水産振興ONLINE
水産振興コラム
20237
初めての「豊洲市場活用マニュアル」
八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第5回 「仲卸から仕入れ」編④

東京・豊洲市場でのマグロの仕入れに慣れてきて、もう少し仕入れ先を広げようと「石司」から紹介を受けた特種物(寿司種など)と呼ばれる飲食店向けの食材を扱う「𠮷善」へ買い出しに赴いた都内の寿司店に勤めるAさん。前回に引き続いて、店頭で担当者と話をしながら買うものを見繕っている。豊洲市場に足を運ぶ頻度も多くなって一度に買う量も増えた中で、公共交通機関ではなく車で通おうかと思い始めていた。

1都3県に共配ルート
同業者と交流のメリットも

クーラーBOXは×

結局、珍しく値頃になっているという生ウニの中から、北海道・日高産の赤ウニ(バフンウニ)を1箱購入した。お金を払って帰ろうとしたところに「石司」の買い出しで顔見知りになった新橋のイタリアンのシェフと店頭でばったり。雑談しているうちに、使ってみたらよかったと推された石川・金沢産のブランドアマエビの追加購入を決め、赤物も数が乏しかったのを思い出して東京・三宅島産の地キンメも今回のお会計に含めて一つにまとめてもらうと、手持ちの保冷バッグはパンパンになってしまった。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(5) 写真2 場内では仲卸や同業者との交流の機会がもて、業務の参考になる話が聞ける

顔見知りに別れのあいさつをしてから「クーラーボックスの方がいいかなあ」と独りごちると、それを聞いた店の人から「ボックスだと買出人専用通路を通る時に邪魔になりがちだから、身軽で来た方が絶対にいいよ。配達もやっているし」とやんわりといさめられた。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(5) 写真3 身軽な格好で来た方が、狭めの買出人通路を行き来しやすい

時間貸以外に月決も

「石司」でも「場内の指定場所まで届けるサービスもある」とは初日に言われた。今まで手で持ち帰っていたけど、そろそろ車で来場することを考えてもよいかもしれない。

スマホでググってみると、場内の管理施設棟と呼ばれる建物の2階に車両登録所があって、そこに申請書や誓約書などの必要な書類一式を整えて申請すれば、5年期限の電子化ステッカーを10分程度で即日発行してくれるようだ。「(時間貸し駐車場の)『タイムズ』まで持って来て、みたいなオーダーも受けているんですか?」と聞くと、「もちろん」との答え。

今は時期尚早だが、水産仲卸売場棟の4階に僕らのような小口買出人の積み込み駐車場があって、月決めで駐車スペースを貸し出しているそうだ。管理しているのは主に潮待物流サービスと、東京魚商業協同組合。希望する買い出しの時間帯に応じて細かく分けて貸しているようで、遅めの午前8時過ぎなら空きがそれなりにあるという。

組合事業の共同配送

ただ、車で来るにしても社用車か、自分の車かで迷うところ。店に一度出て車を乗り換えてくるのも手間だし、自分の車は事故があった時に面倒そうだ。うんうん悩んでいると「共同配送の手もあるよ」と助け船を出してくれた。仲卸の組合が事業として共同配送を手掛けていて、都内だけでなく埼玉、神奈川、千葉にもルート構築されているらしい。「今は個人宅も回っているそうだよ」という補足には驚いた。

聞けば、航空便で大阪市内、札幌市内、福岡市内への即配サービスもあるし、代行業者をかませて海外配送もやっているらしい。その時は当然、注文は電話やファクスだけど、通わなくても買う機会は等しく提供されているということだ。

「どこにいても豊洲で買い物ができるってことですね」と感心していると、「けれど、やっぱり市場が開いている日に毎日来て、見て、聞くのがいちばんいいよ。仲卸や同業者から参考になる話も聞けるし」と、それとなく買い回りを勧められた。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(5) 写真1 「お客さま同士の交流が生まれるのも買い回りの利点」と「𠮷善」の𠮷橋善伸さん

「𠮷善」を後にしてペデストリアンデッキで市場前駅に向かう途中、とりあえず一度、車両登録所で話を聞いてみようと思い、ズシリと重たい保冷バッグを担ぎ直して管理施設棟に足を向けた。

第6回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理。中心的な取材分野は、卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。