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水産振興コラム
20212
定置漁業研究について
第9回 新たな資源管理システムと定置漁業について
中村 真弥
(水産庁資源管理部管理調整課)

1. 定置漁業の重要性について

全国津々浦々の漁村では様々な沿岸漁業が営まれており、「地魚(じざかな)」と言われるような各地域の多様な魚介類を漁獲し、漁村の地域経済を支える重要な産業となっています。

その中で、定置漁業は沿岸漁業生産量の多くを占める中核的な漁業として、漁村地域の経済を支えてきた重要な漁業であるとともに、サケ、ブリ等の日本の食卓には欠かせない多種多様な魚の安定供給に大きく貢献してきたと承知しています。

また、定置漁業は、新規就労者が入りやすく漁村地域の雇用を創出するとともに、人手が必要な漁業であることから地域の活性化に寄与していると考えます。

沿岸漁業及び漁村は、自然環境を保全する機能、国民の生命・財産を保全する機能、交流等の場を提供する機能、地域社会を形成し、維持する機能等の多面的な機能を発揮しており、水産庁においても、このような沿岸漁業の重要性を踏まえ、地域ぐるみで収益性の向上や浜の機能再編を図る取組を進め、漁業者の浜単位での自主的な取組を促進していくこととしています。

2. 改正漁業法における資源管理

さて、定置漁業個別の案件に入る前に、まずは資源管理全体の話をさせていただきます。

漁業法等の一部を改正する等の法律(平成30年法律第95号。以下「改正法」という。)が令和2年12月1日に施行されました。改正後の漁業法(昭和24年法律第267号。以下「法」という。)に基づく新たな資源管理システムにおいては、資源評価を踏まえ、持続的に生産可能な最大の漁獲量(MSY)の達成を目標とし、漁獲可能量(TAC)による管理を基本としています。また、TAC管理は、漁獲割当て(IQ)による管理を基本とすることとされています。

他方、水産資源の特性や採捕の実態を踏まえ、TAC管理が適当でない場合は、漁獲努力量(操業日数・時間、隻数など)による管理を行うこととしています。

また、漁業者が自主的に取り組む措置を内容とする資源管理協定(法に基づき、大臣又は知事が認定)を締結することを推進し、我が国全体で適切な資源管理が行われることを目指していくこととしています。

法においては、国にあっては資源管理基本方針を、都道府県にあっては都道府県資源管理方針を定めることとされています。この資源管理基本方針は、資源管理に関する国の基本的な方針という位置付けになることから、中長期的な視野に立って定めるべきものである一方、資源管理の基本原則として規定された漁獲可能量の具体的な数量については、資源の状況や国際的な枠組みによる決定を受けて機動的に定めることが求められるため、資源管理基本方針で定める水産資源ごとの資源管理の目標に基づいて、別途、毎年の漁獲可能量を設定する仕組みとされています。

⑴ 資源管理基本方針

水産政策審議会の意見を聴き、大臣が定める。水産資源ごとの具体的内容は、順次規定していく。

⑵ 都道府県の資源管理方針

都道府県知事が定め、大臣が承認する。

3. 資源管理基本方針について

改正法附則第3条第1項の規定に基づき、同法第1条の規定による改正後の法第11条第1項の規定の例による、資源管理の基本的な考え方や方向性を示す資源管理基本方針が令和2年10月15日に公表されました。

この資源管理基本方針において、資源管理の意義・背景について、

とされています。この数量管理を基本とする資源管理制度については、定置漁業についても当てはまるものです。

では、どのように資源管理を行っていくか、ということですが、当該基本方針においては、基本的な考え方として、

とされています。

法は、漁獲努力量による代替措置も規定されているところであり、基本方針においても「水産資源の特性及びその採捕の実態により漁獲量の総量の管理を行うことが適当でないと認められる場合には、当該水産資源を採捕するために行われる漁ろう作業の量を漁獲努力量に換算した上で、漁獲努力量の総量の管理を行う。」とされています。

このため、各都道府県では、国から配分された数量を各都道府県が設定した知事管理区分に、「漁獲実績を基礎とし、当該水産資源を漁獲対象とする漁業の実態その他の事情を勘案して」、配分することとなり、その管理方法は、①:IQ(漁獲割当て)、②:漁獲量の総量、③:漁獲量を漁獲努力量に換算した努力量のいずれかとなります。③の場合、漁獲努力量を遵守している限りにおいては、都道府県から当該管理区分に対する採捕停止命令は発出されませんが、配分された漁獲可能量を大幅に超える場合には、次年度以降の換算係数の見直しが行われることとなります。なお、都道府県全体のTACが積み上がった場合や日本全体のTACが積み上がった場合には、それぞれ都道府県や国が発出する採捕停止命令は、当該管理区分も対象となります。

実際にどのような管理手法をとるべきであるかについては、関係者によって漁場環境の変化、操業の実態等も踏まえて考えていく必要があります。

なお、各都道府県資源管理方針についても、作成され次第、今後、公表されていく予定です。

4. 資源管理のロードマップ

法定ではありませんが、科学的な資源調査・評価の充実、資源評価に基づくTACによる管理の推進など、新たな資源管理システムの構築のための道筋を示したものとして、令和2年9月30日に決定・公表したところです。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kanri/200930.html

