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20261
進む温暖化と水産業

第56回 洋上風力との共生㊦ 青森県沖日本海(南側)
徹底対談 (一財) 東京水産振興会 長谷成人理事 × JF鯵ヶ沢町漁協 冨田重基組合長

中島 雅樹
株式会社水産経済新聞社

駄目な場所は明確に
将来の議論は若者中心

洋上風力発電の設置に向けて公募占用計画が認定された青森県沖日本海(南側)の協議で、中心的な役割を果たしてきたJF鯵ヶ沢町漁協の冨田重基組合長と、洋上風力発電と漁業の協調をライフワークの一つに活動を続ける長谷成人 (一財) 東京水産振興会理事の洋上風力対談の最終回。「すみ分け」をはじめ、協議を行う際に大切なことについて対論した。

図1
長谷成人理事(左)と冨田重基組合長(右)

海域のすみ分け

長谷 風車を立てる場所を決める際、操業海域との調整はどう進めましたか。

冨田 資料にすべてここはいい、ここは駄目と書き込みました。はっきりさせることがお互いにとって大切です。仕事がやりやすくなります。底建網は漁法別の部会での話し合いをベースにし、都合が悪いところは除く作業を進めました。

長谷 促進区域外ですが、南に定置網もありますよね。北から回遊してくる魚が入らなくなるのではとの懸念などは出ませんでしたか。

冨田 そういう話は出ませんでしたね。対象となるのはJF新深浦町漁協の組合員になりますが、事業者にも漁業者に聞いてみてくれと言いましたが、着工する場所なら関係ないようで、任意協議会でも問題ないという了解を得ています。

長谷 共同漁業権の漁業、内水面漁業、さらに釣り漁業などはどんな調整をしましたか。

青森県沖日本海(南側)事業関係区域概念図

冨田 促進区域の南は、アワビ、サザエ、モズク漁などを行う合併前の旧赤石漁協の漁業者がいますが、この地域は岩礁がある場所なので風車が立てられないということで、影響もなかったようですね。内水面は、赤石支所が赤石川のところにふ化場をもっていますが、河口域には風車は立たないので、漁業者からの問題はなかったですね。底建網は一部共同漁業権漁場にかかる場所もあるみたいですが、共同漁業権の中であえてやらなくてもという話になっているようです。その分、(もし撤去などが必要となれば)漁業補償をくれという感じでしょうか。そのほかマグロはえ縄、マグロ一本釣りなどになりますが、県の指導も受けながら考えていくことになっています。

長谷 共同漁業権漁業はそれほど活発ではなく、工事は盛漁期と重ならないとのお話でしたが、組合員に妨害排除請求権などが認められている権利ですから、海上工事前に漁業法や水協法に定められた漁業権の変更に関する手続きをすることが万全と考えますが、この点はどうでしょうか。

冨田 その点は、県の指導を受けて対応したいと思います。

長谷 自然環境や景観、健康の問題は出ましたか。

冨田 自然環境への影響は大きな議論にはなっていませんでした。景観が地域ごとに変わっていく問題もありますが、10年後、15年後に生まれてくる子供たちはその景観がふるさとになると思います。決して居心地のいい景観ではありませんが、それと引き換えに、消滅自治体を先延ばせるメリットを考えると、洋上への風車の設置を前のめりに好意的に受け止めているのが実態なような気がします。健康の問題も特に議論はなかったです。電磁波の問題とか低周波の影響についても聞いてみましたが、そもそも沿岸域に住居はあまりないですし、陸から風車が離れていますから、ほとんど影響はないでしょうという話でしたね。

長谷 防衛省との関係や航路の問題は、事業者が対応されたのですか。

冨田 そうですね。事業者が防衛省に照会をかけたみたいですね。防衛省が活用する(弾道ミサイルの探知・追尾を目的とした)Xバンド(レーダー)への影響の問題もあるので、日米地位協定に抵触するかしないかも含めて確認したようです。航路は、漁船の航路もありますが、我慢できる範囲になると思います。

長谷 実際に風車が立つとその安全性確保の問題が出てくると思います。

冨田 風車の柱(タワー)の直径が10メートルくらいあるので視認できる時はいいのですが、風車の近くで操業する漁船もありますから、そうした船が暴風の時などに衝突防止装置とか、近づいたら警戒音を発する装置などを付けようと思っています。事業者とどんな装置を付けるか協議をしているところです。それは協力金の中から出そうと思っています。デジタル技術を活用して安全性の確保をするのは大切だと思っています。

