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水産振興コラム
202112
洋上風力発電の動向が気になっている
第15回 洋上風力発電による地域の活性化
清水 浩太郎
林野庁 林政課長

1 はじめに

林野庁の清水と申します。現在は林野庁に所属していますが、前々職の水産経営課では、水産政策改革で全国の浜回りをさせていただき、漁協や漁業者の皆様から浜の現状をお聴きする機会をいただきました。また、前職の農林水産省バイオマス循環資源課では、農山漁村での再生可能エネルギーの導入を担当していました。このコラムでは山形県の取組が多く登場しますが、以前山形県庁に出向した経験もあります。このような御縁もあって、本コラムに参加させていただくことになりました。

2 洋上風力発電と地域活性化

これまで本コラムでは、洋上風力発電と漁業との調整・共生に関する寄稿が多かったと思いますが、今回は、さらに視野を広げて、洋上風力発電をはじめとした再生可能エネルギーの導入による漁村地域の活性化について考えてみたいと思います。

3 2050年カーボンニュートラル

2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。この宣言は単なる掛け声、キャッチフレーズにとどまらず、大きなインパクトを生み出しています。

例えば、脱化石燃料や省エネを進めるため、新たな技術や商品の開発、企業の事業転換など、いわゆる「我慢するだけではない脱炭素」として、これを契機に経済成長につなげていこうという機運が高まっています。また、海外では脱石炭火力発電や環境負荷の高い商品の取引規制など、市場のルールチェンジも進みつつあり、我が国の企業も対応を迫られています。

4 新たなエネルギー基本計画の策定

2021年10月に新たなエネルギー基本計画が閣議決定されました。2030年度の再生可能エネルギーの割合を36~38%に引き上げ、再エネの最大限の導入を促すこととされました。2030年度の再エネ(36~38%)の内訳を見ると、太陽光(14~16%)、水力(11%)、風力(5%)、バイオマス(5%)、地熱(1%)となっていて、2030年に向けては主に太陽光を中心に導入を進めることとされています。風力は現行の0.7%から5%への拡大にとどまっていますが、これは、洋上風力発電のリードタイム(事業化に要する期間)が8年と長く見込まれるためです。太陽光や陸上風力は適地が少なくなってきていますので、2050年に向けては洋上風力発電の導入拡大が期待されており、注目が集まっています。

5 再エネ拡大に向けた政府の推進体制

再エネについては、経済産業省(資源エネルギー庁)や環境省というイメージがあると思いますが、実は農林水産省も積極的に関与しています。農山漁村には太陽光、風力、水力といった再エネ発電の適地が多く、発電量で見ても全国の再エネの約5割が農山漁村で発電されています。一方で、本コラムでも取り上げられているとおり、洋上風力発電については漁業への影響が懸念されますし、太陽光や風力は農地や森林を転用して設置されることが多く、災害被害や事業終了後の撤去、さらには環境(景観、騒音等)の問題もあって、地域トラブルがつきものとなっており、地域共生が再エネ共通の課題になっています。

6 農山漁村再エネ法

農山漁村において農林漁業の健全な発展と調和のとれた再エネ導入を図るため、平成25年に「農山漁村再エネ法」が制定されました。この法律では、市町村が中心となって、農林漁業者、地域住民、発電事業者などによる協議会を設け、話合いを行った上で、再エネ導入の計画を策定することになっています。計画に基づく発電設備の導入について農地転用などの複数の許認可手続きをまとめて行うワンストップ化などの特例が受けられます。

農山漁村再エネ法では、再エネ導入による農林漁業の発展や地域の活性化のための取組を計画に必ず盛り込まなければならないことになっています。例えば、発電事業者が売電収入の一部を地域に還元して、農業機械を購入したり、直売所を整備するといった取組が行われています。これにより、地域の農林漁業者もメリットを実感することができ、地域合意のもとで再エネ導入を円滑に進めることが期待できます。これまでに全国で74市町村が基本計画を作成しています。後述の長崎県五島市の取組も、農山漁村再エネ法を活用したものです。

出典:農林水産省資料
出典:農林水産省資料

7 改正温対法と地域脱炭素ロードマップ

2021年5月に改正地球温暖化対策推進法(改正温対法)が成立しました。改正温対法では、地域の再エネを活用した脱炭素化を促進するため、市町村の実行計画に「地域脱炭素化促進事業」を定めることができることとなりました。これからは改正温対法と農山漁村再エネ法を市町村にうまく活用していただいて、地域共生型の再エネ導入を進めていくことになっています。

また、6月には、政府の国・地方脱炭素実現会議で、「地域脱炭素ロードマップ」が決定されました。このロードマップでは、改正温対法で地域脱炭素を進めるに当たって、地域の豊富な再エネのポテンシャルを最大限活用することにより、地域の中でお金を循環させ、地域の魅力向上につなげることが打ち出されています。2030年度までに脱炭素を達成する「脱炭素先行地域」を100か所創出し、全国に「脱炭素ドミノ」を起こすとされており、環境省では、新たな交付金や脱炭素ファンドの創設が検討されています。

8 再エネ導入と地域活性化との関係(地域でお金を回す)

