水産振興ONLINE
水産振興コラム
20227
アンケートにみる「豊洲市場の現在地」
八田 大輔
(株)水産経済新聞社
第5回 仲卸業者アンケート①

第2回~第4回までは市場を利用する買出人側からの意見を紹介してきた。第5回以降は目線を変えて、場内事業者である水産仲卸業者からみた豊洲市場の実態を紹介する。2020年11月に行ったアンケート結果をまとめた「豊洲市場における仲卸業者へのアンケート調査報告書」を読み解いていく。まずは移転前後の「営業・店売りの時間」「顧客との決済方法」の変化に着目した。

店売りに前倒しと短縮現象
電子決済は微増にとどまる

築地から豊洲へ移転した前後で、「営業・店売りの時間」がどのように変化したか調べた。

「営業の開始・終了時刻」は、開始平均時刻が移転前の午前3時4分から、34分早まった午前2時30分に、終了平均時刻が移転前の午前11時44分から、43分早まった午前11時1分になった。築地時代より営業時間が9分短縮した。

グラフ1 店売りの開始・終了時刻
移転前は点線、移転後は実線
グラフ1 店売りの開始・終了時刻

一方で、「店売りの開始・終了時刻」(グラフ1)は、開始平均時刻が移転前の午前4時55分から、19分早まった午前4時36分に、終了平均時刻は、移転前の午前10時54分から、48分早まった午前10時6分になった。同じく移転を経て29分短縮した。

いずれの時間も「前倒し現象」「短縮現象」が確認できた。買出人の営業開始時間は決まっていることから、立地が遠くなった分だけ市場側で前倒し対応を強いられたうえ、閉店間際の「買い回り需要」に応えられなくなったことがうかがえる。

グラフ2 顧客との決済方法 グラフ2 顧客との決済方法

一方、水産仲卸業者が活用している「顧客との決済方法」(グラフ2)をみると、移転の前後でほぼ変化はなく、9割以上の業者が現金と掛けという伝統的なビジネスを依然踏襲している。新たな決済方法として注目を集める電子決済は、移転前の5社から8社とわずかながらの増加だった。

監修者からひと言

買い回りの価値を高める余地
中原尚知・東京海洋大教授

豊洲市場を訪れる買出人の数は築地市場時代より減少しているとされ、それも営業時間の前倒しや短縮に影響していよう。市場を訪れる買出人は、そこでしか得られない情報を活用しながら買い回り、十分な選別と時間短縮との両立を目指す。仲卸業者としてもそれに対応した営業を行おうとしているが、現時点でそこにミスマッチが生じてしまっている可能性を考える必要はあるだろう。

市場全体としての動線が変わったことで買い回りに時間を要するようになったという声もある。水産仲卸売場内での動きに加え、関連物販店、青果棟、駐車場などとの行き来もあり、そもそも多くの買出人にとって卸売市場は遠くなっている。電子決済の導入は進んでおらず、それへのニーズもそれぞれであろうが、現場での時短に結び付くとはいってよいだろう。

当然ながら買出人の業種・業態や規模、立地などによって豊洲市場を訪れるかどうかの判断や来場時の望ましい動線、所要時間・時間帯などは異なる。すべての買出人のニーズに合わせた対応が困難であることは自明であるし、大掛かりなハード面での対応は一朝一夕とはいかないが、営業時間や決済方法といった相対的に着手しやすい部分での対応によって買い回りの価値を高められる可能性はあると考えられる。

第6回へつづく

プロフィール

八田 大輔(はった だいすけ)

1976年静岡生まれ、名古屋大学文学部日本史学科卒業。上京して富士通系列のシステム会社でシステムエンジニアとして3年勤務した。退社後は日本ジャーナリスト専門学校スポーツマスコミ科に学び、卒業間近の2006年1月に(株)水産経済新聞社の編集記者に転じた。16年4月から報道部部長代理。中心的な取材分野は、卸売市場を中心とした流通全般、鮮魚小売業全般、中食産業全般など。専門商材はウナギ、干物類。そのほかの担当エリアとして北陸3県(富山・石川・福井)、福島県、千葉・勝浦、静岡県東部/西部。