「豊洲市場における買出人の仕入れ実態調査報告書」の内容紹介の最終回は、新型コロナウイルスによる仕入れ・販売への影響に焦点を当てる。この調査からみえる結果は、東京都が感染拡大第3波に伴う緊急事態宣言を発令していた2021年1~2月当時のものである。新型コロナが水産物取引に与えた影響の全体像や、仕入れ総額の変化と買出人の業態の関係をみていく。
巣ごもりスーパーで顕著
水産物取引で新型コロナの影響があったかを「仕入れ先の数」「仕入れ価格」「仕入れの総額」「仕入れの頻度」「販売価格」「売上高」「客足」の7項目に分けて調べた(表1)。
「客足」は、86%が「低下・下落した」と答え、その割合が最も高かった。次いで「低下・下落した」の割合が高かったのは、「売上高」の78%、「仕入れの総額」の72%の順だった。一方、「販売価格」では、「変化していない」が「低下・下落した」を上回った。
「客足」の明らかな減少が水産物の販売不振を生じさせ、「販売価格」の上昇が見込めない中、仕入れが消極的になる構図が出来上がっていたことが読み取れる。
業態別の影響は一様でなかった(表2)。市場側からみれば売り上げになる「仕入れの総額」と業態との関係をみると、「スーパー」は過半数が「上昇・増加した」と回答した。巣ごもり需要は、ほかの業種に比べて「スーパー」で顕著だったことが分かる。
「寿司屋」「飲食店(寿司屋以外)・旅館・ホテル」「卸問屋(商社含む)」「納め屋」は低下が顕著だった。新型コロナが外食業態に大きく影響し、それに連なる卸や納めに波及した。
監修者からひと言
小売型ビジネス有効
大石太郎・東京海洋大准教授
コロナ禍にもかかわらず水産物の「販売価格」で「変化していない」の割合が最も高かった点に注目したい。
経済学的に2つの解釈が可能だ。一つは消費者の外出自粛による需要曲線の左シフトと店舗の営業自粛・時短営業による供給曲線の左シフトが同時に生じた外食型の業態が多く存在したこと(図1)。もう一つは、消費者の巣ごもり需要による需要曲線の右シフトと外食店に向かうはずの水産物が流れたことで供給曲線の右シフトが生じた小売型の業態も多かったことだ(図2)。
「販売価格」はどちらもあまり変化しないが、需給量は大きく増減する。コロナ禍では、外食型の業態では多くの買出人とその仕入れ先の卸・仲卸業者が “負け組” に、小売型(特にスーパー)では “勝ち組” になった。
今後の外食型の業態では、小売型に近いビジネスモデルを柔軟に展開することが重要になる。例えば在宅ワーカーの自炊や中食の増加に対応しつつ飛沫(まつ)感染の恐れがない販売形態として、店内のテークアウトに加えて自宅への配達代行サービス(ウーバーイーツや出前館など)を導入する、瞬間冷凍やミールキットにした食品を電子商取引(EC)サイトで販売するなどがある。
その際、競合商品との差別化を図るために、高い品質や品揃えなどの豊洲市場の優位性を「豊洲ブランド」として生かすことが重要になるだろう。卸・仲卸業者と外食型の買出人らが一体となり、コロナ禍を飛躍のきっかけにできるような取り組みが少しでも増えることを期待したい。
(第5回へつづく)