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水産振興コラム
202311
変わる水産資源-私たちはどう向き合うか

第2回 わが国の水産資源の特徴と利用上の課題
— 多品種少量生産と好まれる魚と獲れる魚のギャップ

和田 時夫
(一社) 全国水産技術協会

1. はじめに

連載の手始めに、持続可能な利用を考える上でのわが国周辺の水産資源の特徴と、MSY(最大持続生産量)を基準とするわが国の資源評価・管理の基本的な考え方や実際の管理にあたっての課題をご紹介します。さらに、国内における生鮮魚介類の需要と供給のギャップについてお話しするとともに、最近の地球温暖化の進行や社会情勢の変化を踏まえて、変化に合わせた資源利用の必要性について考えます。

2. 多品種少量生産

わが国の水産資源の特徴であり課題でもあるのが「多品種少量生産」であるという点です。図1に、まぐろ類のように国際的に管理されているものをのぞき、資源量が算定されている浮魚類9種16系群、底魚類15種26系群について、令和4年度の資源評価調査(水産庁/水産研究・教育機構)に基づき、資源量と漁獲率の関係をプロットしました。系群とは、水産資源を評価・管理する場合の単位であり、同じ魚種でも、太平洋側と日本海側のものを分けるなど、資源や漁業の動きを考える場合に独立したものとして扱えるものを指しています。図1では、太平洋系群、対馬暖流系群といった具体的な系群名は示さず、魚種名のみを示しました。また、漁獲率とは、資源量に対する漁獲量の比率(漁獲量÷資源量)で、資源に対する一定期間(通常は1年)における漁獲の強さの程度を示しています。

資源量については値の範囲が広いため対数で表示していますが、平均値(中央値)は、浮魚類が27.3万トン、底魚類が1.0万トンで、スケトウダラなどをのぞき、底魚類の資源量が小さいことが目立ちます。また、浮魚類、底魚類ともに資源量が少ないものほど漁獲率が高い傾向にあります。水産資源は生物資源であり、親が子を産む再生産により資源が維持されています。魚種によって再生産の能力には違いがあり、資源が小さく漁獲率が高いからと言って直ちに乱獲だという訳ではありません。しかしながら、大きな資源と比べて、漁獲の影響を受けやすく環境変動に対しても弱いことは確かであり、特に底魚類では、木目細かい評価・管理が必要です。このため、多くの魚種・系群で、鮮魚としての全国的な流通や加工原料としての安定供給には制約があることに留意が必要です。

加えて、地球温暖化による水温上昇を背景とした水産生物の分布・回遊の変化により、漁業にとっての利用性が変化する一方、サンマやスルメイカのように急速に資源減少が進んでいる資源があることにも注意が必要です。

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図1. わが国周辺の主要な水産資源の資源量と漁獲率
(水産庁/水産研究・教育機構:令和2年度資源評価調査に基づく)

3. MSY基準の資源管理とは?

MSYは水産資源管理における基本理念として、国連海洋法条約においても目指すべき目標として規定されています。わが国においても、2018年の漁業法の改正により水産資源の評価・管理はMSYを基準とすることになり、現在、対象となる魚種・系群の拡大が計画的に進められています。

水産資源の場合、親と子の量的な関係を表す再生産関係は、親の量が少ないうちは生まれてくる子の数は親の量に比例して増えますが、親が増えてくると子の数は次第に頭打ちとなるか却って減るようになります。これは、密度効果と呼ばれ、資源が利用できる棲み場所や餌に限りがあるためと考えられています。また、漁獲により親の量も減りますから、漁獲が強すぎると生まれてくる子の数も減ることになります。

生まれた子の数は、時間とともに他の魚に食べられたり漁獲されたりして減っていきます。一方、成長によって体重は増えるので、子世代全体の重量は、体重の増加が数の減少を上回っているうちは増加しますが、そのうち体重の増加が数の減少に追いつかなくなると子世代全体の重量は減少し、期待される漁獲量も低下します。

このような資源の増減の仕組みに基づいて、それで漁獲を続けたときに漁獲量を最大にする漁獲の強さを考えることができ、その時の漁獲量をMSYと呼んでいます。MSYを基準とする管理においては、親の量をMSYが実現される水準以上に維持すること、漁獲の強さをMSYが実現される値よりも低く保つことが目標になります。以上ご説明した内容を、記号とグラフを使って図2に示しました。

MSYに対しては、気候変動の影響を受けて再生産関係が大きく変動する資源には適切ではない、単一資源を対象とした考え方であり複数資源を同時に管理できないなどといった批判があります。現在は、資源評価の開始から結果に基づいてTAC(漁獲可能量)やIQ(個別割当)を設定するまでに2年程かかっています。このため、年々資源量や各地の漁場への来遊量が変動するマイワシなどでは、評価結果と現実の漁況の間にズレを生じる場合があり、予め設定したTACの保留枠の活用や、次期のTACの先取りなどの対応が行われています。

