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水産振興コラム
20229
アンケートにみる「豊洲市場の現在地」
八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第9回 仲卸業者アンケート⑤

前回は豊洲市場への評価を点数化して示したところだが、仲卸業者アンケートの最終回は「豊洲市場に期待することや改善すべき点」の自由記載意見を紹介する。併せて「豊洲市場における仲卸業者へのアンケート調査報告書」で実施したアンケートにおける回答を組み合わせ分析したクロス集計で、特に興味深い結果となった移転前後の「営業利益の変化と飲食店(寿司屋)との取引実績」について抜粋する。

アクセス・移動最多で要望最多
寿司屋取引の増加が重要
豊洲市場に期待することや改善すべき点 豊洲市場に期待することや改善すべき点

「豊洲市場に期待することや改善すべき点」で最も多かったのは豊洲市場へのアクセスや場内移動に関する意見だった。

アクセスは主に「駐車場」や「バス」の言及に集中した。駐車料金の買出人に対する割引・無料化については「組合が買い上げて買出人に無償提供するスペースを設ける」などの業界団体の支援で実現したらどうかという提案も寄せられた。

「バス」は、今後に控える東京BRT(バス高速輸送システム)や市場隣接のバスターミナルを併せ持つ複合施設「ミチノテラス豊洲」の本格運行後をみたいところだ。

場内移動に関しては、側溝部分のぬれ滑りや、場内荷物の散乱・はみ出し、入場者が1か所の出口に集中などといった徒歩移動時の課題、周辺の道路がパレットなどの無法地帯になっているといった車移動の課題に分かれた。

最後に「営業利益の変化と飲食店(寿司屋)との取引実績」のクロス集計結果を紹介していく。

それによると、取引実績のある寿司屋の数が少ないほど営業利益率の減少した割合が相対的に高く、数が増えるにつれて低くなった。寿司屋との取引数は増加するほど、営業利益率の減少のリスクが減り、維持・上昇の可能性が高まることが示唆された。連載7回目で「増えてほしい買出人の業態」で寿司屋の評価が最高だったことと整合性が取れる結果といえる。

監修者からひと言

旧習との決別が必要に
婁小波・東京海洋大副学長

豊洲市場へのアクセスや場内移動の問題は開場前から指摘された懸念事項であったが、実際に営業を始めてみたところ、やはり課題が多いことが今回の調査で浮き彫りとなった。不便な立地となったからこそ、豊洲市場が利便性向上に向けた今後のさらなる継続的な整備が必要であろう。

他方、場内移動問題に関しては、市場人自らの努力で解決できる部分も多いように思うので、「築地ルール」と呼ばれる旧習と決別し、斬新な「豊洲ルール」づくりに向けた関係者間の合意形成が求められよう。

取引先の業態別の仲卸業者の経営安定性への影響については一概に結論付けることはできないが、アンケート結果は、多くの寿司屋と取引関係にある仲卸業者ほど、良質な顧客層を有するゆえに、安定的な経営を維持しやすいことを意味していよう。

移転後(2019年度)と移転前(17年度)の営業利益の変化と飲食店(寿司屋)との取引実績

第10回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理。中心的な取材分野は、卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。