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水産振興コラム
20237
初めての「豊洲市場活用マニュアル」
八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第4回 「仲卸から仕入れ」編③

マグロ専門仲卸「石司」で仕入れた本マグロで握った寿司が、常連客だけでなく同僚からも好評で気をよくした、都内の寿司店勤めのAさん。その後も国産本マグロの仕入れで何度か「石司」に世話になる中、ほかの寿司種も豊洲で揃えたいと相談すると、背中合わせの位置にある「𠮷善」の存在を教えられた。まずはネットで調べると千葉・浦安の貝類加工に起源をもつ70年の歴史がある仲卸とあった。貝類を中心に試しに何点か揃えようと足を向けた。

刻々と変わる入荷の状況
多種多様な品揃え「𠮷善」

雨の日はゆりかもめ

豊洲市場に通えるルートにはいくつかあることを知り、東京メトロ・東陽町駅からの都営バスだけでなく、新橋駅発の都営バスや東京BRT(高速バス輸送システム)やシェアサイクル、何なら徒歩まで試した。その中で、きょうのような雨なら最寄り駅ゆりかもめ「市場前駅」ルート一択だ。

「市場前駅」改札前から屋根付きペデストリアンデッキ(高架型になった歩道)が伸びていて、少しくらいの雨なら傘を差さずともぬれずに売場まで行ける。見学者らしき人たちと同じルートを歩いて屋内に入り、3階中央のエスカレーター前のガードマンに会釈して下に降りていくと、そこがもう売場だ。

最初は関係者以外、立ち入れないのかと勘違いをしたが、純粋な見学者を断っているだけで、売場での買い出し目的であれば入れるらしい。

値札付きの明朗会計

エレベーターホールの地図を確認。「𠮷善」の店舗番号は「イ143~イ146」「ロ138~ロ146」だ。住所を示す看板を見て、この辺かなと当たりを付けて通路に入る。最初は記号と番号の組み合わせの意味がピンとこなかったが、仕組みが分かれば非常に明快で分かりやすかった。

「𠮷善」に着くと売場には貝類だけでなく、光り物、白身、赤身まで何でもあった。しかも、小売店のように店頭に陳列する魚介類すべてに手書きで値段が書き込まれ、見るだけでいくらか分かる。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(4) 写真2 店頭には多種多様な魚介類が並び、商品すべて値札が付いている(写真では加工している)

「初めてだけどいいですか」と声を掛けると、売り物を整理していたらしい男性の店員が気付いて、「いらっしゃい。何をお探しですか」と近くまで寄ってきてくれた。

事前に「𠮷善」のことを軽く調べた段階の印象と違い、貝類以外のものも多数並んでいることへの疑問をまずぶつけてみると、「貝類だけってことはないですよ。うちには250種目1000品はあるので。仲卸の中では多い方ですね。店頭見本以外にもあるから欲しい魚を言ってくれれば出しますよ」という。

部門別に担当者8人

何を買うか特段決めていなかったので、手近なケースに鮮やかな黄色をしたウニが一箱3000円台前半から7000円台中盤までの価格帯で10種類近く並んでいたことを目にして、「もっと高いイメージでしたけど案外値頃ですね」と話を振ってみた。

すると「ウニは別担当だから代わりますよ。おーい」と、店の奥の男性にバトンタッチされた。代わった人に、「先ほどの人は担当でないんですか」と尋ねると、「『𠮷善』は部門別に担当が8人ほどいるからね。ウニは僕担当」という応答。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(4) 写真1 「𠮷善」の三代目・𠮷橋善伸さん。自身はウニなどを担当

商材ごとの担当が細かく分かれているのかと内心感心していると「きょうあたりは北方四島と、サハリン・沿海州、国産がちょうど揃っているから値頃になっているよ」という。「入荷状況は毎日変わるんですか」と聞くと「2週に1度くらいだと逆に変化を感じにくいけど、毎日来てくれたら刻々と変わるのが分かるよ。お客さんは寿司屋か何か? なら、そういう違いをカウンターのお客さんに話しながら出すのも喜ばれるんじゃない」と助言をしてくれた。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(4) 写真3 産地、価格帯別に10種類以上並んでいたウニの “弁当箱”

第5回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理。中心的な取材分野は、卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。