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水産振興コラム
202310

初めての「豊洲市場活用マニュアル」

八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第10回 「イベント開催する」編

東京・豊洲市場は世界一の水産市場として注目度が段違いなだけに、場内やその周辺は、業界関係者らにピンポイントで訴えかけるイベント開催地として魅力ある場所といえる。とはいえ、都が開設する公設市場で公的スペースである場内と、民間事業者の管理する場外とでは、できることが異なる。最終回となる「豊洲市場活用マニュアル」では、イベントを開きたい行政・団体向けに留意する点を取りまとめた。

講堂・会議室・調理室が完備
場内利用は市場活性化前提

市場関係者と連携必須

市場内7街区の管理施設棟には、各種イベント開催に利用することが可能な講堂・会議室・調理室がひと通り揃っている。都が管理する公的施設なため利用料は値頃に抑えられているものの、基本的には場内事業者・団体など市場関係者しか利用できない。会議や式典、講習会、展示会などに時間単位で貸し出され、都度利用がなされている。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(10) 写真2 厨(ちゅう)房設備や各種調理器具、モニターなどを完備した調理室もある

関係者以外が飛び込みで申し込んでの利用はできない。ただ、場内事業者・団体と連携しての共催イベントなどとして企画をすれば、道が開けてくる。その際も、絶対条件として「最終的に豊洲市場の活性化につながるかどうか」が問われる。

単に場内事業者・団体と連携さえすれば使えるなら、市場の将来に全くプラスにならない、もしくはマイナスになるイベントさえも開催されかねない。市場や市場を取り巻く環境をテーマとしたシンポジウムや研究会、ワークショップ、産地の漁協関係者や行政と組んだ勉強会などのイベントが多めとなるのはそうした背景が理由の一つだ。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(10) 写真1 管理施設棟の講堂で開かれた産地セミナー。場内のNPO法人と県漁協、県水産課の共催で実現

求められる開催の意義

例えば、魚河岸らしさを最も体現している存在である水産仲卸には、市場開設者の都などを通じて多くのイベントの連携要請が舞い込む。458の水産仲卸業者でつくる東京魚市場卸協同組合(東卸)は、寄せられた依頼について、市場の活性化や仲卸業者の魅力発信に寄与する取り組みであれば、積極的に対応する。

魚食普及に資するもの、豊洲市場への理解醸成を通じて水産物の消費拡大につながるものであれば検討対象とする。判断が難しい案件でも都や場内の関係団体と調整し、相互理解のもと依頼のあった取り組み自体に意義があると受け止められれば、必要に応じて対応する。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(10) 写真3 今年1月に豊洲市場内で開かれた「WORLD SUSHI CUP」の様子
(東卸提供)

「千客万来」も選択肢

場内関係者の来場が見込め、関係者への周知にもつながる場内開催にこだわらないならば、場外を考えるのも手だ。ゼネコン大手の清水建設㈱が管理している市場隣の4街区に2021年にオープンした複合施設の「ミチノテラス豊洲」を利用すれば、自由度の高いイベント開催が可能だ。

同エリアでは開業して間もなくから、豊洲場外エリアの賑わいづくりのために「豊洲場外マルシェ」(豊洲場外マルシェ運営実行委員会〈清水建設など〉主催)が毎月第3土曜日に開かれている。豊洲市場目当てに訪問する一般の観光客らを狙って、「豊洲場外マルシェ」を活用してPRを行っている産地や企業も多い。

2024年2月には6街区場外に「豊洲 千客万来」が開業予定。運営主体は私企業の万葉倶楽部(株)となるので、こちらのイベントスペースでも「豊洲場外マルシェ」同様に、比較的に自由度のある運用となる可能性が高い。開業後は年間260万人の集客増が見込まれ、幅広い発信という点でも期待ができそうだ。

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月~23年9月まで報道部部長代理。卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般などを取材。
専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部などを担当した。
23年10月から編集局長。政治・水産行政を担当予定。