前回の秋田県で行ったヒアリングを、同じように石川県で行うとどうなるか。おそらく、おのおのができていることは皆が「できている」と言い、課題として認識していることは皆が「問題点」と言うだろう。関係者間で認識に齟齬は生まれないと思う。
秋田県の問題は、お互いに「こう言われていますよ」と伝えると、みんな「それは違う」と言うこと。それぞれのがんばり、取り組み、工夫がことごとく周りに伝わっていない。みんな向いている方向は同じで、水産秋田を何とかしたいという思いをみんなもっていて、実際に動いてもいるのに、それが連携されていない。意思疎通もない。
その点、石川県はつながりが太い。例えば石川県の水産課職員は、各船の主要な乗組員の名前を、教えてないのに言えるのではないか。それくらい日々のコミュニケーションの積み上げがある。

(水産経済新聞社提供)
関係をつくるのに何から始めればいいか。例えば漁業者と仲買の関係。うちの港も夕セリだが、私は必ず最後まで見届ける。夕セリなので、世間的には飲みに行く時間。多くの親方は一杯始めているだろうが、私は必ず夕セリに顔を出す。仲買は朝言った値段より安くできないだろうし、思っていたより高い値を付けてくれたら、目で感謝する。たまに、これは傷があるからもう少し安くした方がいい、などのアドバイスも割って入る。そんな緊張感のある関係と努力が、信頼関係を生み出し、つながりを太くする。
「よみがえれ水産秋田」として講演をまとめると、まずタイトルの「第一次産業の相手は自然か。漁業の相手は魚か。」。そう問われれば、講演の前から答えが分かっていた人もいると思う。大切なのは、第一次産業も漁業も相手は「人」ということだ。ただそれで終わるなら、私がここで話す必要はない。そこでさらに加えて、その「人」を相手にすることが何よりも面倒くさい。そしてその「面倒くさいこと」が大事なことである、ということだ。
このことは私なんか比べものにならない説得力のある人が言っていて、「となりのトトロ」などで知られる世界的なアニメ監督の宮崎駿監督は「世の中の大事なことってたいてい面倒くさいんだよ。けれど、面倒くさくないところで生きていると、面倒くさいのはうらやましいなぁと思うんだよ」と言う。これを知っていると、面倒くさいと思った時に踏ん張れる。市場や仲買と話すのは面倒くさいかもしれない。気を遣う。でも面倒くさいが大事だと分かっているのでやる。だからうまくいく。
変化できる組織が残る
不確実性の高いこの時代に生き残れる組織は「変化できる組織である」と思う。石川県もこの10年くらいで、漁協、水産行政、市場、仲買、それぞれの関係性、漁業者との取り組み方を時間をかけて変えてきている。今回、秋田がこのような形で外部の講師を招くというのも初めての試みだと聞いて、秋田県の水産行政も変わろうとしている。
最後に、強めのエールを送りたい。この中に出てくる「組織」という言葉は、皆さん一人ひとりが所属している会社、船、組合、担当課などであることはもちろん、秋田の場合、それらをまとめた漁業者、漁協、流通、行政など水産全体を一つの組織と考えていい。水産秋田は今、ワンチームとして意思疎通し、連携して変わらなければならない。最後じっくり読むので、皆さん一人ひとりは、過去の自分の取り組み方、行動、情景を振り返りながら聞いてほしい。
前例に縛られましょう。意見を言わず帰りましょう。出た意見はつぶしましょう。できない理由を探しましょう。愚痴ばかり並べましょう。鈍感になりましょう。情熱を冷やしましょう。そんな組織はとっととつぶれましょう。
組織はあなただ。
前例や事情や惰性の先に、成長などあるわけがない。
(おわり)