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水産振興コラム
20238
初めての「豊洲市場活用マニュアル」
八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第7回 「卸への出荷」編②

「卸への出荷」編の後編として、水産卸売場棟3階を舞台とした塩干・加工品販売を紹介する。北陸地方のねり製品メーカーで、各種カマボコを地場のスーパーに卸していたCさん。このたび加工場を一新し、県の予算支援で地魚のスリ身の揚げカマを新開発したのを機に、2代前まで付き合いの深かった中央魚類(株)を通じて豊洲市場への再進出を検討していた。

大手が届かない売り先多数
新商品の揚げカマを朝売り

朝売りでお試し販売

東京・豊洲市場への出荷は父の代はほぼ絶えていた。ただ、中央魚類との縁は続いていて、出張時にうちの会社に顔を出してくれた練り・加工担当の川﨑圭顕さんと中﨑孝彦さんの2人と面識はある。もらった名刺を引っ張り出し、2人が所属する冷凍加工部冷凍加工第三課に電話をかけた。

電話は中﨑さんへとつながった。豊洲を通じて東京で新商品を売りたい旨を伝えると快く応じてくれた。まずは商品特性をまとめた資料とサンプルを宅配便で送る手配をしたあとに本格取引の手順を聞くと、「週に2度、月曜と木曜に朝売りしています。まずそこで売ってみましょう」という。

週2度というのに引っ掛かって突っ込んで聞いてみると、「各社で対応は違うんですけど、当社の朝売りはお客さまが多い休市明けだけで、ほかの日は基本的に注文を受けて出すという形にしているんです」との返事。朝売りは “顔見せ” みたいなものなのだろう。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(7) 写真2 朝売りの売場を訪れた水産仲卸業者と対話している中﨑さん(左)

探されている新商材

祖父の代に中央魚類との取引のために作った銀行口座はまだ生きていて、問題なく代金のやりとりはできることを確認した。事前に送ったサンプルの反応も上々だったようで、翌週月曜の朝売りに合わせ5箱を送ることになった。幸い、近所の運送会社が近隣の水産加工業者の荷物をまとめて豊洲行きのトラック便を出していた。

出来上がった製品を保冷車で運送会社に持ち込んで手続きし、無事送り出したことを伝えようと電話すると、中﨑さんではなく川﨑さんが電話口に出た。「似たようなものも多いだろうし売れ残らないといいけど」と弱気の虫を出すと「売れるかどうかは確かに大事ですが、お客さまは常に新たな商材を探していますから大丈夫ですよ」と言って励ましてくれた。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(7) 写真3 朝売りの見本品。各社員は1人で数十~100社ほど担当しているが、そのごく一部

消費地側の仕事代行

朝売りで送った5箱が何とか売れたと聞きホッと胸をなで下ろしていた翌日、川﨑さんからかかってきた電話は注文の話だった。「ある仲卸さんの得意先のスーパーがスポット販売で並べたらかなり反応がよかったみたいで、定番で置きたいらしいんです」とうれしい知らせ。ほかにもいくつか話が決まり、一日20箱を納めることになった。

二つ返事で了解し、地元スーパーでの支払いサイトを念頭に入金は翌々月かと尋ねると、「仲卸とうちら卸が間に入りますので最短3日から選べます。振込手数料のこともありますし、2週に1回くらいでどうですか」との提案。早ければ早いほどよいので了解する。

とんとん拍子に話が進むことにいささか困惑していると、それを察した川﨑さんは「豊洲にはたくさんの仲卸が評価してくれる環境があります。大手の商社などが対応できない細かな売り先、例えば関東近郊の個人飲食店や小売店を抱えています。普通に商売をしていたらまず手が届きません。そのようなところまで商品供給できるのがメリットです。豊洲市場に荷を送り込むだけで、都内の細かい得意先へと提案ができるんですよ」と丁寧に説明してくれた。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(7) 写真1 「細かい得意先まで提案できるのが強み」と話した川﨑さん

同時に、ピッキングや配送、受発注の取りまとめなど、必要なら消費地側での面倒な仕事のあれこれを任せることができると知り、東京に独自拠点をもつ必要なんて当分ないなと感じ始めていた。

第8回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理。中心的な取材分野は、卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。