こうした課題はあるにせよ、資源を維持するには一定以上の親が必要なこと、資源が利用できる棲み場所や餌には限界があり、無制限に増えることはできないことを考えると、MSYは1つの合理的な資源管理の目標であると言えるでしょう。

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図2. MSY算定とMSY基準の資源評価・管理の概念図

4. 好まれる魚と獲れる魚のギャップ

わが国の水産資源の利用におけるもう1つの課題が、消費者の皆さんが好む魚介類と、国内で漁獲される魚介類にギャップがあることです。図3は、2018年1月~2023年3月を対象に、主要な生鮮魚介類14品目について、全国の2人以上世帯の月別購入量(a)、全国主要港における月別水揚量(b)、わが国の月別輸入量(c)を比較したものです。あわせて、品目別の重量で重みづけした平均価格も示しました。

石山なな子・渡邉一功・和田時夫 (2023):最近の生鮮魚介類の国内消費の動向. JAFICテクニカルレビュー No.4, 24-34.

いずれも変動には季節性があり、特に購入量は12月にピークがあって日本のお正月には魚介類が欠かせないことを示しています。年間を通じて購入量が多い品目は、「まぐろ」、「さけ」、「ぶり」、「いか」、「えび」で、「あじ」、「かつお」、「さば」も比較的多く購入されています。「さんま」は、秋に集中して購入されてきましたが、近年の不漁を反映して、購入量が激減しています。これに対し、品目別の水揚量は、わが国周辺の水産資源の増減と季節的な漁況の変化を反映しています。近年では「いわし」と「さば」の水揚量が多くなっており、購入量が多い品目とはかなり違った組成を示しています。一方、品目別輸入量をみると、「さけ」、「まぐろ」を中心に、「えび」、「いか」、「さば」の輸入量が多く、購入量の多い品目に対応した輸入が行われています。また、2022年頃から購入量と水揚量が減少するなかで、輸入価格を含め価格が上昇しています。

わが国では、年間1人当たりの食用魚介類の消費は2001年の40.2kgをピークに減少が続いています。「まぐろ」や「さけ(サーモン)」などの購入量が多い品目は、お刺身の盛り合わせとしての購入や寿司や和食などの外食を通じた消費もあり、「魚離れ」が進む一方で、特定の品目への消費の集中も進んでいるようです。

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図3. 2018年1月~2023年3月の、主要な生鮮魚介類の月別の購入量、水揚量、輸入量および平均価格の変化
(石山ほか(2023)に基づく)

5. 変化に合わせた資源利用の必要性

FAO(国連食糧農業機構)によれば、世界的には、人口増加やかつての途上国の経済発展などを背景に水産物に対する需要が拡大を続けています。これまでのところは、養殖生産量の伸びなどにより需要を上回る供給が行われてきました。しかし、気候変動の進行や地域紛争、為替相場の変動などを背景に、水産物を含めた世界の食料需給関係は不確実性を増しており、自然環境や社会的情勢の変化に強い需給関係の構築が課題となっています。

わが国周辺の水産資源はわが国の食料供給にとっての頼みの綱であり、持続可能な利用を図る上で資源管理は不可欠です。一方、資源管理が効果を発揮するためには、手法や内容が実行可能なものでなければなりません。漁海況の変化にあわせたTACやIQの柔軟な運用はもちろん、資源状態について、関係者が直感的に把握し議論できるように、直接的かつ迅速なモニタリング手法の開発も必要です。太平洋クロマグロがよい例ですが、資源の回復を図る過程では、生産と消費の側に一定の我慢をお願いすることになります。消費者・実需者、生産者、管理者(行政・調査研究)の3者が「三方一両損」のような形で、納得して将来につながる資源利用を進めていくことが重要ではないかと考えます。

わが国が、強い経済力を背景に、海外から欲しい魚を欲しいだけ調達できた時代は終わりつつあります。今後は、国内資源の利用拡大を含め、生産・調達、消費・流通ともに多様性を持たせることが重要ではないかと考えます。さばの缶詰のブームは記憶に新しいところですが、加工品も含めた水産物全体では、まだまだ根強い国内の需要があります。国産の水産物を食べることで、国内の生産体制と市場を維持していくことも、消費者・実需者側からの取組みとして意識する必要があるように思います。

連載 第3回 へ続く

プロフィール

和田 時夫(わだ ときお)

和田 時夫

1977年長崎大学水産学部卒業。(国研)水産研究・教育機構理事、(一社)漁業情報サービスセンター会長を経て、2023年7月から現職。専門は、マイワシなどの小型浮魚類の資源動態と資源管理。近年は、ICTや再生可能エネルギーを利用した水産業の振興や温暖化対策、ICTやロボット技術の水産資源・海洋調査への応用などにも関心。農学博士(東京大学)。