漁業者の生活を守ってきたJF共済はおかげさまで70周年を迎えることができました。70周年を記念してJF共済イメージキャラクターの竜徹日記(漁師出身の歌手 鳥羽一郎さんのご子息)作詞作曲による記念ソング~めぐりめぐる~を作成しました。
1. はじめに
第14回のリレーコラムを担当します全国共済水産業協同組合連合会(略称:JF共水連)の越智晋介と申します。
JF共水連は、JF(漁業協同組合)と共同で共済事業を行う全国団体として1951年に設立されました。「海に生き、浜に生活する組合員等の「暮らしの保障」を万全に期すことを通じて、美しい海と漁業を守るとともに魅力ある漁村・地域づくりに貢献することを目指す」ことを事業理念として、今年で創設70周年を迎えたところです。
JF共水連は、水産業協同組合法に基づき、漁業者である組合員(以下「組合員」という。)の生命と財産を守るために、組合員が海難事故やケガや病気などで入院した場合等に備える普通厚生共済(チョコー)や組合員の住宅や倉庫などが火事や台風、地震などによる損害に備える生活総合共済(くらし)などを提供するとともに、共済で扱っていないリスクに対しては損害保険会社の保険代理店として保険を提供しています。
特に東日本大震災では岩手・宮城・福島を始めとする沿岸地域の津波被害が大きかったこともあり、生命共済と損害共済あわせて約240億円の共済金をお支払いし、津波で被災された加入者の方には海難事故として割増しして共済金をお支払いするなど浜で生活する組合員に寄り添った事業を展開しております。
今回は、洋上風力発電事業のリスクに対して、漁業を後方支援するための対応としてJF共水連が検討している保険提供の仕組みとそのねらい等について紹介したいと思います。
2. 洋上風力発電のリスクから漁業者を守るために
洋上風力発電事業に関しては、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律が2019年4月に施行され、洋上風力発電事業の実施に関して必要な協議を行うための協議会が設置(同法第9条第1項)されています。
洋上風力発電施設の設置に対して、施設建設工事期間中に万一発生した事故により漁業ができない期間に対する補償や、風力発電施設の運転中の事故やそれによる漁船・漁業施設等への損害が出た場合の営業補償、漁業や漁場に影響が出た場合の影響補償の対応など、これまでなかった施設が設置されることによって漁業者が不安に思うことは当然なことだと思います。こうした漁業者の不安を払しょくするためには洋上風力発電事業者は、関係漁業者への丁寧な説明により理解を得ることが必要ですし、JF・漁業者は漁業への影響調査など適切な対応を事業者に求めていくこと、および万一に備えた保険加入は必要不可欠なものになってくると思います。
こういった背景があって、第8回のリレーコラムで紹介された、銚子市沖において洋上風力発電に取り組む銚子市漁業協同組合からJF共水連に洋上風力発電事業に関する補償提供について打診があり、銚子市漁協のご協力を得て保険加入の仕組みを構築しました。また、銚子市漁協からは公募に向けて、事業者に対してこのような保険加入の仕組みについて紹介していただいております。
また、長崎県や秋田県など先行して洋上風力発電施設の設置が予定されている地域の会員JFとの協議も行い、JFからも地元の漁業・漁業者を守るために洋上風力発電事業のリスクに備えた補償保険の提供について、JF共水連で取り組んでほしいとの声が寄せられています。
JF共水連はJFの声にしっかり耳を傾け、洋上風力発電施設が設置される地域において漁業・漁業者のリスクの軽減を図る保険を提供することにより、浜に生活する組合員の生命と財産を守っていきたいと考えております。
3. 漁協系統が一体となって取り組む
JF共水連は、農林水産大臣の認可を得てJF共済事業を行っています。今回の洋上風力発電施設の補償に対する保険加入は公募で選ばれた事業者になることから、JF共済で提供できる保障(補償)には限りがあり、しかも補償するリスクや金額も莫大になります。そのため、JF共済以外の補償はJFグループが保険代理店として損害保険会社の保険を提供する仕組みが適切と判断し、JF共水連では全国の会員(JF)の皆様の理解を得て2021年7月の通常総代会において定款変更を決議し、農林水産大臣の認可を受けて洋上風力発電施設に係る補償提供を得るための態勢を構築しました。洋上風力発電には様々なリスクが想定され、保険の専門知識が必要となります。そのため、事業者に対して個々のJFで対応するのではなく、統一して事業者との協議調整をすることが望ましいことから、専門知識を有するJF共水連が保険代理店となって保険加入する体制を構築しました。また、JF共水連が一括して取り扱うことで設置地域によって補償内容が大きく異なるなど不平等がなくなることにもつながります。
一方、万が一、風車の破損等により漁業施設等に損害があった場合は、漁業施設そのものの損害に加えて、漁業施設を使用できない期間の漁業者への収入減少に対する損害賠償が発生することになります。この場合、収入減少となった漁業者の特定や個々の漁業者の損害額の算定にあたってはJFの協力が必要不可欠となります。
また、JFから事業者に対して次のことを求めることで、漁業者が安心して漁業に従事できるようになると考えます。
- ① 洋上風力発電により漁業施設や漁船、漁業者に損害があった場合に損害補てんができるよう事業者は十分な補償確保(保険加入)をしてもらうこと。
- ② 漁業との共存共栄や地域への貢献の観点から、漁協や地域で有している設備や資源を有効に活用して漁業や地域の振興に取り組んでもらうこと。
洋上風力発電施設に関する保険提供は、漁業との協調策の一つとしてJF共水連とJFが一体となって取り組む必要があります。JF共水連は保険代理店として、適正な保険加入の確認や保険契約の締結の代理を行うとともに、JFとJF共水連が一体となって事故発生時の漁業への影響や漁業者が被る損害額などの調査を行うなど漁業と漁業者を守っていく体制を構築できると考えます。
4. 浜への保障・補償はJF共済を合言葉に
JF共水連は、洋上風力発電施設の設置に関して賛成・反対が言える立場にはありません。しかし、地元の漁業者・JFが洋上風力発電施設の設置に協力する場合には、漁業との共存共栄および漁業・地域への貢献の観点からこの仕組みを全国のJFで活用できるよう、JF全漁連に状況説明を行い、漁業との協調・共存を基本として本会の取組みについて共に歩んでいくことを確認し、既に建設が予定されている千葉県、長崎県、秋田県を始めとして、今後計画される地域のJFにも順次説明していく所存です。
JF共済は、JFとJF共水連で共済の引受を共同事業方式で実施しております。JFは組合員である契約者の様々な窓口を役割として、共済責任はJF共水連の役割として、JFとJF共水連が一体となって浜で生活する漁業者の暮らしを保障しています。
洋上風力発電施設に関しても共済事業と同様にJFとJF共水連が一体となって浜で生活する漁業者の生活を守っていくことが使命だと考えます。
この仕組みを活用することにより、漁業と漁業者を守るとともに洋上風力発電事業者の保険加入を通じて、漁業との協調・共生や地域への貢献への一助になればと考えています。浜への保障・補償はJF共済を合言葉に今後も全国の漁業者の生活を守る活動を継続してまいります。
(第15回へつづく)