「豊洲市場における買出人の仕入れ実態調査報告書」の中から、今回は海外に比べて普及の遅れが指摘されている電子商取引(eコマース=EC)の利用と、決済方法の実態を紹介する。国が2025年に決済方法全体に占めるキャッシュレスの割合40%を目標に掲げて推進政策を展開しているほか、新型コロナウイルスによる非接触決済の需要増から消費者相手では切り替えが進んでいるが、業者間取引がほとんどの場内取引はどうか。
決済方法、現金が8割超
アンケート調査を実施した21年1~2月時点で、水産物の仕入れの際にECを利用したことが「ある」とした回答は、全体のわずか5%だった(グラフ1)。86%の買出人がECを利用したことが「ない」。取引内容の精査は必要なものの、端的に買い出しで普及していない実態がうかがえる。
回答を保留した人の自由記載には、ECを使わない理由とおぼしきものも混在。「商品を目視できないから」「安定して希望した数量がくるのかどうか不安」「河岸に行って気に入ったものを買う」など、現状のECはリアルの買い出しの代替になり得ないという考えをもっている買出人が一定数いた。
一方、決済方法(複数回答可)をみると、82%が現金での決済を行っていた(グラフ2)。2番手以降には売り掛け(32%)、銀行振り込み(28%)と続いて、いわゆる伝統的な決済方法が上位を占めた。
電子決済が登場するのは4番手からで、「クレジットカード」と「電子決済(クレジットカード以外)」「手形」が並んだ。ただ、割合はわずか2%だった。「手形」は26年をめどに経済産業省が廃止を呼び掛けているために、近い将来になくなる可能性が高い。「その他」で「小切手」との回答も1%あった。
今回のアンケートの有効回答806部は、ごく一部を除き豊洲市場を日常的に利用している事業者中心のもので、電子決済が気軽に使えれば市場で仕入れをしたいという隠れたニーズがあることに留意する必要がある。
監修者からひと言
卸売市場との相性考慮を
中原尚知・東京海洋大教授
卸売市場とEC、電子決済について考えるための重要な基礎情報となった。
買出人の仕入れではECがほとんど利用されていなかったが、多くは鮮魚店や寿司店といった相対的に小規模な業者であり、生鮮魚介類を中心とした日々の変動を伴う多頻度・多品目・小口仕入れをしている。仲卸店舗で現物の品定めをし、現場で情報収集・交換する過程での予定変更や「ついで買い」がある。ECを競合ととらえるなら生鮮魚介類を中心に現段階では先んじているといえそうであるし、取り入れる対象ととらえるならば市場の特性をどう生かせるかを考える必要があろう。
決済では、一定の利用頻度や取引量のある仲卸業者との間では掛けや振り込みが、小口・スポット的な取引などには適宜現金決済が、それぞれ用いられていると考えられる。電子決済の普及度は低かったが、その利点には経費削減やキャッシュフロー改善などが一般に指摘され、現金だけでなく振り込み・掛けからの移行も可能性がある。導入の利点と初期費用・手数料との比較、多様化する電子決済方式への対応方法などを検討する意義はある。
ECや電子決済のニーズや得られる利益を適切にとらえながら対応していくために、業者単体の取り組みもさることながら、市場全体での基盤構築あるいは連携した取り組みを考える価値はあるだろう。
(第4回へつづく)