ロードマップにおいては、新たな資源管理システムの推進によって、令和12年度に、10年前と同程度(444万トン)まで漁獲量を回復させることを目標とし、令和5年度までに次の具体的な取組を進めることとしています(参考:平成30年漁獲量 331万トン)。

【主な内容】

今後は、これに盛り込まれた行程を1つ1つ、漁業者をはじめとした関係者の理解と協力を得ながら、実施することとしています。

また、新たなTAC対象魚種の設定に当たっては、現場の漁業者の意見を十分に聴き、必要な意見交換を行い、漁業者の意見を踏まえながら進めることが重要と考えています。このため、水産政策審議会の下に専門家や漁業者も参加した部会(「資源管理手法検討部会(仮称)」)を設け、資源評価結果や水産庁が検討している内容について報告し、水産資源の特性や採捕の実態、漁業現場の感覚など広い範囲での意見交換を行い、論点や意見を整理することとしています。

同部会における整理を踏まえ、「資源管理方針に関する検討会(ステークホルダー会合)」を開催し、議論を開始していくこととなりますが、当面は、複数回の開催など議論のための十分な時間をとるとともに、漁業者等からの要望に応じ、現地での説明会を行っていくことにしており、漁業者の理解と協力を得た上で進めていくことを考えています。

【具体的にTAC化の検討を進めていく魚種】

漁獲量の多いもののうち、MSYベースの資源評価が実施される見込みのもの
(○内数字は漁獲量順位 データ元:漁業・養殖生産統計(平成28年〜平成30年平均))

注:トラフグは「ふぐ類」の一部として集計。キンメダイは「その他の魚類」の一部として集計。

5. 定置漁業と新たな資源管理

定置漁業者と話をさせていただいていると、数百年前から資源を利用し、共存してきた、という御意見をいただきます。他方、小さな魚の混獲といった魚種選択制の低さもあり、漁法に対する批判があることも事実かと思います。また、国際的に見れば、各地域漁業管理機関における資源管理の主流は漁獲量管理であり、そのことは念頭に置く必要があります。一方で、定置漁業の利点等について、積極的に行政が対外的な広報に努めるべきとの御意見もいただきます。このため、もうかる漁業創設支援事業による取組内容や、太平洋クロマグロ漁獲抑制対策支援事業の結果等について公表するなど、周知に努めているところです。

個人的には、遠隔魚探や水中ドローン・カメラによる入網予測といった取組が定置漁業における資源管理に役立つのではないかと考えています。特に可視化されるというところは大きいと思います。現在の技術でもタブレットの操作で陸上から水中の状況を一定程度確認はできています。また、入網状況等を遠隔で確認することにより、どのタイミングで水揚げに行けばよいのか、どれだけの氷を積み込み、乗組員は何人集めて漁場へ行けばよいのかということもあらかじめ確認できるようになると思います。これは資源管理だけでなく、コストを見据えた収益性の観点からも有益であると思います。水揚げ情報によってどのような魚種がどれだけ獲れたかという答え合わせもすることができます。知見の蓄積が進めば、入網予測の精度も上がるのではないかと考えます。さらに、網の吹かれ具合の状況も確認できることから、災害対策としての設置状況の確認や、漁獲にも影響する網の汚れ具合の確認もできるのではないでしょうか。

また、金庫網に入る性質のある魚種については金庫網の活用や、選別網による対応も地域によっては行われています。

各地で様々な資源管理の取組や技術開発も進められていますが、その地域や漁場にあったやり方があると思います。他方、状況の変化に応じた取組をされているところもあります。国においてもデジタル化をはじめとした取り組みを進めているところですが、変化に対応しうる定置漁業を目指すことも大事ではないかと思います。

6. 結びに

人口が減っていく中においても、定置漁業は、沿岸漁業の中核的漁業であり、他の皆様も御意見されているように地域活性化に欠かせないものであり、持続的な漁業として各浜で操業されることが期待されます。

今後、新たな法の下における漁業の免許が行われていくことになります。令和5年9月以降の免許の一斉切替えに当たっては、これまでどおり、その時代における注意事項等を技術的助言として、水産庁から都道府県宛に発出することになると思います。定置漁業権にあっても、現状では漁獲量管理の難しさはあるものの、他の漁業が厳格な漁獲量規制等を行っていることを踏まえ、定置漁業の海区漁場計画の作成や変更については、単に免許統数に限らず、漁業時期、漁場の区域、敷設位置、網目、ウミガメの保護等について、都道府県の資源管理方針との整合性を確保していくことなどが重要であり、こうした観点を踏まえたものになっていくものと思われます。

漁場環境の変化、水産資源の来遊状況の変化、災害の発生といった変化等に対応できうる漁業を目指し、他地域の定置漁業者や他分野の関係者とのネットワークによって、地域だけでは生み出しにくい新しいアイデアを取り入れる協働や共創といった考え方は、今後の定置漁業においても重要であると考えます。

プロフィール

中村 真弥(なかむら まさや)

水産庁資源管理部管理調整課

1979生まれ。2002年東京水産大学卒業後水産庁入庁。沿岸沖合課沿岸調整班免許調整係長、同課漁業調整官、九州漁業調整事務所漁業監督課長、下関市農林水産振興部参事兼水産課長を経て、2016年4月から現在、管理調整課課長補佐(沿岸調整班担当)。