水産振興ONLINE
水産振興コラム
20228
アンケートにみる「豊洲市場の現在地」
八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第8回 仲卸業者アンケート④

水産仲卸業者は、日々業務を行う豊洲市場に対してどのような印象を抱いているのか。「豊洲市場における仲卸業者へのアンケート調査報告書」では、築地市場と比較したメリットと、ほかの仕入れルートと比較したメリットのそれぞれを、23項目にわたり5段階評価で尋ねた。市場移転から2年余りが経過した2020年11月上旬時点における採点結果を紹介する。

鮮度・安全・品質に満足
中長期的な対応も必要に
図1 豊洲市場のメリット(築地市場やほかのルートとの比較) 図1 豊洲市場のメリット
(築地市場やほかのルートとの比較)

図1は、豊洲市場の利用と、築地市場およびほかのルートの利用を比較した結果である。全23項目の中で、5点満点中での3点超えが11項目、3点未満が12項目と評価が分かれた(メリットが同じ場合、3点)。築地市場との比較で特に評価が高い項目と低い項目はそれぞれ3項目あった。

特に高い評価を得たのは「鮮度の高い水産物」「水産物の安全性」「品質の良い水産物」だった。築地市場との比較ではいずれも平均点で3・50以上だった。ほかのルートと比較した際も平均点の上位に食い込んだこれら3項目は、移転で満足度が特に高まったことが分かる。「水産物のトレーサビリティ」や「加工・パッケージング対応」に関する評価についても、築地市場との比較の方が、ほかのルートとの比較に比べて平均点がやや高めに出ている。水産仲卸業者が豊洲市場に対して強く感じるメリットはこれらに集約された。

逆に「十分な店舗面積」「市場内業者向け駐車場の充実」「一般客への販売機会」は、築地市場との比較で平均点2・00未満に終わっている。ただ、いずれも移転に伴う地理的条件や(買出人と見学者の立ち入りエリアの分離などを含めた)施設構造の変化に伴うものであるために、短期的な解決は見込めず、中長期的な対応が必要なものと考えられる。

監修者からひと言

制度・ルールの模索が重要に
大石太郎・東京海洋大准教授

ほかのルートと比較した築地市場のメリットは本調査では尋ねられていないが、概算可能である。豊洲市場、築地市場、ほかのルートの絶対的なメリットの大きさの指数をそれぞれA、B、Cで表すと、築地市場と比較した豊洲市場のメリット(X)はX=A-B、ほかのルートと比較した豊洲市場のメリット(Y)はY=A-Cと表せる。2つの式を連立させて解くとB-C=Y-Xとなることから、ほかのルートと比較した築地市場のメリット(Z=B-C)は、Y-X(つまり図1の青点と赤点の差)で求められる。

以上の計算で求めた「ほかのルートと比較した築地市場のメリット」を横軸、調査から得られている「ほかのルートと比較した豊洲市場のメリット」(3を引いて0に基準化)を縦軸で描画したものが図2である。

図2 豊洲市場と築地市場のメリット(ほかのルートとの比較) 図2 豊洲市場と築地市場のメリット
(ほかのルートとの比較)

全体的に右下がりの関係が見いだせる。ほかのルートに比べて築地市場でのメリットが大きかった項目は豊洲市場では小さくなり、逆にメリットが小さかった項目は大きくなったという傾向が読み取れる。

豊洲移転は、単なる立地の移動ではなく、市場のもつ特性に変化を与えた。仲卸業者が新たな市場環境に適応しその潜在力を十分に引き出すためには時間を要する。その後押しのために、よりよい制度やルールを模索し市場環境の補整を進めていく取り組みが引き続き重要である。本アンケート調査は、その取り組みの一端と位置付けることができるだろう。

第9回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理。中心的な取材分野は、卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。