水産振興ONLINE
水産振興コラム
20236
初めての「豊洲市場活用マニュアル」
八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第2回 「仲卸から仕入れ」編①

連載「豊洲市場活用マニュアル」は今回から本編に入る。「仲卸から仕入れ」編は、水産仲卸売場での初めての買い出しの立ち回りを、読者のアバター(分身)が現地を訪ねるスタイルで数回に分け紹介する。寿司専門学校を卒業し最近になって都内の寿司店に勤め始めたAさんは、上司に言われるがままに業務用食品通販サイトで済ませていた魚の仕入れに物足りなさを感じ、話に聞いていた東京・豊洲市場6街区の水産仲卸売場棟を初めて訪れることにした。

6街区で初めて買い出し
天然本マグロ専門・石司

バス停は時間帯限定

「買い出し目的なら誰でも入れる」と聞いて、東京メトロ東西線・東陽町駅前からの都バス「陽12-2 豊洲市場行」で「水産仲卸棟」8番乗り場で降りた。午前5時台から午前9時前後まで時間帯限定で「水産仲卸棟」の乗り場に立ち寄るという。場内には誰でも使える時間貸し駐車場の「タイムズ」があるため車の来場も考えたが、それとは別に事前に車をナンバー登録し登録済みステッカーを取得する必要があるらしく、まず安全策としてバスを使った。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(2) 写真1 時間帯限定の水産仲卸棟バス停。東陽町のほか新橋とも接続

網かごを提げた買出人らしき人の背中を追って付いていくと、水産仲卸売場棟1階へ入ってすぐが店舗のあるスペースだった。いつかテレビなどで見たことがあるターレーが走っていて、通りには多種多様な魚介類が所狭しと並んでいる。

ターレーに気を付けながら広い通路を横断。石畳風デザインの歩道に足を踏み入れると、店頭でマグロを切る作業をしている店が目に付いた。柱には「石司」と刻まれた木札がかかっている。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(2) 写真2 マグロ専門仲卸・石司は国産天然本マグロにこだわっている

460軒の専門仲卸

いくらかためらったあとに作業終わりを見計らって声を掛けた。「こちらは天然本マグロになるんですか」と問うと、「そう。うちは国産の生本マグロが専門だから」との答え。専門という言葉に引っ掛かって「専門?」と聞き返す。「そう。お客さんは豊洲に来るのは初めて? 手広くやっているところもあるけど、だいたい皆、何かの商材の専門仲卸ばかりだよ」。

改めて通路沿いを見ると、鮮魚、貝類、エビなど店頭に並ぶ商材の種類が確かに店舗ごとに違っている。以前に関東近郊の漁港側の魚市場をのぞいたが、こんなに種類があっただろうか。「460軒くらいあるんでしたよね。それ全部が違う商材を扱っているんですか?」と、予習情報を交えながら確認すると「得意な商材はそれぞれ違うから。といっても約3分の1はマグロ屋。何十年も毎日触っているマグロの専門ばかり」とのこと。

単純計算で、150軒前後はマグロが専門ということだ。本マグロにインドマグロ、メバチ、キハダ、天然と養殖、国産物と輸入物などの違いはさすがに分かる。それでもマグロという商材だけで150軒超は驚きだ。ちょっぴりワクワクした。

何十年蓄積した知見

「お客さんは何か店やっているの」と声を掛けられ、はたとわれに返る。「え、ええ。寿司屋に勤めていまして。通販サイトで仕入れていたんですけど、もう少し違うネタを仕入れてみたくて」。

初めての「豊洲市場活用マニュアル」(2) 写真3 ダンベ内に並べられたさまざまな加工形態の天然本マグロ

改めて「石司」の店内を見ると、ショーケース(あとで知ったがダンベというらしい)の中に、鮮やかな赤色をした半身やコロになった本マグロの身が並べられていた。美しい断面に目移りしていると、「予算と何人分が欲しいか、使い道を言ってくれれば見繕うよ」と言ってくれた。

自分もある程度は、専門学校や実地で学んだためにマグロの知見はあるつもりだった。ただ「何十年」の言葉の重みに勝るほどの自信はない。豊洲市場は初体験だし、素直に任せることにした。

第3回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理。中心的な取材分野は、卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。