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水産振興コラム
20239

初めての「豊洲市場活用マニュアル」

八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第9回 「市場で働く」編

生鮮食料品の安定供給を担う中核拠点の東京・豊洲市場。屋台骨を支えているのは、完成10年に満たない真新しい施設群もさることながら、市場全体で1600超の業者と、そこで働く約1万数千人の従業員だ。2023年実績で256日の開市日(水産物)を基本としつつ、必要な役割を果たすためにさまざまな職種の人々が働いて市場全体として休むことなく動き続けている。働き口としての豊洲市場を掘り下げる。

移転で労働環境大きく改善
開市日見通しは徐々に前進

売り手市場で苦戦傾向

生きていくのに欠かせぬ食料品を扱う産業は、不況に強い安定産業という評価がなされていることが多い。食品産業のうち、流通業で重要な立ち位置を担う豊洲市場も同様だ。これまでも不況期は就職先としての人気が高まるなどしてきた。

裏を返せば就職戦線が売り手市場の時は採用活動で苦戦してきた。理由に考えられるのが、一般的な会社員の土日休みとは違い、5連勤こそないものの、水日休みと変則的で週末の連休がなく、8月の盆休みや年末年始以外に3連休以上の大型連休がないことだ。

加えて勤務時間が早朝〜昼の時間帯になることが多く、必然的に朝通う通勤手段も限られ、「魚好きしか来ない」(市場関係者A)といったボヤキも正直聞こえていた。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(9) 写真1 午前2時過ぎの、賑わう水産卸売場の様子。鮮魚取引の現場は未明に最も活気づく

24時間止まらぬ市場

ただ、以前のような就職口として選択されるために不利とされていた条件は改善されつつある。

24年の開市日は年間254日と、10年前の272日から実に18日減少。3連休が5月にも追加された。働き方改革への対応と、新型コロナウイルスによるライフスタイルの変化を経て各事業者も労働環境改善の地道な努力を重ねている。

一方、18年9月以前の築地時代と比べると働く環境が大きく改善したことも見逃せない。開放型で老朽化に悩まされていた当時、夏冬は外気温に左右されたほか、場内の凹凸が激しく女性がヒールで通勤できない、前時代的なトイレ設備などのさまざまな問題があった。これらの課題は全館空調の実現や施設の更新でいずれも解消された。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(9) 写真3 衛生面は移転を機に大きく改善されたが、働く人々が使うトイレ周りも例外ではない

中核的職種の卸や仲卸以外にも、輸送、販売、加工、飲食、物販などのさまざまな関連産業があり、そこで働く人々がいる。「24時間止まらない市場なので、さまざまな働き口がある。一般的な働き方をしている人がダブルワーク先として選んでいることもある」(市場関係者B)し、繁忙期の年末年始には多くのバイト募集が出される。働き口は多種多様で、いつでも何かあると考えても差し支えないだろう。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(9) 写真2 市場に入場するトラック。ピーク時間帯はあれど、常にどこかで誰かが動いている

大手卸は新卒40人台

にもかかわらず、豊洲市場に就職を考えている人々を一括で受け入れる窓口は存在しない。「あまりにも職種が多様すぎて実現不可能」(市場関係者A)なためだ。現在「若手不足の中、一部の職種に限るが就職斡旋(あっせん)の仕組みづくりの構想が進行中」(市場関係者C)といった動きが水面下にあるようだが、実現には至っていない。

上場企業もある水産卸7社(大都魚類(株)、中央魚類(株)、東都水産(株)、築地魚市場(株)、第一水産(株)、丸千千代田水産(株)、綜合食品(株))は大手就職サイトへ新卒募集(23年度実績43人)を出したり、水産系教育機関の就職課へ直接案内を出したりしていることが多い。関連イベントに出展していることもある。

そのほかは、もっぱら就職情報サイトやハローワークが働き手獲得の中心になる。自身のライフプランに合わせて、適切な働き口を見つけたい。

第10回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理。中心的な取材分野は、卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。