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水産振興コラム
20213
定置漁業研究について 第11回 定置漁業と漁獲量管理について
第11回 定置漁業と漁獲量管理について
長谷 成人
((一財)東京水産振興会理事)

昨年の6月に、水産振興コラムにおいて、秋サケの大不漁のような気候変動等に伴う対象魚種の動向変化、大型化する台風等のリスク増大、魚種選択性が低い中で漁獲量管理に軸足を移す国の資源管理方策への対応等定置漁業の課題を挙げさせていただきました。

その後、リレー形式で定置漁業をめぐる諸課題について多くの方からの報告がこのコラムに寄せられました。

7月7日には、コロナ禍の中、当振興会において座談会を開き、その様子は「座談会 定置漁業研究」(水産振興第624号)として公表されました。現在、この座談会で合意された項目について、関係者が分担しながら今年度中の報告書作成に取り組んでいます。

その間にも、コロナ禍は第3波が来て再度の緊急事態宣言となり、経済に大きな影響を与えています。また、シーズンを終えた秋サケ漁は今回も極めて厳しい結果となりました。深刻な回帰率の低下は水温上昇による影響が大きいとされていますが様々な角度からの分析が必要であろうし、それを踏まえた改善が求められています。それにしても、短期的な回復がなかなか望めないことを踏まえ北海道や東北各県においては経営が成り立つ適正な網数の検討が次回の免許更新に向けて大きな課題となっています。

定置漁業研究 座談会参加メンバー 水産振興コラムにも寄稿 定置漁業研究 座談会参加メンバー 水産振興コラムにも寄稿

そのような中、(一社)日本定置漁業協会の機関誌「ていち」に定置漁業における漁獲量管理について寄稿する機会を頂きました。その内容は、今回の一連の定置漁業研究の検討項目の一つであり、より多くの方に見て頂きたいとの思いで、協会のご理解を得て、このコラムにおいてもその内容を披露したいと思います。
(以下「ていち」の原稿から。)

1. はじめに

2020年12月1日、改正漁業法が施行された。2年前の12月8日未明改正法が成立した時に水産庁長官であった者として、あれから2年、施行に向けて膨大な作業に取り組んできた関係者にこの場を借りて敬意を表したい。

今回の一連の水産政策の改革の狙いは、我が国の人口減や気候変動に加え、周辺海域での外国漁船の操業活発化など我が国水産業をめぐる環境変化の中、なんとか資源を増やして、儲かり、年齢バランスのとれた産業にしていこうというものだ。このため、特に資源管理については漁獲量管理(TAC管理)に軸足を移すことになった。

我が国の漁業生産量の減少については、様々な要因が考えられる。他産業や一般国民との関係でしか解決できないダムや護岸工事の影響、栄養塩不足、酸性化、プラスチック問題等々だ。しかし、適切な資源管理を行っていれば、その減少を防止・緩和できたと考えられるものも多い。

我が国では、歴史的に漁船の数や大きさなどの漁獲努力量による管理や産卵期の保護、体長制限などの漁業管理が主流であった。それは沿岸漁業の生産量の相当部分(近年約4割)を定置漁業が占めるだけでなく、刺し網漁業など、来遊する資源を待って漁獲する傾向の強い沿岸漁業が各地で多様に発達してきた我が国漁業の特徴を踏まえたものだった。しかし、近年の漁獲に係る技術革新により従来型の管理では資源管理上後手を踏んでしまうことが多いことや、特に我が国周辺水域に大挙して押し寄せるようになった乱獲体質の外国漁船の漁獲抑制を(我が国単独では難しいため)他の漁業先進国と協調しながら進めていく必要性が高まったことなどから、今回の「軸足変更」を行ったものである。

先程あげたような漁業外との関係で改善を図っていかなければならない問題を少しずつでも前進させるためにも、漁業界自身で取り組める漁獲量管理による資源管理や資源回復について努力し成果を出している姿を見せることが、人々の漁業への共感そして協力を得るために重要なことだと思う。

漁業に限らず社会全体に持続性について赤信号が灯り、大きな変化の時を迎えている今、現実にしっかり立脚しながらも従来どおりの発想から踏み出して柔軟に将来を切り開いていくことが求められている。

