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水産振興コラム
202112
洋上風力発電の動向が気になっている
第16回 洋上風力発電とJFの向き合い方
三浦 秀樹
全国漁業協同組合連合会 常務理事

1. はじめに

JF全漁連の三浦です。今回は沿岸漁業者の立場から、JF全漁連が漁業協同組合(JFグループ)系統組織の中央団体として、これまで国の洋上風力発電政策にどのように対応してきたか、そして、JFが今後どのように向き合っていくべきか、「洋上風力発電とJFの向き合い方」について述べたいと存じます。

2. JFは沿岸域の調整機構として重要な役割

まずはじめに、漁業者は、安全・安心な水産食料を国民に供給するというこれまでの社会的使命に加え、新たなエネルギーを確保していく政策に対し、協調的な立場から取り組んでいくことが求められていることを認識しています。

「漁業者や全漁連が反対している」といった誤解がありますが、決してそのようなことはありません。むしろ、これまでも日本社会の一員として、社会にとって必要な沿岸域での事業に理解を示し、協力をしてきました。このことは、洋上風力発電政策にあたっても同様です。

これまでJFは、沿岸域をはじめとする漁場のさまざまな形での利用にあたって、漁業者・組合員自らの組織であることを活かし、調整機構として、関係者の利害調整やコンセンサスづくりに重要な役割を果たしてきました。

こうした中で、洋上風力発電についても、今後JFグループがどのような姿勢で関わっていくべきか、その基本的な方向性を示すため、2013年に水産業や再生可能エネルギー等の専門家や関係機関による検討会を設置・検討し、中間とりまとめを行いました。この中間とりまとめに、本会のスタンスが示されていますので、概略をご紹介します。

3. 漁業者・漁協の視点から見て、地域での合意形成のあり方を整理

海底設置型の洋上風力発電を念頭に、本会内に設置した「海洋再生可能エネルギー利用促進のあり方にかかる有識者検討会」(以下、有識者検討会)は、学識経験者、弁護士、環境コンサルタントにも参画いただき、海洋再生可能エネルギーへの基本的な姿勢、地域での合意形成のあり方等について、議論いただきました。その考え方をとりまとめた中間とりまとめでは、基本的な姿勢として、「JF・漁業者は、地元で生み出された再生可能エネルギーの“地産地消”という観点から、自ら電力利用者として地元で利用し、その恩恵を享受しながら、漁業活動と相まって地域経済に還元・貢献していくよう積極的に推進し、また、円滑な推進のため関係者と協調する姿勢で取り組んでいく必要がある」とし、「関係者のコンセンサスに基づく一定の考え方やルールのもとで推進」され、「海洋を生業の場とする漁業関係者にとって、漁場利用・操業にあたって混乱や支障を生じさせない」よう調整することを述べています。その上で、漁業者・漁協の視点から見た再生可能エネルギーの導入・利用のあり方について、漁業操業・漁場への影響の有無や環境影響評価、事業の継続性の確保など漁業者・漁協にとっての懸念や、関心の高い課題について整理を行ったところです。

4. 「漁業協調型」の洋上風力発電の推進を実現

こうした考えに基づき、再エネ海域利用法制定にあたって、本会として、「漁業協調型」の洋上風力発電の推進を実現していくため、国に対し、次の6つの要望事項として、①関係漁業者の同意がなければ、促進区域の指定は行われないこと、②環境や漁業への影響評価を義務付けること、③事業の実施について協議を行う「協議会」に漁業者を含むこと、④占用計画等の認定にあたって、発電設備の規模等の概要を明らかにした上で、漁業との協調が明確に図られていること、⑤関係漁業者に影響を及ぼす場合には事業者が責任をもって補償等必要な措置をとること、⑥促進区域内海域の占用等に係る許可にあたっては、関係漁業者の同意を得ることを求めたところです。

漁業者にとって、洋上風力発電は自らの生業の場に建設される未知のものです。漁業者の不安を払しょくした上で、洋上風力発電と協調しながら生業を営んでいくため、洋上風力発電事業の各プロセスにおいて浜の声を聴きながら推進されるよう要望したもので、その内容は法律や基本方針等に反映されました。

5. 各地域の漁連・JFと連携

再エネ海域利用法の制定を受け、本会では都度全国の会員へ情報提供を行うとともに、各種会議にて概要の説明等を行ってきました。

法律制定以降、都道府県等から収集した情報等により国が有望な区域を整理するようになりました。これを受けて、各地で再エネ海域利用法における促進区域とするための活動が活発化し、千葉県銚子市沖や秋田県由利本荘市沖等、全国4ヶ所が有望な区域として整理され、協議会の開催へと進んでいきました。地元の漁協は、協議会設立の前から勉強会や説明会を重ね、促進区域となるための理解を醸成してきました。

