水産振興ONLINE
水産振興コラム
202110
洋上風力発電の動向が気になっている
第10回 洋上風力発電事業者の漁業協調への向き合い方
眞鍋 修一
一般社団法人日本風力発電協会 理事
デンマーク ミドルグレン洋上風力発電所
台湾 Formosa1洋上建設サイト

1. はじめに

一般社団法人日本風力発電協会の眞鍋と申します。このような機会をいただいた貴振興会に感謝を申し上げるとともに、漁業と洋上風力との共存共栄を願っている小職にとりまして、大変うれしく思っております。

また、5月から始まったこのコラムシリーズは、小職にとりまして、貴重なご意見を拝読できる、また、漁業について勉強させて頂く良い機会であり、毎回興味深くコラムを読ませて頂いております。弊協会の会員にも読んで貰いたいと思っており、当コラムのシリーズは弊協会のメールマガジンで会員に紹介させて頂いております。

続きまして、私どもの団体を紹介させて頂きます。弊協会は2001年12月に任意団体として設立し、2010年4月に風力発電事業者懇話会と合併し、現在に至っております。弊協会では、以下の設立理念のもと、日々、風力発電の普及拡大に努めております。

  • 我が国のエネルギーセキュリティ向上ならびに地球環境問題の解決に貢献する。
  • 全ての関連産業、企業が結集して、風力発電産業の健全な発展を図る。
  • 我が国を代表する風力発電産業団体として、その責務を強く自覚し、行動する。
  • 内外に影響力を行使できる機能・能力を持つとともに、説明責任を果たし、法令を順守する。

風力発電事業者が、様々な魚種、漁場、漁法がある漁業の実態を把握するのは難しいところがありますが、弊協会としては漁業の実態をしっかり勉強し、漁業関係者の皆様に説明責任を果たしていく事が重要であると考えております。

2. 日本における風力発電の歴史について

1970年代のオイルショックを経て、1980年代に入りますと、国のサンシャイン計画のもと、風力発電の導入が検討されましたが、ヨーロッパなどに比べ日本は地形などの問題から風力発電に適さないのではないかという意見も多くあり、普及拡大に至りませんでした。

1992年ブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連地球環境サミットで、気候変動を防止するため、温室効果ガスの濃度安定化を目的とした取り決めが採択されました。この頃から、日本でも地球温暖化問題がクローズアップされ始め、1994年には、総合エネルギー対策推進閣僚会議で「新エネルギー導入大綱」が策定されました。これは、国全体として再生可能エネルギーにどのように取り組むかという指針を示したものであり、この大綱で改めて、新エネルギーを国として積極的に導入すべきであるという指針が明確に示されました。

1997年には第3回気候変動枠組条約締約国会議が京都市で開催され、国内でも地球温暖化問題が大きく取り上げられました。風力発電、太陽光発電、地熱発電、バイオマス発電の導入促進を加速させる方針が定められ、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法(新エネ法)」施行、補助制度の導入、1998年には各電力会社の風力発電買取メニュー制度の導入、2003年には「RPS制度」施行などの促進、助成政策が実施されました。しかしながら、温暖化対策は原子力発電の推進がメインであり、再生可能エネルギーの本格的な普及拡大に至らない状況が長らく続きました。

2011年には、福島第一原子力発電所事故が大きな転換点となり、再生可能エネルギーを脱炭素の大きな柱にすべく、2012年7月にFIT(固定価格買取制度)法が施行され、日本での再生可能エネルギーの本格的な普及拡大の契機となりました。

風力発電は、①地元合意、環境アセス等に時間を要したこと、②風力の適地は系統連系するための送電網が脆弱であったことにより、太陽光に比べ普及を伸長させることができず、2020年時点での風力発電の導入量は、約400万kWに留まっており、欧米、中国に比べ普及拡大が遅れております。

