートルで、年間1億5千万円の予算を使っている。

⑫ 和歌山県:玉川漁協(堆積土砂の撤去・淵の造成)
ア.活動実施内容

山が荒れて山の土砂が川に流れ込み、淵がなくなったので、県の補助により重機で土砂を取り除き、淵を再生した(図10)。

図10 重機による淵の土砂の撤去(玉川漁協提供)
⑬ 新潟県:糸魚川内水面漁協
ア.活動実施内容

国交省による河床の土砂撤去や瀬替えの際に、湾処を残したり、大きな石を残すようにお願いしている(図11)。

図11 河床浚渫の際に残した石
⑭ 高知県:仁淀川漁協
ア.活動実施内容

国交省に川砂利の採取をやめて欲しいと要望を続けていたが、代替措置として、河川に石を入れて瀬を造ってもらうようにした。1個数トンあるような石を重機でアユ友釣り専用区に入れてもらった。

⑮ 高知県:奈半利川淡水漁協
ア.活動実施内容

2018年の台風で河床に土砂が流れて埋まってしまった。このため、県安芸土木事務所に依頼して撤去をしてもらった。重機で掘り起こしたが、細かい土砂は取り除くが、大きな石は残すようにした。

⑯ 高知県:芸陽漁協
ア.活動実施内容

2018年7月の西日本豪雨により、伊尾木ダムが壊れて大量の土砂が流出し、河床に堆積した。県の土木事務所に依頼して、細かい土砂を浚渫してもらった(図12)。なお、大きい石、丸石などは残してもらう。

図12 河床浚渫工事の現場
⑰ 愛知県:豊川上漁協
ア.活動実施内容

アユの不漁が続き、釣り客も減った。原因として流下してくる砂利が少なくなり、河床が固まったためだと考え、2016年に漁協の単独事業で重機により河床耕耘を行った。2017年は漁協役員を中心に10人ほどでつるはしを用いた手作業により河床耕耘を行った。2018年も計画していたが、台風で中止となった。2019年度から水産多面的機能発揮対策事業の補助を受け、5月と10月に手作業で実施した。5月は10人程度、10月は20人程度で実施した。10m×20mくらいの範囲で実施した。河床耕耘を行った場所は、ウグイ、オイカワ、アユの産卵場として利用される(図13)。

図13 河床耕耘(豊川上漁協提供)

10月の河床耕耘では多面的事業実施団体である「豊川上水辺保全会」メンバーである当漁協の役員・組合員約10人以外に、上流部の他漁協(寒狭川下漁協)の組合員約10人や環境保護団体(豊川を守る住民連絡会議)の一般市民約5人もボランティアで参加した。当日は朝、集会場に集まり、作業の確認のための座学を30分程度行い、川での作業は1時間程度であった。作業終了後川原で30分程度反省会を行った。

イ.問題点

2019年度から水産多面的事業により補助を受けられるようになったが、ボランティアで参加する他漁協の組合員や環境保護団体の市民には日当が支払えない。河床耕耘により濁り水が下流に流れるため、下流の漁協から抗議があることもある。

⑱ 愛知県:下豊川漁協
ア.活動実施内容

アユの産卵場の浸食が起こり、畑までも浸食しそうになったので、国交省河川事務所に依頼をして、重機を用いて瀬替えをしてもらった(図14)。瀬替えをして1年目は良い産卵場ができたが、2年目は台風による土砂が流れてきて浅くなってしまった。このほか、橋の近くに島ができてしまったので、重機を用いて土砂を撤去してもらった。

図14 瀬替えの様子(下豊川漁協提供)
イ.問題点

近年は豪雨が多くなり、重機を用いた河川環境改善でも効果が長続きしない。河川事務所は漁協の要望を取り入れてくれるが、予算の制約ですべての要望を聞いてもらえるわけではない。

(3) 希少種の調査・保護
① 三重県:大内山川漁協

瀬替えの工事で水がある場所の水をなくす前に、魚族の保護を行う。また、天然記念物ネコギギの調査を行う。

② 岩手県:西和賀淡水漁協
1)ハナカジカ
ア.活動開始のきっかけ

ハナカジカ(岩手レッドデータブックBランク・環境省:絶滅の恐れのある地域個体群)の生息調査を実施している。カジカは漁業権対象種となっており、ヤスで突いたりして漁獲されている。ハナカジカもカジカと見分けが付きにくいので、混獲されてしまう。一方、カジカとハナカジカは生息域が分かれているため、ハナカジカのいる水域を特定して、そこでのカジカ漁を控えるようにしたいと考えた。なお、組合長は、カジカは荒れる川に生息するが、ハナカジカがいる所は暴れない川なので、河川災害がない水域の指標生物としても考えている。漁協から地域の河川災害の指標として発信していきたい。