2. TAC法下での漁獲量管理

我が国の国内での漁業管理に漁獲量管理が本格的に導入されたのは、1996年の国連海洋法条約批准に合わせて成立した「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」(通称TAC法:改正漁業法の施行により廃止)からである。

TAC法の下、クロマグロの取組以前は、定置網については、いわゆる「待つ漁業」であり、資源を選択して採捕することが極めて難しいことから、漁獲の限度量を定めたとしてもその管理が困難であるとの割り切りの下、TAC魚種の漁獲が多い都道府県であっても、その過半が定置網による場合には数量配分をせず「若干」量として配分され、理念上はともかく事実上は漁獲量管理の枠外に置かれてきた。

このため、底建網などの小型定置を含め定置網でTACの制約を受けながら管理が行われてきたのは実質的に北海道におけるスケトウダラに限定されてきた。

ここで思い出すのはスルメイカのことである。TAC法制定当初TAC対象魚ではなかったスルメイカについて、大臣許可漁業による漁獲の抑制を目的に当時全国の小型いか釣りの長でもあった全漁連の植村会長が先頭に立ってTAC対象魚にするよう強い要請があった。しかし、小型いか釣り漁業は漁獲量のシェアが大きい一方その主力は各県の許可を持ちながら漁をするいわゆる旅船で操業水域が一定せず都道府県ごとの漁獲量管理になじまない。このため、わざわざ知事許可漁業(一部自由漁業)であるものを大臣届出漁業にもしてTAC法上の大臣管理漁業とすることで都道府県のTACはすべて「若干」とし、何とかスルメイカをTAC 魚種にしたのである。

そのような苦心の末になんとかTACの運用を行っていたが、羅臼の定置網で万トン単位のスルメイカが漁獲された。すると水産政策審議会において大臣管理の中型いか釣り漁業や沖合底びき網漁業の代表から、自分たちはTACの制約のなかで操業しているのに不公平ではないかという不満が表明されたのである。当時審議会に出席していた私は、「若干」として扱われている事情や、このスルメイカは研究者の見解によれば死滅回遊であり資源の再生産には寄与しないとされていることなどを答弁したのである。

このケースは死滅回遊などという要因も加わってかなり特殊ではあるが、TAC管理についての合意形成には関係漁業間の公平感が大事であるということは忘れてはならない。

3. 資源管理ロードマップ

9月30日、水産庁は新たな資源管理を推進する上で、当面の目標と具体的な工程を示した「新たな資源管理の推進に向けたロードマップ」を発表した。資源評価対象種を拡大するとともに漁獲等情報の収集のために水揚げ情報を電子的に収集する体制を整備しつつTAC対象魚種を拡大することなどが示されている。

図:資源管理ロードマップ(TAC対象魚種の検討部分) 図:資源管理ロードマップ(TAC対象魚種の検討部分)
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2021年からは、専門家や漁業者も参加した資源管理手法検討部会(仮称)を水産政策審議会の下に設け、論点や意見を整理し、漁業者及び漁業者団体の意見を十分かつ丁寧に聞き、現場の実態を十分に反映させるとしている。

検討候補に挙げられている15種は漁獲量が多いものを中心に資源研究機関から見てMSYベースの資源評価が可能だとされている魚種である。

これらの資源の漁獲における定置漁業のシェアを見たのが表1である。統計上に無いキンメダイを除く14種について示している。

表1:魚種別漁獲量に占める定置網及び大臣許可漁業漁獲量比率(2016〜2018年)
出典:漁業・養殖業生産統計
表1:魚種別漁獲量に占める定置網及び大臣許可漁業漁獲量比率(2016〜2018年)出典:漁業・養殖業生産統計
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これを見ればベニズワイガニやニギスのように明らかに定置漁業とは関係しない魚種(表に無いキンメダイもそうであろう)がある一方でブリやサワラのように定置漁業の漁獲が相当の割合になる資源が含まれている。

