1. はじめに
銚子市沖における洋上風力発電事業の取り組みについて、リレーコラムを担当する銚子市漁業協同組合(銚子市漁協)の坂本雅信です。
日本有数の漁場である銚子市沖において進めている風力発電事業の取り組みについて、銚子市外川沖で行われた東京電力の試験事業を通じた知見や経験、地域との関わり、その中での漁業との共生、漁協組織の役割などについて紹介するとともに、漁業や漁協の将来の可能性としての洋上風力発電への向き合い方などについてもお話しさせていただき、なぜ銚子が洋上風力に取り組むのかについて紹介したいと思います。
2. 我が街、我が港銚子
銚子市沖は、水深200mの大陸棚が広がり、北上する黒潮と南下する親潮、そして利根川の流入による交錯で日本有数の好漁場です。全国の旋網やさんま棒受網、沖合底曳網漁業などの大型漁船漁業から、釣り、延縄、小型底曳網漁業などの小型漁船漁業に至るまで、様々な漁業が営まれて、銚子漁港は全国一の水揚げを誇っています。水揚げされる魚種は、サバ、マイワシ、サンマといった多獲性魚のほかに、カツオ、マグロなどの回遊魚、キンメダイやヒラメ、カレイなどの底魚など約200種類に及ぶ近海の魚介類が水揚げされます。
銚子の漁業は、今から約350年前の江戸時代、紀州の漁師たちが魚を追い求め、外川漁港を築いて移り住んだことにより大きく発展しました。現在の銚子漁港は、日本各地の漁船を受け入れる漁業基地として大きな役割を果たし、全国一の水揚量を誇り、年間約20~30万トンの魚が取引される漁港です。漁港に水揚げされた魚は、銚子市漁協が開設する利根川河口に設けられた第一・第二・第三卸売市場にて取引され、水産業者を経由して、国内外へと運ばれていきます。
銚子漁港には、周年水揚げされる「生」マグロ、5~7月のマイワシは脂が乗る「入梅イワシ」、沖底船で獲られるヒラメやヤリイカ、外川の漁師が漁獲するブランド化したキンメダイ(「銚子つりきんめ」)など、この地ならではの魚が水揚げされています。
また、現在の銚子市漁協は、1996年に銚子地区の6漁協(銚子市、銚子市黒生、銚子市外川、銚子市西、銚子市川口、千葉県小型機船底)が合併した組合で、それぞれの地区は特徴ある漁業実態や地域ごとの特色を持っています。
そして、銚子は水揚げされる大量の魚を捌く仲買業者や加工業者、冷凍・冷蔵業者、それを運ぶ運送業者、新鮮な魚料理を提供する飲食業者、それを楽しみに集まる人を受け入れる観光業者などが漁業を中心として銚子市の経済の一翼を担っています。
3. 銚子市沖のポテンシャルの高さ
外川沖で、2009年8月から2017年3月までの約8年間にわたって、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)と東京電力(株)等の共同事業により、沖合約3km地点において、沖合で国内初となる洋上風力発電設備の実証研究が行われました。
この実証研究にあたっては、私たち漁業関係者と発電事業者の間で操業や航行にあたり、影響が最小限になる設置場所の調整が行われ、実施することとなりました。
https://www.tepco.co.jp/rp/business/wind_power/offshore.html
この実証研究では、洋上における風況(=風の状況)や潮流、塩害に対する風車の耐久性の確認のほか、地震や台風といった日本の厳しい自然環境に対する安全性、洋上風力発電が海洋生物や海鳥にどのような影響を与えるかという調査も行われました。
また、同時に、銚子市沖は風況が良好であることや遠浅の地形が続くことなど、着床式洋上風力発電に対するポテンシャルが非常に高いことも判明しました。
なお、発電設備については、実証研究終了後に撤去される予定でしたが、私たち漁業関係者などの先行利用者との協議を経て、運転を継続することとなり、2019年1月1日から東京電力ホールディングス(株)による商業運転が行われています。
4. 漁業への好影響を期待
外川沖での洋上風力発電設備の実証研究の結果、この海域は前述の通り洋上風力発電に適した場所であることが判明したことで、発電事業者等からの問い合わせや売り込みなどが多く寄せられるようになりました。
漁協としては、発電設備が漁場に設置されることから、漁業操業の実態に基づき、漁業活動を理解・尊重すること、また、漁業を中心として銚子の水産業や地域振興が支えられていることから、漁協が水産都市銚子の将来を見据えて洋上風力発電を進めることを検討の基本としました。実施に当たって、風車設置から30年にわたり当該海域を利用することになることからも、そのつきあい方として漁業にとって好影響を与えること(増殖効果、養殖利用等)や、漁業者のみならず地域全体にその効果が裨益されること、そのために銚子市全体が協力して共存共栄していくことを目指しました。
5. 漁業との共生・協調・振興で取り組む
海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下「法」)については、本リレートーク第3回「再エネ海域利用法と漁業の関係」(冨樫真志氏)で紹介されているとおり、2019年4月に施行しました。それ以前から銚子市沖での風力発電事業の取り組みは、前述のように検討が進められていました。そこで、銚子市沖について、法第9条第1項に基づき、2019年11月に千葉県銚子市沖における協議会が設置され、法第8条第1項に規定する促進区域の指定、及び促進区域における発電事業の実施に関し必要な協議が行われました。
