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水産振興コラム
20217
洋上風力発電の動向が気になっている
第4回 再エネ海域利用法と漁業との関係
冨樫 真志
前水産庁計画課計画官(現国際課捕鯨調整官)

1 はじめに

私は、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下「再エネ海域利用法」という。)の検討から実際に同法に基づく数県の協議会が設置されるまでのプロセスに水産庁の窓口として携わった者として、今回、「再エネ海域利用法と漁業との関係」というテーマでリレーコラムを担当します。

2 再生可能エネルギーの利用について

東日本大震災における原発事故を受けて、水産業や漁村においても風力や太陽光等の再生可能エネルギーの利用など自立・分散型の電力供給の必要性が高まり、また、こうした再生可能エネルギーの地域資源の活用は、水産業・漁村の活性化にも一役買うものであったことから、水産庁では、再生可能エネルギーを活用することで水産庁の施策にも反映可能な事項を検討するため、2011年11月に「漁港・漁村における再生可能エネルギー活用検討チーム」を設置し、各方面から寄せられる課題に対応してきました。

その後、経済産業省等の再生可能エネルギー施策が進むにつれ、民間事業者による洋上風力発電事業の事業計画が増加していくこととなりましたが、そこは海での話であり、漁業生産の場でもあることから、漁業者がステークホルダーとして注目を集めるようになりました。

そこで、チームでは、計画が進められる海域において、漁業者・漁協と発電事業者の間で相互理解を構築するために、主に発電事業者側に対して、我が国の漁業や漁場利用の実態について、機会ある毎に説明を行ってきました。

こうした結果、発電事業者には、我が国の沿岸海域には多種多様な魚介類に合わせて、多種多様な漁法が存在することについての認識が深まり、発電事業者と漁業者との間で無用なトラブルを回避することにそれなりにつながったのではないかと思います。

3 再エネ海域利用法の検討・調整について

施策を推進していく中において、安定的な事業実施に必要な長期にわたる海域の占用を実現するための統一的なルールや、漁業者等の先行利用者との調整に係る枠組みが存在していなかったこと等の課題の解決がニーズとして存在していたことから、国会での審議を経て、2019年4月に再エネ海域利用法が、内閣府、経済産業省及び国土交通省の所管のもと、施行されました。水産庁は本法においては関係省庁として、再生可能エネルギーの利用の重要性の観点から、漁業との協調を基本として漁業に支障が生じないよう、漁業者の意見も踏まえて調整に努めていくこととなっています。

再エネ海域利用法が国会で審議される前の制度の検討段階において、同時に内閣府をはじめとする所管省庁と、関係省庁や全漁連をはじめとする関係漁業者団体(以下「漁業者団体」という。)との間では精力的な議論が行われていました。

所管省庁から再エネ海域利用法の検討内容の説明を受けた漁業者団体は、海域の先行利用者である漁業者が納得できるような制度とすることや、漁業との協調を図ることなどについて水産庁を通じて要望しました。

具体的な漁業者団体からの要望内容は次のとおりです。

  • 関係漁業者の同意がなければ、促進区域の指定は行われないことを、基本方針や法文上で明確にすること。
  • 環境や漁業への影響評価については、従来の環境アセスメントの実施に加え、事業者に漁業への影響調査を義務付け、水産庁・関係漁業者への結果報告を行うこと。
  • 事業の実施について協議を行う「協議会」には、利害関係者として漁業者を含むことを明確に定義した上で、幅広い関係者を構成員とすること。
  • 占用計画等の認定については、発電設備の規模や送配電網の敷設等の概要を明らかにした上で、漁業との協調が明確に図られていることを認定の条件とすること。
  • 関係漁業者に影響を及ぼす場合に、発電設備設置後も含め、事業者が責任をもって補償等必要な措置をとることを明確にすること。
  • 促進区域内海域の占用等に係る許可にあたっては、関係漁業者の同意を得ることを前提とすること。

政府が推進していく施策とはいえ、海域の先行利用者である関係漁業者側に立てば、新たにできる法律に基づいて整備が進められるであろう洋上風力発電事業は、漁業を続けていく上での不安材料になる要素も多く含まれるとの思いもあり、漁業への支障を生じさせないことや漁業者が協議会に参加することなどにより、漁業との協調が図られるよう、漁業者団体として、この要望項目を提示したものです。

漁業者団体から出された要望については、関係省庁間における各省協議プロセスの中で調整を行っていくこととなり、水産庁から所管省庁に対して、漁業者が不利益とならないよう特に協議会における漁業者の立場や農林水産省としても積極的に協議会に参加できるような方向になるよう意見を提出する等の調整の結果、条文等において漁業者団体が協議会メンバーとして明記されるとともに、漁業との調和や漁業に支障を及ぼさないことなどの事項が規定されました。

出典:経済産業省資源エネルギー庁HP (出典:経済産業省資源エネルギー庁HP)

(参考)

