水産振興ONLINE
水産振興コラム
20229
アンケートにみる「豊洲市場の現在地」
八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第10回 一般来場者アンケート

前回までは市場の本来機能を活用する買出人・仲卸業者に注目してきたが、最後に一般来場者アンケート調査の結果を報告する。食の安全・安心確保や場内交通の混乱回避の目的で専用通路を設けるなど、業務エリアとの分離を進めた見学者用施設や物販・飲食施設は一般来場者の目にどう映ったのか。開場約1年後の2019年12月時点の調査であることに留意をしつつみていきたい。

50代以上に多い「買物」
物販・飲食に一定の評価
表1 来場者の年代と来場回数別に見た来場目的 表1 来場者の年代と来場回数別に見た来場目的

回答者の年代ごとに、来場回数(初回または2回以上)と来場目的を比較すると、初回来場者の目的は「観光」が最多だった。どの年代も50%近くが「観光」目的だった。次いで「食事」目的の来場者が多く、50代以下で40%、60代以上でも30%が「食事」を目的で来場していた。

2回以上来場者の目的は、各年代とも「観光」の割合が10~30%に減っていた。「食事」の割合は30~40%と大きく変わらない一方で、「買物」の割合が増加していた。特に50代以上の約60%が「買物」を目的に来場をしていた。

来場目的別に施設別満足度と再訪の意思を調べたところ、「観光」目的の来場者のうち、初回来場者が施設満足度3・4点(5点満点)、再訪の意思66%、2回以上来場者は2・8点、54%と大きく低下していた。

また、「買物」目的の来場者は、初回来場者が3・3点、52%、2回以上来場者が4・3点、81%、「食事」目的の来場者は、初回来場者が4・0点、83%、2回以上来場者が4・2点、86%だった。「買物」「食事」とも、2回以上来場者の方が高かった。

「買物」をする「物販施設」や「食事」をする「飲食施設」は、2回以上の来場者の満足度が向上していることや再来訪の意思が高いことから、一定の評価を得ていたと考えられる。ただ、当時の「観光」向けの「展示コーナー」の評価は低かった。「展示コーナー」の内容は当時と変わったが、充実・更新を続けていくことが必要だろう。

監修者からひと言

開かれた多面的機能必要
OAFIC(株)海洋科学博士・阿高麦穂氏

中央卸売市場は鮮魚を中心とした水産物の流通の場であり、本来の機能としては観光施設ではない。その一方で市場機能や食文化の発信、食の安全を担保する説明責任を担っていることから施設見学や利用は可能である。

今回のアンケート調査で、一般来場者からは「安全・安心な食べ物を供給してほしい」という本来機能への期待はもちろんのこと、「もう少し買いやすく、小売をしてほしい」「イベントやPRで盛り上げてほしい」といった、一般来場者にとっても利便性が高く、魅力的なコンテンツを備えた、広く開かれた多面的な市場機能が求められていることが分かった。

今後、一般来場者など外部の高い評価を得ることも「豊洲ブランド」の育成に不可欠であることから、水産物の流通機能および品質を担保する閉鎖型施設の特性を維持しつつ、一般来場者との接点について機能強化する取り組みが要求されている。

表2 来場者の目的別に見た各施設の満足度と再訪の意思 表2 来場者の目的別に見た各施設の満足度と再訪の意思

第11回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理。中心的な取材分野は、卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。