地域が支える挑戦文化
LINEで情報共有も
JFいとう漁協の高田充朗組合長は、海の変化について、「黒潮の大蛇行が終息したというけど、潮の流れもそうだし海の中の環境もそう。何だかすべてが悪循環に陥っているような気がするね」とため息をつく。「15年くらい前かな。アワビを捕る漁師仲間が、アワビの死骸が増えてきたといっていたけど、その時は気にも留めなかった。それが最近、アワビは激減し、イセエビもかつてほどいない。サザエはすっかり見えなくなった」と現状を語り、「藻場もなくなった。サザエなんか数年に一度爆発的に増えるといわれていたけど、それもない」と海の変化に戸惑いを隠さない。
地元漁船の数も大きく減っている。一方で増えているのがプレジャーボートの遊漁船だ。「登録している遊漁船ならまだしも、魚を獲るプレジャーボートが増えている。よい漁場で漁船が操業できなくなってしまうのではないか」と不安は尽きない。
洋上風力先行に戸惑い
東京都が伊豆諸島海域を洋上風力発電の準備区域とすることを打ち出したことも気になる。
「対象海域でどれくらい漁業が行われているのか本当に把握したうえで打ち出したのだろうか。エネルギーの大切さは十二分に理解しているつもりだが、具体的な計画や影響調査の結果なども示されない中で洋上風力発電の意味だけで安易に打ち出されてもとても賛成できない」と、表明が先行している状況に戸惑いを隠さない。
不安要素が尽きない漁協運営だが、漁業を支える組織として「漁業者のためにできることをしたい」と力を込める。個々の漁業者に素早く情報を提供できるよう、各部署が所属漁業者向けのLINEの発信を始めた。イラン情勢で燃油高騰の可能性がみえてきた時も、少しでも安い燃料を組合員に多く確保してもらいたいと燃油の確保状況を通知した。
「漁業者だけではいろんな手続きなど何もできないし、それらを気にしていては漁に専念できない。一方で、漁業者がいなければ漁協も意味がない。漁協はしっかりと漁業者に寄り添い、二人三脚で進む存在でなければならない」と覚悟を決める。
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“市の顔” 市場を再整備
伊東市といえば、前市長が全国ニュースで取り上げられ耳目を集めたのは記憶に新しい。前市長に代わり22代市長となった現在の杉本憲也市長は前市長で混乱した市の状況について「まずは市政を穏やかにして前に進めるのが私の役割」と口元を引き締める。
「自分も市内の宇佐美出身。海を目の前にして育った。子供時代の思い出は海とともにある。農業も水産業も人の生活になくてはならない、命をつなぎ生きるための産業だが、観光地である伊東市にとってはそれ以上の存在だろう。伊東はおいしい魚がなくては成り立たない。その意味でも、海や魚を楽しみに来られる人にとって地元の水産業はとても大切」と話す。
伊東市で今年度、JFいとう漁協が運営する市場の再整備に向けた調査の予算を計上した。「水産業の拠点となる市場はいわば伊東市の顔。地域の資源を磨き上げてこそ市の活性化につながると思い、老朽化した市場の整備をしようと考えている」と、市場整備にかける思いを語る。都が伊豆諸島沖で洋上風力発電事業を計画していることにも、「漁業者が納得できず反対だといっている限りは、行政として賛成できない。まずは漁業に影響がない、影響が出ないという根拠をしっかり示すのが必要ではないでしょうか」と言い切る。
海の変化に伴う藻場の消失や漁獲量の減少などの課題については、「磯焼けがひどくて、サザエやイセエビが捕れない話は聞いている。先日、スタートアップの学生が市に来て、磯焼けの食害魚であるブダイを駆除して、骨は消臭剤、肉は食用にするなどの取り組みをしていると話していた。こうしたチャンスの芽を摘むことなく支援していくことで磯焼けなどの課題に貢献していきたい」と海の変化に市としてできる策の模索も続ける。
「温暖化に伴う海洋環境への変化は簡単に解決できる問題ではない。でも市にとって観光の基盤であり命を守る産業を支える使命を考えれば、魚が減るとすれば少ない魚の価値をどう高めるか、差別化できるか、しっかり向き合っていきたい」と力を込める。
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若者引き付ける魅力
海の変化はこれまでの漁業に大きな変化をもたらしている。これまで獲れた魚はいなくなり、なじみのない魚が獲れる。藻場の消失で磯の魚介類も減ってしまった海も少なくない。ただ、伊東の漁業界には目を輝かせる若者が育っている。定置漁業はそんな若者の受け皿となり、漁業はもとより沿岸地域の活性化に大きな役割を果たしている。そして、伊東に息づく挑戦する姿勢とそれらを支える行政や系統組織の存在が、若者たちを引き付けている。
(連載 第64回 へつづく)