再エネ海域利用法における主な規定ぶりとして、

  • 第7条では、基本方針に規定する事項として、「漁業その他の海洋の多様な開発及び利用、(中略)との調和に関する基本的な事項」が規定
  • 第8条では、促進区域を指定しようとするときは、関係行政機関の長に協議することや、促進区域の指定の基準の一つとして、漁業に支障を及ぼさないことが見込まれることが規定
  • 第9条では、協議会メンバーである「利害関係者」に漁業者団体が含まれること、協議会は農林水産大臣もそのメンバーに構成されることが規定
  • 第17条では、漁業者が経済産業大臣及び国土交通大臣から認定された公募占用計画について把握できるよう、当該計画の概要を公表(公示)することが規定

こうした事項が盛り込まれ、漁業者側からの意見も反映できる内容になっていることで漁業者団体との調整の終了等を経て、再エネ海域利用法が成立することとなりました。

漁業者団体は、地域ごとに組織される協議会の場において、漁業の実態や漁業への影響など、漁業者の立場や意見を明確にすることが重要であることを傘下組合員に周知しました。

今後は、このような取り組みが相互理解を醸成し、漁業活動と洋上風力発電の利用促進との協調が図られることとなる道筋になったと思います。

4 漁業との共生・協調策への期待

2019年5月17日の閣議決定により再エネ海域利用法の基本方針が策定され、同年10月からいよいよ各地域で協議会が設置されることとなっていきました。協議会開催の前には各海域での懸念事項を整理したいとの要望等もあったことから、私はいくつかの漁協に足を運びました。最初は公共事業による埋め立て等のイメージを持たれる漁業者が多く、いきなり補償金の話を切り出す方もいましたが、こちらからは、基本方針において再エネ海域利用法が、漁業等と共存共栄した海洋再生可能エネルギー発電事業を実現することを目標としていること等、制度の考え方を伝え、その上で、関係漁業者から協議会において主張したい事項についての意見交換を行いました。私は協議会の設置直後に人事異動が重なってしまいましたが、①秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖、②秋田県由利本荘市沖、③長崎県五島市沖の3つの第1回目の協議会には出席することができました。

出典:経済産業省資源エネルギー庁作成 (出典:経済産業省資源エネルギー庁作成)

この3つの地域の協議会に出席の地元漁協の代表者からは、漁業・地域との協調としての漁業振興策の検討要請や発電設備周辺に魚礁を設置する海洋牧場プラン等方向性のある活発な発言がありました。

世間からは未だ漁業者が反対するために洋上風力発電事業が進んでいないとの見方がされているかもしれません。確かに事業計画を沖合まで広げた場合、地元漁業者以外の漁業者も操業しているなど関係者がものすごく増えていくことになります。こうした場合は先行利用者である漁業者との調整は長期化することが想定されます。調整の長期化イコール反対という風に誤解されているのかもしれません。

こうしたことからも当面の間は、促進区域はできるだけ共同漁業権の範囲内にとどめ、関係漁業者を絞ることが、スムーズな協議会設置への理解や事業計画推進につながるものと考えます。

そうして絞り込まれた海域での検討が始まり、漁場としての利用が有用な海域もあるかもしれませんし、また漁場としての利用頻度が少ない海域も存在することが明らかになることも考えられます。再生可能エネルギー施策を推進する側も発電事業者も地元の漁業者との対話を深めていただき、漁業者側もどこまでの漁業活動の制限なら受け入れ可能なのかを検討していただき、結果として、我が国の限られた国土の限られた海域を有効活用していくことが、漁業をはじめ地域経済の発展に繋がっていき、ひいては漁業が地域における魅力ある産業に発展できるのではないかと考えています。

また、実証機を除いては、本格的に運用されていないこともあり、洋上風力発電設備が漁業へどのような影響を及ぼすのか等の課題も残っています。漁業への影響に関して、今後、先進地域でのデータが集まってくるにしたがい、他地域での取組の参考になる重要な部分であると認識しています。

最後となりますが、私がこの業務を担当していた頃、漁業関係者や発電事業者等から、皆さんが考えている様々な漁業協調型の発電設備のお話を伺えることがありました。実際、漁業者がどこまで発電設備に近づけるのか、安全面で問題がないのか等の課題はあるものの、魚礁効果のある発電設備の配置に合わせて並べる魚礁の設置、発電設備と一体になった定置網や養殖生簀等、漁業が発電事業とともにこれまで以上に発展できる可能性はあるのだなと感じる場面もありました。今後、新たな法整備のもと、漁業と発電事業の共存・共栄がどのような形で進化していくのか期待しています。
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プロフィール

冨樫 真志(とがし まさし)

冨樫 真志

1972年生まれ。1991年県立新潟江南高校卒業後水産庁入庁。新潟漁業調整事務所、加工流通課、水産経営課、清水事務所まぐろ資源検査官、計画課計画官を経て現職。