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水産振興コラム
202111
洋上風力発電の動向が気になっている
第13回 洋上風力発電事業と漁業との共生
武藤 圭亮
経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー課
法定協議会の様子(秋田県八峰町及び能代市沖)

1. はじめに

経済産業省資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー課風力政策室の武藤と申します。大変長い部署名ですが、風力政策室はその名の通り日本のエネルギー政策のうち風力発電に関する施策を担当している部署であり、再エネ政策全般を所掌する新エネルギー課に本年7月に新しく設置されました。

洋上風力発電に関しては、当室と国交省港湾局で、海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下「再エネ海域利用法」という。)を運用しながら、法定の協議会の運営、「促進区域」の指定、公募による事業者の選定などの実務を行っております。

今回このような機会をいただいたので、まずは洋上風力発電のエネルギー政策や産業政策の面からの導入意義について、と説明しようかと思いましたが、既にこれまでのコラムシリーズで複数の方々から触れられており繰り返しのお経になる気がしますので、今回は洋上風力が気になる皆様が気になっているであろう、どのように「促進区域」が指定されるのか、そのプロセスにそのエリアで漁業をされている方々がどのように関わるのかなど、皆様からは中々見えづらい法制度の運用の実態について簡単に御説明させていただきます。

2. 再エネ海域利用法のプロセス

再エネ海域利用法の手続きの大まかな流れは、①経産大臣、国交大臣が促進区域を指定し、②当該区域で事業を行う者を公募により選定(約1年間)、③選定された事業者は事業計画の認定を受け(最大30年間)、その計画に基づきFIT認定、海域の占用許可(最大30年間)を受ける、というものです。なお一般的な洋上風力発電の事業計画のイメージは、事業者選定後に環境アセスメントを実施(4~5年)、発注&建設(2~3年)、事業実施(20年)、撤去(2年)で合計約30年間、というものです。

再エネ海域利用法のプロセスの流れ

再エネ海域利用法の具体的な方針や運用についてより詳細に御関心がある場合には、資源エネルギー庁HPの「なっとく!再生可能エネルギー」などから、①「再エネ海域利用法」、②「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な方針」(以下「基本方針」という)、③「海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域指定ガイドライン」(以下「区域指定ガイドライン」という)、④「一般海域における占用公募制度の運用指針」などご覧いただければと思います。

資源エネルギー庁「なっとく!再生可能エネルギー」https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/yojo_furyoku/index.html#seido

さて、この再エネ海域利用法の手続きの根幹に、「促進区域の指定」というプロセスがあります。よく御質問をいただきますが、促進区域に指定されても同区域内の漁業権が消滅するものではありませんが、促進区域内に数百m~1km程度の間隔で大型の風車が建つ中で漁業を操業していくにはどのように既存の漁業者と発電事業者が共生していくのか、このプロセスにおいて当該海域の先行利用者である漁業者等の理解、同意を得る事が大変大事になります。

3. 促進区域の指定プロセス

まず大前提として、再エネ海域利用法において、促進区域の指定基準の一つに、「海洋再生可能エネルギー発電事業の実施により、漁業に支障を及ぼさないことが見込まれること。」としており、「基本方針」において、促進区域の指定の前に、関係漁業団体等に漁業の操業について支障がないことを十分に確認し、支障を及ぼすことが見込まれる海域は促進区域の指定は行わないことを明記しています。また、区域指定ガイドラインにおいて、漁業者等を含む利害関係者との調整を含む促進区域指定のプロセスを具体的に示しております。

促進区域指定のプロセス概略は、①都道府県や事業者等から、指定基準に照らした各区域の情報や地元の利害関係者の意向、調整状況などを伺い、②早期に促進区域に指定出来る見込みがあり、漁業者を含む地元利害関係者との協議を行う法定協議会が開催可能な区域を「有望な区域」に整理し、③促進区域の指定に関し協議会で議論し合意されれば、④再エネ海域利用法に基づく区域指定手続き(指定案の公告・縦覧、関係行政機関・関係都道府県・協議会への意見聴取等)を行います。

