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水産振興コラム
202511
豊洲市場DEお魚対談
八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第1回 カキ編(上) むき身調達は市場回帰
画像1 シーズンインしたむきカキ。セリは午前4時30分と早い

卸売市場流通の華といえばセリ取引だ。生産側の営業を代行する卸のセリ人と消費側の代理人の水産仲卸がそれぞれの思いを胸に毎朝しのぎを削る。知名度の高いマグロに限らず、特種物(寿司や天ぷら向けの飲食店向け高・中級食材)の中にも日々活発なセリが行われている商材がある。新連載「豊洲市場DEお魚対談」では、円滑な取引が行われる環境づくりをしている特種物業会取引委員会の会長と卸のセリ人を招いて語ってもらった。初回のカキ編は仲卸でカキ取引委員長の𠮷橋善伸さん((株)𠮷善)、卸で築地魚市場(株) 鮮魚三課課長の川越洋亮さんと東都水産(株) 特種課副主任の岡田健伸さんが登場。旬とセリの今後で語った。

画像4 若手代表で参加の入社4年目の東都水産特種課の岡田さん

——— 2025/26シーズンの出来はどうですか?

𠮷橋さん 西がよくないと聞くね。三陸は近年の中ではよい方では。

岡田さん 宮城は比較的よいと言っています。

川越さん 岩手は入荷量も多くて、身質ならここ数年ではいちばんですね。

𠮷橋さん ただ値段がね。

川越さん 20年前だと解禁日でいちばん高くてキロ3,000円だった。少し減っても3,300円や3,500円で、出たらどよめいて「誰だ3,300円も出したのは」という時代だった。入荷量は現在と全然違いますけど。

𠮷橋さん 当時と比べると倍値にはなったね。高値だと使うお客さんも限られてくるから心配。

——— 最近、産地からのパック物の直販の割合が増えてきていませんか?

𠮷橋さん 逆に最近は市場出しに戻ってきていると感じるよ。水に浮かせたままだと風味が飛び縮んでダシが出ない。今は市場で調達して自分たちでパック詰めしている量販店が多いのでは。

川越さん 原料価格や資材価格が上がってパック物だとお得感が出せなくなっているのもある。
1パック150グラムだった15年以上前に比べると、今は100グラム中心であからさまに粒が少ない。売れ行きが落ちると今度は無水ガキが出てきた。

岡田さん 無水パックだと、ドリップが気になることもありますよね。

川越さん だから原料の身質がよくならないと作れないのが難点かな。

画像2 「旬は暖かくなってから」と話すカキ取引委員長の𠮷橋さん

10月解禁を見直し

——— カキがいちばんおいしくなる時期はいつ?

岡田さん 鍋のイメージで冬だと思われがちだけど年明けからですね。

𠮷橋さん やはり暖かくなる春かな。だから、今まで10月1日初セリだったけれど、モノが悪く高いんじゃメニューを外されちゃうから、11月解禁にしたらどうかという話が今年もあったんですよ。11月といわないまでも10月半ばとか。

川越さん 三陸には海藻と兼業の生産者もいるので、遅らせると海藻の最盛期の作業に間に合わなくなるという事情もある。こちらの事情だけで一概には決められない。

𠮷橋さん だけどせっかくなら品質がよくなってから出したいというのが生産者の本音じゃないかな。同調する人がもっと多くなればあるいは。

川越さん 生産者の中にはすでに11月に的を絞っているところがある。一斉に遅らせるならいいよ、と言っている浜も多いんですけど、そこをどう折り合うかですね。

𠮷橋さん 初セリを遅らせた分、3月中だったセリを、雪解け水で栄養豊富な海になっておいしくなる4月いっぱいまで延長すればいいんだよ。

画像3 解禁先送りの今を語る築地魚市場鮮魚三課課長の川越さん

第2回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理、23年10月から編集局長。中心的な取材分野は、政治・行政、卸売市場を中心とした流通全般、中食産業全般、JF共済など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。