4. クロマグロ管理から得られた教訓

漁獲量管理についての合意形成には、関係者間の公平感が重要になることについてはすでに述べた。ほかの人が規制を受けないまま自分だけが規制されること、「正直者が馬鹿を見る」ことが明らかな規制に合意を得ることが難しいのは世の常識である。その意味で①外国との間に資源管理の共通基盤がない魚種(現行TAC魚種のうち外国水域とのまたがり資源など)、②漁獲量の把握や現場での規制が難しい遊漁の漁獲が多い魚種(マダイなど)に加え、③定置漁業を始めとする魚種選択性の低い漁法のシェアが高い魚種(ブリなど)は検討のハードルが高くならざるを得ない。

定置漁業は漁獲量管理とは相性が悪い。クロマグロについては、資源が歴史的な低水準まで減少している状況で漁獲量管理による資源回復についてようやく国際合意ができた中で定置漁業の漁獲割合が高く定置漁業の規制なくしては合意の履行を見通せなかった。このため、TAC法の下でも収入安定対策のフル活用などもしながら、大変難しい取り組みを定置漁業者にも実践して頂いてきたところである。せっかく入網したクロマグロを放流するなどいわば漁師の本性に反するような取り組みで悪戦苦闘している中、ここから様々な意味で次のステップに繋がる教訓が得られると広域漁業調整委員会の場などでお話しさせて頂いたものだ。

地域により漁法により得られた教訓は様々であったと思うが、ちょっと考えただけでも①クロマグロのように資源状態が極めて悪くなってからの資源回復には大きな困難が伴うこと、②定置での魚の取り控えについては魚種判別が可能となる魚探の普及などで一定程度の技術的改善は図れること、③放流についても魚種ごとの特性を踏まえる必要があるが大量に入網した際には側を沈める方法に習熟することで相当程度対応できること、④クロマグロについては国際合意を順守するため収入安定対策をフル活用したが、必要な国の予算がかなり大きくなること、などである。

しかしTAC対象種を増やした場合、すべてをクロマグロのように放流することはとても現実的とは思われない。無理にしようとしても手間がかかりすぎ経営が成り立たない。一方でTAC管理について合意を生み出すためには前述のとおり一定の公平感を持ちつつ資源を利用する者が取り組むことが不可欠だ。

今後、国をあげて厳しい環境変化に耐えて漁業存続のために資源管理に努める時に、定置業界としても、現実的に可能な範囲で最善の努力をして欲しい。そのことが今回の取組の成否に大きく影響すると思っている。

定置業界として現場の実態を十分に反映させるため、早急に考え方の整理を進める必要がある。

5. 改正漁業法と資源管理基本方針

10月15日には改正漁業法第11条第1項に基づき農林水産大臣が定める資源管理基本方針(以下、「基本方針」)も決定された。この基本方針は、TAC制度を始めとした資源管理に関する基本的な事項や重要事項を示したものである。今後、この基本方針に沿って検討が進んでいくであろうことから、定置漁業にTAC制度をいかに適用していくのかについて改正漁業法とこの基本方針に沿って考えていく。

(1) 努力量による管理について

改正漁業法の第8条(資源管理の基本原則)の第5項において、資源の特性やその採捕の実情を勘案して漁獲量での管理を行うことが適当ではないと認められるときは、TAC魚種であっても漁獲量での管理に代えて漁獲努力量での管理を行うとしている。したがって、定置漁業での影響が小さい資源については、魚種選別が難しい定置漁業における採捕の実情を勘案して、この規定に従って全体としての資源管理に協力していくということが基本姿勢となろう。

そこで、具体的にはどの都道府県のどの魚種が漁獲の影響が大きく漁獲量管理が必要とされるのかの線引きが重大関心事となる。

(2) 都道府県への配分

基本方針の第5の3「都道府県への配分」は次のとおりとされている。①(大臣管理漁業を含む)国全体の漁獲量のうちおおむね80%の漁獲量を構成する漁獲量上位の都道府県については、原則として配分数量を明示、②それ以外の都道府県については、「現行水準」の漁獲量であれば、資源に与える影響は少ないものとして、配分数量を示さず目安となる数量を示して隻数・操業日数等の漁獲努力量を通じた管理を行うものとし、「現行水準」により配分する。ただし、目安となる数量について当該都道府県が希望する場合は、配分数量を明示する。③①及び②の規定にかかわらず必要となる場合には配分数量を明示する。