これまでの再エネは、地域外の発電事業者が太陽光パネルや風車を設置して、発電した電気を大手電力会社に売電するパターンがほとんどでした。これでは、売電収入は地域には落ちずに地域外の発電事業者の懐に入ってしまいます。また、発電した再エネ電気も、大手電力会社に売ってしまうと、地域で直接的に利用することはできません。

そこで、農山漁村再エネ法や改正温対法の枠組みを活用して、地域でよく話合いを行った上で再エネを導入し、売電収入の一部を地域振興に活用していくことにより、お金が地域に戻り循環していくことになるわけです。さらに、洋上風力発電のように大規模なプロジェクトになると、地域で雇用が創出されたり、地域の税収がアップするなど、様々な経済効果も期待できます。

9 地域新電力

近年「地域新電力」が多く設立されています。地域新電力は市町村や地元企業などが出資して小売電気事業を行うものであり、地域で発電された再エネを地域で利用する、「再エネの地産地消」に取り組むことにより、地域の脱炭素化や地域内での資金循環といった役割が期待されています。最近ではふるさと納税の返礼品として、地域新電力から再エネ電気を供給するといった取組も見られます。太陽光や風力は天候に左右されますし、電力需給がひっ迫した際の対応など、まだまだ課題は多いですが、今後の発展が期待されるところです。

10 最近の動き

コロナ禍によって、テレワークやオンライン会議が定着しました。感染リスクが高い大都市圏から郊外や地方に仕事や生活の場を移す動きも出てきました。また、近年の地震や気象災害で広範囲・長期間の停電が発生した地域もあります。地域のレジリエンス(災害を乗り越える力)の強化や再エネを核とした地域分散型のエネルギー供給システムの構築に関心が集まっています。

また、このたび政府に「デジタル田園都市国家構想実現会議」が立ち上げられ、地方からデジタルの実装を進め、地方と都市の差を縮めていくための検討も始まっています。

さらに、ESG(環境、社会、ガバナンス管理)を重視する流れもますます強まっています。大企業も脱炭素だけでなく、社会貢献を強く意識するようになっており、地域社会などあらゆるステークホルダーに目を向けて事業を展開しており、地方自治体と組んで地域おこし的なプロジェクトを実施するなど、新たな民間投資も期待できると思います。

11 まとめ

以上のとおり、2050年カーボンニュートラル宣言やコロナ禍によるライフスタイルの変化などをきっかけに、これまでの大都市集中を見直し、地方を重視する機運が大いに高まっています。地方にとっては、こうした潮流に乗って、地域の特性を活かして人・モノ・エネルギー・カネの循環を生み出すチャンスが到来していると言えるでしょう。

農林水産省では、農山漁村で地域内の経済循環につながる再エネの地産地消モデルを「農山漁村エネルギーマネジメントシステム」と名付けて、その構築と普及に取り組んでいます。

出典:農林水産省資料

漁村においても、洋上風力発電だけでなく、住宅の屋根置きの太陽光発電や農林系のバイオマス発電なども含め、地域資源を活用した再エネを総動員して、電気や熱を地産地消することにより、地域経済の活性化を図る余地は大いにあると思います。

そのためには、特に市町村のリーダーシップや企画力が求められます。また、経済的に回るようにするためには、蓄電池の高性能化・安価化、大手電力会社の協力(電力網の充実など)も必要になりますので、着実な検討が必要です。

一方で、海藻などによる温室効果ガスの吸収効果については「ブルーカーボン(海洋生態系に貯留される炭素)」として評価する動きもあります。沿岸の藻場で光合成により海藻等に炭素が取り込まれ、最終的には海底に蓄積していくことにより、「ブルーカーボン」として海洋生態系に炭素を隔離・貯留するというもので、現在、その評価方法の検討が行われています。将来的にはクレジット化して取引可能となることで、藻場再生だけでなく海藻養殖として漁村振興に資するようになるかもしれません。

いろいろ不確定要素はありますが、今の段階から地域でアイデアを出し合って、構想を練り上げていくことが大事だと思います。

本コラムでも五島市長から五島沖での洋上風力発電事業について紹介がありましたが、五島市では、漁協や農協などが出資して市民電力を立ち上げ、洋上・陸上の風力発電と太陽光発電といった再エネ電力の販売に取り組み、収益を地域還元しています。こうした取組が是非全国に広がってほしいと思います。

出典:農林水産省資料

以前、水産庁(水産経営課)勤務時に、山形県にお伺いした際、漁協の理事さんに風力発電について現地を回りながら教えていただく機会がありました。漁業者、地域住民、釣り客など様々なステークホルダーがいる中、冷静に今後の進め方を考えていらっしゃったことが印象に残っています。このような洋上風力発電導入の検討が、漁業との共生、水産業を核とした地域活性化に結びついていくことを切に期待しております。

第16回へつづく

プロフィール

清水 浩太郎(しみず こうたろう)

清水 浩太郎

1970年兵庫県生まれ。1994年東京大学法学部卒業後農林水産省に入省。水産庁企画課係長(水産基本法制定)、漁政課総括補佐等を経て、2017年水産経営課長(水協法改正)、2020年食料産業局バイオマス循環資源課長(農山漁村での再エネ推進)、2021年7月から林野庁林政課長。