今後は、洋上風力発電所の事業投資額は大きく、部品点数が数万点と多いため、関連産業への経済波及効果が大きく、地域の経済振興策としても大いに期待されております。更に2020年10月には、菅首相により「2050年のカーボンニュートラル宣言」がなされ、風力発電の更なる普及拡大が求められております。

3. 弊協会の洋上風力発電への取組み状況について

2015年のパリ協定締結以降は、世界の脱炭素化への動きは加速し、日本においても一層の再生可能エネルギーの普及拡大が求められるようになりました。2019年12月からスタートした「洋上風力の競争力強化に向けた官民協議会」において、洋上風力の導入目標値が2030年1,000万kW、2040年3,000万kW~4,500万kWと定められ、洋上風力産業のサプライチェーンを育成し、国内の経済振興に資するとともに、洋上風力発電導入の課題を克服していく方策を政府と民間企業が一体となり協議していく事が始まりました。

このような状況を鑑みまして、弊協会では2020年12月に漁業関係者、水産庁、資源エネルギー庁、国土交通省のご担当者に参加頂き、第1回目の勉強会を開催しました。弊協会から、世界での洋上風力発電の普及状況、日本の政策動向、地方自治体の取組み状況などを紹介させて頂きました。参加者からは、洋上風力の影響についての調査を充実することなどのご意見を頂きました。

次回以降の勉強会で、第1回目で頂いたご質問、ご意見に対して、丁寧に説明していくことや、コロナ禍で不自由な状況でありますが、できる限り現地視察、テーマ毎の勉強会を開催させていただきたいと思っております。洋上風力に関して、何か気になることやご質問、ご意見がございましたら、勉強会のテーマにしたいと思っておりますので、お気軽にお問い合わせ、ご意見を頂けましたら幸いです。

4. 洋上風力発電事業者の漁業協調策について

洋上風力発電事業者がどのように漁業へ貢献できるか、弊協会としては協調策について勉強も始めており、協調策を大きく5つに分けて考えており、それぞれの協調策をどのように効果的・効率的に実施できるか勉強を始めております。

漁場整備については専門性が必要であり、地域の漁業者、水産に関する学識経験者と良く相談しながら進めていかなければならない事項であると認識しております。また、魚種、漁場、漁法によっても必要とされる協調策も違ってくると考えており、このような協調策についても忌憚のないご意見を頂けると大変有難いと思っております。

また、洋上風力設置について、漁業者の皆様からご理解を頂いていく為には、漁業への影響調査が重要であると認識しております。洋上風力の設置前の状況、施工中の状況、設置後の状況をしっかりモニタリングしていき、客観的なデータを集積し開示して、様々なご意見をお聞かせ頂く事が、洋上風力発電所を設置していく上で、重要であると考えております。

■ 防災・減災対策 ~洋上風力を電源として活用の可能性~

[構想例]蓄電設備併設型風力発電システムの 防災対応型電源への適用

出典:日本風力エネルギー学会

■ スマート漁業への貢献 ~風車に各種センサーを設置しデータを収集

[構想例]海水温、潮流、魚影をセンサーにより把握する

出典:一般社団法人 海洋産業研究・振興協会

5. おわりに

末筆ながら、定年を迎えましたら、お世話になった漁業関係者の皆様に挨拶廻りをしながら、漁港の街巡りをするのを楽しみにしております。最近では、漁業、漁法、魚種などについて、お話を聞かせて頂く機会が増えており、知らなかったことが多く、日々勉強させて頂いております。引き続き、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。(第11回へ

プロフィール

眞鍋 修一(まなべ しゅういち)

眞鍋 修一

1965年生まれ。1990年慶應義塾大学卒、株式会社小松製作所入社、1997年10月エコ・パワー株式会社入社(現コスモエコパワー株式会社)、2008年取締役事業開発部長、2010年4月一般社団法人日本風力発電協会 政策部会副部会長、2018年コスモエコパワー株式会社常務取締役、2021年2月一般社団法人日本風力発電協会 理事就任