③についてはその資源を漁獲対象とする新たな漁業が発生し漁業構造の大幅な変化が生じた場合や極めて厳格な数量管理を行わないと国際合意を順守できず国際交渉において大きな不利益を受けてしまうといった特別な場合に備えての規定なので、都道府県に対して数量を明示して配分することが基本方針に明記されているクロマグロを除き、今のところ具体的に想定されているものはないと仮定して議論を進める。

この方針によれば定置漁業だけでなく、刺し網や釣り漁業などを含め沿岸漁業全体での漁獲量が国全体の80%の漁獲量を構成する上位の都道府県では数量が示されることになる。

この考え方により、すでにさんま、まあじ及びまいわしについての配分がなされている。

表2:令和3年管理年度のTAC配分総括表、都道府県分(令和2年12月時点) 表2:令和3年管理年度のTAC配分総括表、都道府県分(令和2年12月時点)

数量が配分された都道府県では、これを受け都道府県資源管理方針を定め都道府県内の主要漁業種類にTACを配分する。ここでも、国が行ったように、当該都道府県全体の漁獲量のうちおおむね80%の漁獲量を構成する上位の漁業種類(知事管理区分)について、原則として漁獲枠を明示することになる。このことはすでに国が10月に都道府県に対して示した事務処理基準にある。

表2の魚種のうち定置漁業を知事管理区分として独立させて数量配分したのは宮城県のまいわしだけであり、多くの道県では沿岸漁業全体で管理するとしている。

TACを漁業種類あるいは都道府県ごとに配分する際のシェアについては、直近3か年の漁獲実績シェアの平均値を用いることを基本とするというのが水産庁の考えである。

TAC対象魚及び検討候補魚種について、この検討のスタート台となる考え方に基づけば、どの魚種がどの都道府県に漁獲配分され、そのうちどの都道府県においてさらに定置漁業に漁獲量配分がなされることになりそうなのかの洗い出しが検討のために必要である。

表1で示したように定置漁業でほとんど漁獲されない魚種もあるが、水産庁が示した事務処理基準の考え方に従えば多くの都道府県に漁獲枠が配分されることが想定される。

魚種ごとの個々のケースでは、直近年の統計でもその後の減船、廃業等の操業実態の変化が反映されていないといった事情もあり得るだろう。そのような検証のためにも、「資源管理手法検討部会」での検討に当たっては、水産庁から、検討のたたき台として、各候補魚種、各都道府県ごとの数量配分のイメージを定置漁業のシェアも含め示してもらいたい。

(3) 配分

TACの話をする場合、水産資源を適切な水準に維持し、減ってしまった資源について増やすことについて総論で反対する人はほとんどいない(供給量が増えすぎて魚価暴落することを懸念する人はいる)。しかしながら各論になるとなかなか難しくなるのは、要するに、TAC規制が課されることによって自分の操業が制約を受けることへの懸念なのである。自分の操業がどの程度制約を受けることになりそうなのか、そのイメージを持たないことには賛成とも反対とも判断のしようがないのは当然のことである。そして、毎年の来遊や漁獲が安定的で計画的な操業ができるのであればいいが、水産資源の特性上そうはならないところに悩ましさがある。

クロマグロの配分についても、漁業種類間でこれまで議論が繰り返されてきた。大臣許可漁業も操業水域による規制がありどこで漁獲してもいいわけではないが、来遊の変化を操業努力でカバーすることが、より広い水域で操業する分だけ容易である。来遊した資源を前浜で待って漁獲する沿岸漁業、中でも待ちの漁業の典型である定置漁業は、年ごとの来遊変化による影響をもろに受ける宿命にある。不漁の年はTACの制約は受けにくい反面、せっかくの豊漁時に、特に何年か不漁が続いた後の、今年こそはここ数年のマイナスを帳消しにできるというような場面で漁獲制限を受けることの心配は大きい。各漁業種類間にどのようにTACが配分されるのかは重大関心事にならざるを得ない。

