水産振興ONLINE
水産振興コラム
20228
アンケートにみる「豊洲市場の現在地」
八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第7回 仲卸業者アンケート③

「豊洲市場における仲卸業者へのアンケート調査報告書」に取りまとめられたもののうち、今回は顧客構成について行われた複数の分析の中から2つのテーマを取り上げる。「顧客の来店頻度と注文方法」では、取引顧客数全体に占める割合を移転前の築地時代と移転後の豊洲時代で比べた。「増えてほしい買出人の業態」では、18業態の選択肢から増えてほしい理由とともに尋ねている。

来店頻度減も関係に変化
飲食店との安定取引望む

仲卸店舗に来店する顧客は「ほぼ毎日」「週3~5」「週1~2」を合わせると市場移転前には56%あったが、移転後は50%に下がった。「ほぼ毎日」来店するとしていた顧客は、21%から15%へと減少が顕著だった(表1)。

表1 顧客の来店割合(平均値)の変化 表1 顧客の来店割合(平均値)の変化

ほとんど来店せずに注文予約と配送で済ませる顧客は増加した。内訳をみると、電話・ファクスは移転前後でほとんど変わらなかったが、メールやLINEによる注文は増加していた。

来店頻度の減少が集客数の減少を招いている一方で、メールやLINEの増加は新たな関係性が築かれているとも受け取れ、今後が注目される。

今後増えてほしい買出人の業態をみると、回答者の70%以上が、寿司屋と寿司屋以外を含む飲食店に増えてほしいと願っていた(表2)。続いて多かったのは、鮮魚小売店(魚屋)の51%と専門小売店の38%。そのほか食品スーパー(31%)、旅館・ホテル(30%)で30%以上となった。

表2 顧客数が増えてほしい買出人の業態とその理由(18業態のうち上位10位) 表2 顧客数が増えてほしい買出人の業態とその理由(18業態のうち上位10位)

上位を占めた業態の増えてほしい理由をみていくと、安定取引への期待が特に強かった。今後の成長を理由に挙げた業態は、新型コロナウイルス登場以前から成長を続けていた持ち帰り・宅配専門店、登場以後に急拡大した無店舗販売(インターネット)が多かった。

監修者からひと言

信頼関係強化の意義増す
大石太郎・東京海洋大准教授

来店頻度の減少や注文・配送の増加は、豊洲移転に伴う交通アクセスの悪化に対する買出人の対応を反映している。

このうち来店頻度の減少は、買い出し時間や交通費の節約になるが、食品ロスにもつながり得る。例えば寿司店などで、不足する食材を小まめに買い足しに行かず、予測で多めに仕入れるとなると廃棄リスクが高まり、コスト増の要因になる。ネットの事前予約・決済システムを活用するなどによって廃棄リスクを抑えることが重要になる。食事券をネットで事前販売し予約期限を数日前に設定しておけば、必要な食材を事前に把握でき、無断キャンセルの料金も回収できる。

一方、注文・配送を増やせば食品ロスは防げるが、買出人がじかに現物を確認できないため、買出人のニーズの把握や仲卸業者の目利きなどについての互いの信頼が前提として必要になる。豊洲市場では、築地時代から築かれてきた信頼関係という無形の資産を移転後も活用できるが、交流の活発化などを通じて、さらに信頼関係のネットワークを拡大・深化させる意義が増している。

豊洲移転は、都市部に店舗をもつ買出人に交通アクセスの不便をもたらしたが、取り扱われる水産商品の品質、鮮度、安全性は改善したという声が多数である。本アンケート調査が、移転のデメリットを補い、メリットを生かすことに貢献していくことに期待したい。

第8回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理。中心的な取材分野は、卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。