「運命共同体」の覚悟
協力金と補償金の違い
洋上風力発電の設置に向けて公募占用計画が認定された青森県沖日本海(南側)の協議で、中心的な役割を果たしてきたJF鯵ヶ沢町漁協の冨田重基組合長と、洋上風力発電と漁業の協調をライフワークの一つに活動を続ける長谷成人 (一財) 東京水産振興会理事の洋上風力対談の第2弾。話題は、注目の的となる協力金や漁業影響調査に及んだ。
協力金の考え方
長谷 第4回法定協議会(2023年5月9日)の取りまとめで示された協力金は、同時期に他地区で一般的にみられた発電設備出力(キロワット)×250円×30年ではなく確保済み系統容量(最大想定容量)を60万キロワットとして、キロワット当たり250円×30年ということで「合計約45億円を目安とする」となっています。これは受注企業により実際の事業規模が上下しても安定した基金の造成を目指したもので、横並びにこだわらないその主体性は素晴らしいなと思うのですが、その後受注企業が決まり、その事業計画をみると61万5,000キロワットとなっていて60万キロワットより増えています。実際の拠出額はどうなるのでしょうか。
冨田 洋上風力との共生で大切なのは、地域や漁業を振興するための安定した協力金を確保することです。頓挫しては意味がありません。だからこそ、事業実現性を重視するという国の方針ではないですが、すべての事業者に対して、発電量が上振れしても漁業サイドも対応することを伝え、コストなどの上振れを賄える事業にするために発電量が上振れた場合には協力金も「目安」ということでそれに応じた規模にしてもらうように話してきました。それで協力金は「目安」となったわけです。基礎となる額を確保しようというのが基本ですが、計画が上振れなどにより原資ができればその分協力金も調整されてしかるべきだと話をしています。
長谷 ほかの地域では最初に決めた額にこだわりすぎている例もあるので、ある程度柔軟にできるようにすることを事業者としっかり話しておくということ、青森の例はいい事例になると思います。次に、協力金の分配、特に地域振興と漁業振興の関係について聞かせてください。
冨田 地方自治体と漁業者(漁協)でこれからの話し合いになると思います。自治体と漁業者と何対何にするかはこれからですね。
長谷 基金の受け皿はどこになりそうですか。長崎の五島だと市にすべて基金を集めているし、千葉の銚子沖だと市に設置する基金や (一財) 千葉県漁業振興基金に入る仕組みになっています。結果的に風車を設置する場所によって関係する地方自治体には固定資産税収入も生じることになるのでそちらも配分する必要が出てきますし、協力金の自治体間の配分比率を検討する際にはそのことも連動するのでしょうね。
冨田 協力金の受け皿は地方自治体に担ってもらうことを考えています。課税の問題もありますから、県や津軽市事務局などからも基金に対する課税のシミュレーションとして10種類ぐらい示されています。その中からいちばん有効に基金を活用できる方法を選んでいけばいいと思っています。固定資産税や事業税などについても、私たちは結構話し合いをしていますよ。
長谷 電力料金を負担している国民から納得してもらうためにも、協力金の使途の説明、基金の透明性の確保はとても重要だと思っています。自治体だけでも鰺ヶ沢町、つがる市、深浦町と3つあり、漁協は4つ、それに青森県日本海機船底曳網漁業者会も加わっての話し合いはなかなか大変でしょうが、しっかりと取り組んでいただきたいと思います。ところで、協力金の使い道は決まっていますか。
冨田 全体的にどう活用していくかは任意協議会で今後具体的に話していきます。現在の地元の課題として、漁獲高の減少対策や海洋漂着ゴミの回収、漁船の廃船、漁具の処理などに活用したいという声もありますが、今後具体的な議論を進めることになります。
長谷 基金として積まれる協力金が事業者から拠出される時期ですが、協議会の取りまとめでは「工事着工前でも速やかに実施するよう努める」との一文が入っています。これも独自性、主体性を発揮されていますね。
冨田 ええ、事業が決まった段階から自治体や漁協が漁業や地域の活性化の施策を始められるように、着工前から拠出してもらうことになっています。「速やかに実施するよう努める」というのも、風車の設置が決まった段階から地域の漁業に資する協力金を地域活性化するための施策として使えれば、地元にとっての安心感も違いますから。
長谷 そこはポイントですね。結局、風車が立つ前からずっと抱いていた不安を除去するためにも事業計画が決まった段階から事業者が基金に出捐してくれれば、漁業の対策も早く打てるし不安の除去にも効果的です。拠出の時期の話もそうですが、環境変化に対応できるよう、あとで「こんなはずではなかった」と曖昧な表現にせずに協議会の場でしっかり話をしていくのはとても重要なことだと思います。ところで皆がデフレマインドだった時期は過ぎました。協力金もすぐに受け取るのと、10年後、20年後に受け取るのではインフレになれば大きな違いですよね。三菱ショックで事業の実現可能性が重視されるようになり、インフレによる資材費高騰にどう対応するかも検討されていますが、漁業者サイドが後年度に受け取る協力金の額にもインフレ分が加味されて当然だと思います。
漁業影響調査の意味
長谷 政府は三菱連合の撤退を踏まえ、事業性を重視する方針を出しましたが、三菱の撤退以降、企業はできるだけコストをかけたくないということで、漁業影響調査についても30年にわたってモニタリングすることに事業者の抵抗などはありますか。
冨田 漁業影響調査だけでなくすべてに関わる話ですけれども、私は企業に求めるのは「運命共同体」としての覚悟をもって入ってほしいということですね。その覚悟があるかどうか、それ次第で私たちも事業者と協力できるかが決まります。事業者は30年間のデータ取りをやることを決め、15年間実施したうえで一度立ち止まることを計画に書き込んでいます。とりあえず数年調査して必要なら伸ばしますじゃ駄目なんです。設置する前と設置したあととその後も調査して初めていろいろ分かる。ほかの地域では数年取り組んで影響なければ終わりで、必要なら、ということにしている所もありますが、そういうことではないと思っています。事業者からすると、漁業影響調査は一刻も早くやめたいらしく、30年も約束するのは企業としては本当に難しいようですが、「運命共同体」である以上、それは約束してもらう必要があります。それを口約束でなく、ちゃんと書類に明記してもらうことがお互いの信頼構築につながります。わたしたちは、津軽海峡で青函トンネルを掘った時にクロマグロがこないといって騒ぎがあった経験があります。その時も根拠となるデータがなかった。だからこそ事業が始まる前から終わったあとまでデータがほしい。それは事業者にもメリットになるはずです。そして、国は洋上風力を国是とするならば、本来は国がそれをやるべきだと思います。
長谷 そうですね。事業者側は親会社の了解を得るのも大変そうですが、それは漁業者との信頼関係構築に欠かせないことを分かってもらうしかないですね。そして、冨田さんが言われるように漁業影響調査について事業者と漁業者任せにせず国がもっと主導する必要がありますよね。