このことについて資源管理基本方針の第5「特定水産資源ごとの漁獲可能量の都道府県及び大臣管理区分への配分の基準」の1には 資源ごとのTACの都道府県及び大臣管理区分への配分の基準は、漁獲実績を基礎として漁業の実態その他の事情を勘案して定めるとある。具体的には、直近3か年の漁獲実績シェアの平均値(基本シェア)を算出し、これを(毎年スライドさせることなく)3か年(漁期)にわたって用い、別途の合意がある場合には、それを尊重するというのがこれまでの水産庁の考え方である。

資源状態が比較的安定し、漁獲実績に比べ窮屈でないTACが設定される場合は、この基本シェアでの配分と後で述べる留保の活用で運用できたが、資源状態が厳しいスケトウダラなどについては「別途の合意」ができるよう仲介をさせてもらったこともある。また、クロマグロのように資源回復のために実績を割り込むようなTACが設定される場合には、漁場形成の変動性が高い定置漁業を始めとする沿岸漁業の制約がより大きくなることから、実績について過去3か年の平均ではなくその間の最大値を使ってシェアの計算をするという「別途の合意」が生み出された。

定置漁業について数量配分されるなら、臨機の対応が難しくなることも想定しつつ、それぞれの魚種について基本シェアによる配分に加え後述の留保と融通で対応可能なのか、過去の漁獲実績の変動性等客観的なデータを用意して議論していく必要がある。

(4) 留保

資源管理基本方針第5の2には「留保の設定」として、年によって異なる漁場形成の変動や想定外の来遊等に対応するためTACに留保枠を設けることができるとの考え方が示されている。クロマグロの留保枠では小型魚で15%、大型魚で10%を超えない数量ということになっているが、変動の大きな定置漁業や沿岸漁業から見ると一般的にはより大きな留保枠がある方が安心ということになるのだろう。各資源ごとに過去のデータから適切な留保枠がどの程度なのか配分のルールとともに全体のバランスの中で議論していく必要がある。

(5) 枠の融通

基本方針第5の4は「枠の融通」として、農林水産大臣は各都道府県間及び大臣管理漁業と都道府県との間の融通を可能な範囲で行うこととされている。

クロマグロでもすでに実践されていることであるが、このような手法も臨機に行えるよう習熟していくことが重要である。

そのためには、基本方針には記載されていないが、大臣を介さず、日ごろから都道府県間の協力体制を築いておくことが有益と考えられる。日本定置漁業協会の役割もますます重要になってくる。長年にわたって協会とお付き合いしてきた者として協会の機能強化が重要と痛感している。

(6) 指導、助言、勧告

定置漁業にも数量配分され、留保や枠の融通を駆使してできるだけ操業上の支障が生じないようにするとして、それでも漁獲枠を超える恐れが出てきたときのために、制度上は法第32条第2項に基づく助言、指導、勧告が用意されている。助言、指導、勧告はいずれも行政指導と言われるもので、助言、指導、勧告の順に強くなるものとして位置づけられている。その際には、定置漁業の特性を踏まえつつ①当該魚種がまとまって入網していることが認められる場合には漁獲を控える、②同様の場合再放流に努める、③事前に主漁期を決めておいて一定水準になったら以後主漁期の間は漁獲を控える、といったことが考えられるのではないか。

枠の超過は若干のことであり、他の漁業では未消化分があり資源に悪影響が考えられない場合などは別にして、そのことにより全体のTACが超過した場合など翌漁期の当該都道府県の枠の削減に結びつく可能性があり、同じ都道府県内の他の沿岸漁業者に迷惑がかかりかねないことからこのようなことも定置業界として具体的に考えていく必要がある。

また、数量配分されていない場合については、資源管理方針第5の3の(2)で、「配分数量を示さず目安となる数量を示して隻数・操業日数等の漁獲努力量を通じた管理を行う」としているが、定置漁業の場合機械的な隻数(統数)や操業日数ではなく、このような場合についても目安数量を見つつ①「漁獲を控える」、②「再放流に努める」といったことが現実的だと思う。

助言、指導、勧告については、都道府県は行政手続法第36条に基づき行政指導指針を定め公表することになる。現場感覚で可能な対応について事前に都道府県水産部局とよくよくすり合わせを行うことが重要である。

(7) 採捕停止命令

混じりによる混獲がつきものの定置漁業に一般的な採捕停止の命令を機械的に課すことは現実的ではないと思うが、あらかじめ準備ができていれば、その経営を支える主要魚種の主漁期について漁獲が進んだ段階でそれ以上の漁獲は控えるといった限定的な命令は可能ではないか。