長谷 ブレード下の操業はどうでしょうか。魚礁効果があった場合、その恩恵を受けられないのも困りますよね。

冨田 いちばん事業者と話したのは冬場の問題です。昨年、秋田の陸上風車で発生したブレードの落下事故などもありますが、冬にはブレードに付いた氷が落ちてくる問題も起こります。万が一ブレードが外れた時や着氷がどれくらいのスピードでどこまで飛ぶのか、シミュレーションを提示してもらって、こういう時は入らない場所のルールをつくることになりそうです。

長谷 ブレードの落下を前提に考えるなどは論外だと思いますが、長崎の五島では、周年ブレードの下は操業を自粛してほしいということになっているとも聞きます。それでは風車の魚礁効果の恩恵を受けられなくなってしまいますよね。魚礁効果があればあるほど密漁の問題も出てきますし合法的な遊漁者の釣り行為も出てくるので、漁協の管理のもとで組合員によるブレード下の利用を図り、遊漁者の利用も管理下に置いた方がいいと思っています。

冨田 安全を優先して一部は利用できなくなると思いますが、すべて駄目ではなく、特にリスクの高い冬にはどうするかというルールを決めていくことになりそうです。

長谷 促進区域では、現段階では遊漁もあまりないようですし、磯根資源も少ないようですから当面はあまり問題にはならないのでしょうが。

冨田 ただ、私たちは青森で最初に漁協としてブルーカーボンのクレジットを取得している経緯もあるので、風車の周辺でブルーカーボンにつながる藻場造成は進めたいと思っています。冬場は積雪や着氷の問題もありますが、それ以外の藻場造成や魚礁効果をどう活用していくかも話していくことになっています。いずれにしてもそのためにも漁業影響調査を継続していって、その結果をみながら話し合っていきましょうとなっています。

長谷 空間的にも時間的にもうまくすみ分けがされている印象をもちました。

これからの地域と漁業

長谷 地域や漁業の振興策についてはこれからですか。

冨田 全体的にどう活用していくかは任意協議会で具体的に話していますね。例えば今現金で活用したいというのが海洋漂着ゴミの回収などでしょうか。漁船の廃船、漁具の処理なども要望が多いですね。ブルーカーボンのクレジット収入も年間30、40万円程度は目指せるかと思います。漁業影響調査をしながら考えていけばいいと思っています。

長谷 ブルーカーボンについては関心のある企業も多いので、基金を海藻養殖などの実験や実証に使うのもいいですね。今後はどう進めていきますか。

冨田 将来のことも含めてその話し合いは漁協や行政も若い人が中心になって話し合いに参加しています。

長谷 若い人にバトンタッチしているのはすごくいいですね。

冨田 事業者と次の世代の人と話し合う場もつくっています。先のある人に30年後を話してもらいたいからです。役場の職員も30、40代の職員を中心に活動してもらっています。メンバーは若くて自分の子供くらいの世代ですが、自分たちの将来がある若い人をいかに巻き込むかが大切になると思っています。

長谷 最後に、洋上風力と向き合うほかの地域への何かアドバイスとかメッセージはありますか。漁業が厳しくなっている中で、風力発電を受け入れる代わりに漁業をやめてしまう選択肢を検討する地域も出てこないか心配しています。

冨田 協力金を町の窮状を救うとか町の延命のためだけに使うのも、その地域に後継者がいないならそれでもいいと思いますが、少なくとも地域には20代から40代の漁業者がいます。漁業で食べていこうという後継者がいる限りは彼らの将来を私たちがしっかり担保していくべきだし、それなりの蓄えは残してやりたい。将来は、もしかしたらその人たちが漁協を解散し、漁業を辞めてしまうかもしれませんし、どういう選択肢をするか分かりませんが、少なくとも現状を維持できるような環境を残してバトンタッチしていきたいと思います。

長谷 冨田さんの思いが若い世代に受け継がれていくといいですね。きょうは長い時間本当にありがとうございました。

図1

連載 第57回 へつづく

プロフィール

中島 雅樹(なかしま まさき)

中島 雅樹

1964年生まれ。87年三重大卒後、水産経済新聞社入社。編集局に勤務し、東北支局長などを経て、2012年から編集局長、21年から執行役員編集主幹。