協議会の意見として、発電事業を実施することにより、漁業操業、既設海洋構造物の運営及び船舶の航行など海域先行利用の状況に支障を及ぼさないことが見込まれることとして、着床式洋上風力発電に係る促進区域として指定することに異存ないとしました。
また、指定に当たっては、①長期的、安定的かつ効率的な発電事業の実現、②海洋の多様な利用等との調和(漁業等との共存共栄を含む。)、③公平性・公正性・透明性の確保、④計画的かつ継続的な導入の促進の4つの目標の実現に向けて適切な対応を行うことなどの留意事項を定めており、これら事項は銚子市沖での洋上風力発電事業の実施、運用、廃止等の基本となるものです。特に、漁業との共存共栄の理念のもと、銚子市沖の海域において操業される漁業との協調・共生・振興の取組を実施するために、地元自治体が基金を設置し、適切に運用していくとしています。
〔主な留意事項〕
- 漁業との共存共栄の理念について理解し事業実施の各段階で関係漁業者の理解を得る。
- 地元との共存共栄の理念や事業が地域における新たな産業、雇用、観光資源の創出などの価値を有することについて理解し、地元自治体との連携、港湾の活用などで地域創生に努める。
- 発電事業による漁業への影響について十分に配慮するため、漁業影響調査を行うこと。
- 漁業との共存共栄の理念のもと、銚子市沖の海域において操業される漁業との協調・共生・振興の取組を実施するために、地元自治体が基金を設置する。選定事業者には当該基金及び一般財団法人千葉県漁業振興基金への出捐を求める。
- 基金の設置、運用(基金を通じた取組の実施を含む。)に際して、公平性・公正性・透明性の確保等に配慮する。
- 洋上風力発電設備等の設置等に当たり、銚子市沖の海域において操業される漁業への支障を十分考慮し、関係漁業者への丁寧な説明・協議を行う。
- 発電事業を終了するときは、原則として洋上風力発電設備等の撤去を行う。ただし、当該洋上風力発電設備等が漁場形成の機能を有している場合などにおいて、関係漁業者等の同意を得た上で、海洋 環境保全にも十分配慮し、関係法令を遵守した上で行う場合においては、当該洋上風力発電設備等の一部の残置も認められる。
注銚子市沖における協議会とりまとめ意見
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/dl/kyougi/chiba_syoshi/03_data02.pdf
2020年7月21日付けで、法第8条第1項の規定に基づき、千葉県銚子市沖に係る促進区域が指定され、同年11月27日には、経済産業省及び国土交通省において公募占用指針が定められ、公募が開始されました。公募受付は5月27日までで締め切られており、近々に事業者が選定されることとなります。
6. 漁業を将来に繋ぐ
銚子が洋上風力発電を推進する理由として、①東日本大震災による福島の原子力発電所の事故で、千葉県の漁業者も大変な被害を被ったということ、②それによる原子力発電から自然エネルギーへの転換を推進すべきという国の方針に対して一定の理解をしていることが挙げられます。漁協は外川沖の実証実験での経験や結果を踏まえて、銚子が洋上風力発電の開発と漁業の共存共栄のモデル的な地域になれればとの思いでこの事業を一緒にやっていきたいと考えています。漁業振興を図るための基金への出捐金は漁業に対する補償ではなく、漁業を中心とした水産都市銚子として共生していくためのものと思っています。そのために、事業者が決まってから、発電前までの間に漁業が洋上風力と共生していくための様々な施策、調査を行い、当該調査に基づいて新しい共生策を作り、その共生策に基づいて様々なことに出捐金を活用しようと考えています。
また、漁協と商工会議所、銚子市が連携した、「銚子協同事業オフショアウインドサービス株式会社」(※)に関しては、この地域にして、どれだけの仕事を生み出せるのか、漁業者に対してどのような形で一緒に仕事をやっていくことができるのか、という点を踏まえた上で、漁協としても主体的に進めることが大切と思っています。
※銚子市沖洋上風力発電事業に関するメンテナンス会社
https://www.pref.chiba.lg.jp/sanshin/ocean-re/documents/03-1-2_choshi-city.pdf
我々の漁協系統団体では金融や保険を扱っています。事業実施に当たっては、このような系統団体があることも説明しています。また、事業実施を行う上では、設備建設工事期間中のリスクや風車運転中の事故やそれによる漁船や漁業施設等への損害の補償、漁業や漁場へ影響が出た場合の対応が漁業者にとって重要な事項で、安全・安心のためには事業者の保険加入は必須です。
漁協系統で共済(保険)を実施する全国共済水産業協同組合連合会(共水連)と協力して、漁業者の不安を少なくするために何かあった場合の保険加入について検討し、共水連と漁協が万全の補償提供を行う仕組みを構築しました。洋上風力発電事業と漁業との協調を進める上では漁業者が集い、漁業を議論できる器として漁協の役割は大事で、共水連の保険加入の仕組みも活用できればと思っています。
銚子市沖で長期間にわたり事業を行っていくため、漁業者と事業者が互いに信頼しあい、良好な関係を続けていくことで、将来において我々の子供たち、孫たちが銚子市沖で漁業を続けていくことができ、事業者にとっても、本事業終了後にまた新しい事業を始められるように進めていくことが大切と考えています。(第9回へ)
大勝丸(だいかつまる) 田村昌義(たむらまさよし)さん