これについても、クロマグロもブリもとなった場合はその影響は大きい。事前の十分な検討が必要である。

6. その他今後考えるべきこと

以上、上記5では改正漁業法と基本方針をもとに考えてみた。まずは、配分、留保、融通を駆使して可能な限り経営上の制約を受けないようにしつつ、全体としての資源管理、資源回復に貢献していくということがポイントになるが、せっかくの機会なのでいくつかの点に触れたい。

(1) 収入のプール制とIQ

同じ県内、同じ湾内であっても、東西南北で漁獲状況に大きな違いが出るのが定置漁業である。県内全体では漁獲が進んでいても個別の網ではまだという例も当然出てくるだろう。すべてを収入安定対策で対応することには当然限界があるので、収入をプールする共同経営化や、逆に個別の網ごとに目安の数量をもつIQ化なども地域ごとに検討が必要になってくるのではないか。

(2) 小型魚の扱い

これまで販売できず廃棄対象にしかならなかった有用種の稚魚については、自ら養殖する、種苗として出荷する、それが無理なら放流するなどの取組を一層推進すべきである。

(3) 超過収入の還元

さらに、一つ一つの魚種であればそれなりに対応可能なものであっても、上記5の最後に「クロマグロもブリも」の例を出したようにTAC魚種が多くなってきた場合、待ちの漁業であり様々な魚種の組合せで経営を成り立たせている定置漁業の場合、すべてのTAC魚種に対応して一時的にせよ採捕停止することには大きな困難が伴う。特に主対象ではない魚種の混じりの積み重ねにより全体の資源管理に悪影響を与える場合などはなおさらである。

クロマグロ管理の際も、北から南までの来遊の変動性を緩和するため全国でのTACのプール管理ができないかとか、どうしても超過してしまった場合他漁業者に迷惑料的なもので清算できないかといった検討を行った。

全国でのTACのプール制は特定地域の突発的多獲によりアッという間に崩れ去ったが、その後枠の融通制度の方に結びついて行った。

金銭的解決の方はシステム化までには至らなかったが、漁獲量管理による資源管理が進む中で、今後定置漁業と他種漁業との調整がより頻繁に必要になると想定される。スマート水産業の進展により漁獲実態の把握が正確に行われるのに期待して、避けられない超過漁獲分の収入についてシステム的に公的な資源管理基金的なものに拠出されることにより迷惑をかけた漁業者への還元を行うことができれば、調整がよりスムーズに行われるのではないか。

混獲魚種だけではなく、例えば現在は良好なブリ資源だが、強度の漁獲抑制で資源の回復を図らなければならない局面が来ることもあるのではないか。そうならないようTAC制度を運用していくことこそが重要ではあるが、主漁期の採捕停止だけでなくその後の混じりでの漁獲超過が少なからぬ資源への影響を与える時などにもこのようなシステムが有効ではないか。

長年業界間調整、県間調整をしてきた人間としてこういう仕組みがあったらいいなと思ってきた。収入安定対策についても当初から深く関わった人間として、漁業収入の捕捉機能のある漁獲共済や積立ぷらすの発展型としてそのようなシステムができないかとも考えてきた。マイナンバーの議論と一緒で収入について隅から隅まで捕捉されるような管理社会は嫌だとか漁業の面白みが失われるという漁師の声が今にも聞こえてきそうだが、今後の社会の進み方を見据えたとき検討の価値はあると思ってきた。システムのあり方にはいろいろな形があり得ると思うが、この場を借りて活字にしておきたい。

プロフィール

長谷 成人(はせ しげと)

長谷 成人 (一財)東京水産振興会理事

1957年生まれ。1981年北大水産卒後水産庁入庁。資源管理推進室長、漁業保険管理官、沿岸沖合課長、漁業調整課長、資源管理部審議官、増殖推進部長、次長等を経て2017年長官。2019年退職。この間ロシア、中国、韓国等との漁業交渉で政府代表。INPFC、NPAFC(カナダ)、宮崎県庁等出向。現在 (一財)東京水産振興会理事