イ.具体的な活動内容

5~7月の産卵時期に、15くらいの定点調査を5日間くらいかけて実施している。組合長が主体で他は2名くらい。調査結果については、岩手県の振興局にも情報提供を行っている。

なお、ハナカジカはペットショップでは1尾1,800円くらいで販売されているため、生息場所がわからないように内部資料として扱っている。

(組合長は以前コンサルで環境調査・地域の生物調査をやっていたので、調査については経験を有していた。)

ウ.事業実施上の問題点

組合員が少ない(正組合員35人)。このため、釣り人にかなり協力をしてもらっている。ハナカジカは希少種の指定で採捕調査ができない。

縦割り行政で、ハナカジカについても横断的に話がされていない。環境省、県水産部局、県自然保護課、県土木部局等それぞれ立場が違う。

2)マツカサガイ
ア.事業内容

県単事業「中山間ふるさと水と土保全対策事業湯田西の堤地区」で実施。県の農村建設課の事業であり、ため池内の電気ショッカー及び池干しによるブラックバス駆除(289尾)とともに、ため池下流のマツカサガイの保護のための調査を実施した。マツカサガイは数年前に500個体が移植されたが、二枚貝の繁殖に必要な魚類の減少により成貝3個しか確認されなかった。

③ 岐阜県:恵那漁協
ア.活動実施内容

活動対象としているアジメドジョウは、漁業権対象魚種であり、一般的な希少種とは異なるかもしれないが、地元では希少な漁業権対象種として認識しているので、ここで紹介する。当漁協では、アジメドジョウについて、30年以上前から漁業権行使規則及び遊漁規則により、アジメせんの漁場がある付知川で禁漁区の設定を行っている(他の河川でも禁漁区を設定しているが、元々アジメせんが行われていない)。恵那漁協ではアジメせんの許可は20統有り、現在16許可が13人によって行使されている。13人の内、30~40代の若手も4人位いる。なお、アジメせんを行う人は、他の漁業は行うことができない。アジメせんは、産卵時にわき水の涌く穴に入り込んでくる物を漁獲する漁法であるため、産卵魚の保護措置である(図15)。漁期は9/1~11/30である。なお、恵那漁協ではアジメせん以外に「その他うけ類」の許可は一切無い。

図15 アジメせんの漁具
④ 岐阜県:郡上漁協
ア.活動実施内容

長良川上流に、アジメドジョウ、カジカ、アカザの禁漁区を設定している。なお、3種のうちアカザ以外は漁業権対象種であるが、アジメドジョウでの取組について恵那漁協と同様な理由で紹介する。当漁協ではアジメドジョウだけの禁漁区は昭和50年代半ばには既にあった。種苗放流ができないので、禁漁区を作るようにとの県の指導だったのではないかと考える。さらにアジメドジョウについては、15年くらい前から、アジメせんを隔年で全面禁漁にしている。アジメせんの許可は40位あるが、2018年は14名が実施した。アジメせんは、1人1カ所のみの操業に制限している。隔年全面禁漁を開始して5~6年経過してから、目に見えてアジメドジョウが増えてきた。隔年全面禁漁は漁協の指導で開始した。役員全体で合意した。なお、アジメせんを全面禁漁している年でも、ヨシノボリを主対象とした「のぼりおち」と「のぼりうえ」漁法でのアジメドジョウの禁漁は行っていないので、アジメせん隔年禁漁への漁業者の大きな抵抗はなかった。アジメせんの漁業者は高齢者が多い。平均年齢は70歳位である。

以上の(1)~(3)の3つの活動について、活動実施状況を整理してみた(表50)。石倉・投石等隠れ家造りと河川環境改善については、実施に多額の費用を要するため、県の土木工事に際して要望を出したり、建設業者に協力を得て実施する事例が多かった。石倉については水産多面的機能発揮対策事業等補助事業による事例も見られた。笹伏せについては、漁協独自の実施も見られた。

表50 3つの環境保全活動実施状況
資料:聞き取り調査