本会は水産庁の指導のもと、各地域の漁連・JFと連携しながら、浜の声が的確に反映され、協調型の洋上風力発電が実現できるよう、各地JFへの説明、相談等に対応してきたところです。

6. 漁業者を含めた地域住民の十分な理解を

本会の洋上風力発電への考え方は、有識者検討会の中間とりまとめにもある通り、事業を推進する際には、地域の合意を前提とし、漁業者を含めた地域住民の十分な理解の上で、推進していただきたいと考えています。その際には、漁業者自らが、地域で理解を得られる発電事業としていくため、漁業者側からも意見を発していく必要があるものと考えています。

風車を洋上に設置する以上、工事中・稼働中の音の問題、チェーンや基礎設置による海流の変化、魚の蝟集の変化等、操業への影響が想定されます。しかしながら、魚への影響については、国内の知見が十分ではなく、未だ不明なことも多いのが実情です。洋上風力発電と魚との関係、影響に関して、調査・研究の充実を政府や関係研究機関にお願いするとともに、得られた知見については、現場へのフィードバックをお願いしたいと思います。

その上で、どうあっても操業に影響が出る、魚への影響が想定される場面においては、漁業者側とそのリスク・懸念を共有し、別の場所や方法で洋上風力を導入することを柔軟に検討するなど、あくまで「結論ありき」で臨まないことが、相互の信頼感を培っていくうえで重要です。

7. 洋上風力発電と協調し、海を守り育む

北海道での赤潮の発生、サンマやサケ、スルメイカの不漁や、これまで水揚げされたことのない南方の魚が北の海で水揚げされるなど、漁業者は地球温暖化の影響を直に受けています。だからこそ、漁業者自ら再生可能エネルギー推進の必要性を十分に理解しています。SDGsを掲げ、カーボンニュートラルを推進し、地球温暖化を抑制していくことは、将来に亘り漁業を存続させていく上でも重要な対策です。

海面に建造物を設置するとなると、どうしても、その海域の漁業権を放棄=漁業補償という話が想起されます。しかし、再エネ海域利用法は、「漁業に支障を及ぼさないことが見込まれる」海域において、漁業と協調・共存しながら事業化するという点が、これまでの“漁場が消滅”する埋立事業等とは大きく異なっています。

つまり、地域住民や事業者が洋上風力発電を活用しながら、共に漁業を含めた地域全体を活性化させることが必要であり、その目的を実現できる事業のあり方が望まれています。漁業者と事業者は無論、地域全体がWin-Winとなる協調策を見出し、地域一丸となった推進を期待しています。

この中で、JFは、これまでの調整機構という役割に加え、第14回のリレーコラムでJF共水連越智部長が寄稿されているように、洋上風力発電に関する損害保険等事業保険の窓口や、洋上風力発電にかかる必要資材の供給ステーションの役割、施設のメンテナンスへの協力、場合によっては電力事業への参画など、必要に応じて積極的な関与も期待されます。

海を生業の場としている漁業者にとって、洋上風力発電は自らの生活に直結する非常に重要な問題です。陸上で考えると、自らの畑の中に風車が立つくらい重大なことだと思ってください。それだけでもいろいろな影響が考えられるかと思いますが、海の場合多くの魚は回遊しています。例えば風車が設置されるのが遠くの海域だったとしても、その回遊経路に風車ができた場合、魚の来遊経路が変わり、自分の漁場に魚が来なくなるのではないかという懸念もあります。田んぼの水を引く川の上流に建築物ができるという感覚でしょうか。漁業者は、こういったいくつもの疑問・不安を確認・解消しながら事業化を検討しています。

JFでは、基本理念を、「海の恵みを享受するすべての人々とともに、海を守り育み、次代へ引き継ぐ」ことと定めています。同時に、「食料供給の担い手として、安全・安心・新鮮な水産物を提供」することも定めています。本会は、洋上風力発電と協調し、海を守り育みながら、引き続き食料の安定供給に寄与していきたいと思います。

プロフィール

三浦 秀樹(みうら ひでき)

三浦 秀樹

1963年生まれ。東京都出身。1988年に東京水産大学を卒業後JF全漁連入会。2010年漁政部政策企画室長、2014年水産物消費拡大対策部長を経て2019年より現職。政策提言や「プライドフィッシュプロジェクト」の企画、立ち上げ等に取り組む。全国漁業協同組合連合会 常務理事。