この促進区域指定プロセスでは都道府県には、基本方針等に基づき、地域に関する情報の提供や地域関係者との調整など、国と連携して対応いただくことになっております。特に、地元利害関係者の特定に関しては最も地域の情報に詳しい都道府県に整理いただくことが重要であり、山形県が実施した漁業実態調査の手法は大変参考になる先行事例です。

また、法定協議会は経産省、国交省、水産庁、関係都道府県市町村、地元利害関係者、学識経験者等で構成しております。法定協議会を立ち上げる事=促進区域指定に向けた議論を行うという区域指定の結論有りきで進めるものではなく、洋上風力発電について理解を深めて頂きながら、漁業影響を含むその他環境影響等への懸念のほか、漁業共生策などについて議論し、その上で当該区域を促進区域に指定することを受け入れるかどうかを地元利害関係者の方々と協議する場です。

なおこれまでに千葉県や秋田県で複数の協議会が立ち上がり、協議の結果として、促進区域に指定することに異存はないという協議会意見をとりまとめる際には、同時に、選ばれた事業者に対する留意事項も一緒に提示しております。公募に参加しようとする事業者は、地域や漁業との共存共栄の観点から、公募においてこの留意事項の内容を踏まえて事業計画を作成し、公募に参加することとなります。そのため、この留意事項の内容をなるべく具体的に示すことが重要です。

促進区域の指定プロセスの詳細概要

4. 洋上風力発電と漁業との共生の在り方

促進区域の指定の基準や協議会の役割を御説明したとおり、再エネ海域利用法に基づくプロセスにおいては、地元利害関係者の知らないところでいきなり促進区域が指定され工事が始まる、といった事はなく、事前の調整プロセスは法律で定められ運用されています。

一方で、プロセスは整備されてもなお、国内に大型の洋上風力発電所はない中で、実際に数十本の大型風車が沖合に建った際にどのような影響が周辺にあるのか、漁業への支障は起きないのか、現時点でこの全ての懸念を払拭することは困難であるのが正直なところです。そのため、再エネ海域利用法に基づく公募で選定された事業者が、建設工事前から漁業影響調査をしっかりと継続的に実施し、洋上風力発電による漁業への影響の有無をしっかりとモニタリングし、データ・知見を集めていくことが重要になります。また、風車による音の影響などが魚類にどのような影響を与えるのかといった基礎的なデータを整理することも重要です。

そういった中でも、洋上風力発電と漁業との共生に可能性を感じいち早く受け入れてくれた千葉県や秋田県、長崎県及びその地元の利害関係者の皆様には、大変感謝しております。こうした先行事例や後続の案件も、漁業影響についてもしっかりとモニタリングし、洋上風力発電と漁業との共生の在り方について、検討を深めて参りたいと思います。

また、協議会での洋上風力発電と漁業との共生策については、これまでの協議会では具体的な共生策の内容までは決めきらず、今後様々な対応が取れるよう発電事業者の収益の一部を原資にした基金設立などが提案されております。この考え方にも合理性がある一方、これまでのコラムでも御指摘いただいたとおり、お金で安易に漁業との共生が図れるとの誤解を事業者に与えかねない、漁業者に補償的な意味合いにも取られかねないとの指摘もありますので、今後は協議会において、漁業共生策について金額ベースだけでなく、どんな内容を求めるのかなどもしっかりと協議出来るような環境を整えて参りたいと思います。(第14回へ

プロフィール

武藤 圭亮(むとう けいすけ)

武藤 圭亮

1985年生まれ。千葉県出身。2008年経産省入省。2014~15年メキシコ留学、2017~20年に在アルゼンチン日本国大使館勤務と中南米との縁深めながら2020年帰国し新エネルギー課に着任、風力担当となり現在に至る。なお地黒です。