「任意協議会」で本音議論
ようやくスタートラインに
洋上風力発電の設置に向けて議論が続いていた青森県沖日本海(南側)の公募占用計画が、昨年12月16日認定された。2030年の商業運転開始に向け今春には陸上工事が、2年後には海上工事が始まる。協議の中心として活動してきたJF鯵ヶ沢町漁協の冨田重基組合長は、漁業と洋上風力発電事業の協議で何を大切にしながら共生への道筋をつけたのか。洋上風力発電と漁業の協調をライフワークの一つに活動を続ける長谷成人 (一財) 東京水産振興会理事が、認定の翌日、冨田組合長に聞いた。テーマ別に3回に分けて連載する。
洋上風力と地域・漁業
長谷 冨田さんとの対談がようやく実現できてうれしく思います。冨田さんの地元、「青森県沖日本海(南側)」の事業について、経済産業省と国土交通省は昨日(2025年12月16日)公募占用計画を認定しました。一つの区切りがついたと思います。8月に三菱商事 (株) の企業連合が秋田、銚子沖の洋上風力発電事業から撤退を正式表明し洋上風力事業に暗雲が立ちこめた年の中で、洋上風力事業と漁業者の共生に向けた話し合いがまとまった事例として大きな一歩になると思います。
青森県沖日本海(南側)の事業は、(株) JERAを中心に (株) グリーンパワーインベストメント、東北電力 (株) の3社で構成するつがるオフショアエナジー合同会社が担い、1万5,000キロワットの風車41基を設置し、総出力61万5,000キロワットの大規模ウインドファームを建設する計画です。認定有効期間は2055年12月までの30年間。2027年4月から海域占用期間が始まり、青森港を基地港湾に28年ごろから本格的な海上工事に着手し、盛漁期(11月~翌3月)を避けた洋上施工を進めたうえで、2030年に商業運転開始すると聞いています。最初に、冨田さんにお聞きしたいのですが、三菱商事連合の洋上風力事業からの撤退をどう受け止めましたか。
冨田 ほかの地域の事なのでわれわれがどうのこうのと言うものではないですが、同じく洋上風力事業と向き合っている漁業者として考えると、どうしてそうなってしまったのかという思いはあります。ただ、結果的に撤退表明以降、政府は事業実現性を重視する方針になったことで、今後より現実的に事業を進めるうえではよかったのではないかと思います。
長谷 地元で三菱撤退の余波はありましたか。
冨田 事業者には「あなたたちは大丈夫か」と質問はしていましたね。何かあった時の担保をどうするのかも結構話し合いましたね。
長谷 冨田さんは、そもそも最初に洋上風力の話がきた時はどう思いましたか。
冨田 最初は、日本全体でサプライチェーンも何もできていないのに、とりあえず風車を立てることが先行するのか、有望海域で選定されるのは分かるが、どう事業が継続するのかのルールも決められないままで、ただ、場所と時間だけ決められて前に進むことに不安を抱きました。カーボンニュートラルとか国是とか言うが、それは逆じゃないかと思いましたね。ただ、やる以上は、どういう形になっても、地域貢献とか漁業支援については、譲らないものをつくらなければならないという思いが強かったです。最初は車力地区で話がもち上がった時、将来的には鰺ヶ沢にも風車の話がくるかもしれないという思いがあったので、北九州やほかの地域の状況を見学することから始めました。そうするうちに話し合う場をもち、もし何か悪影響が出ることの因果関係が分かったらちゃんと補償をするというスキームをつくらないといけない、という思いが強くなりました。
長谷 公募占用計画が認定され、2030年の運転開始に向けてどんな思いですか。
冨田 ホッとするとともに、いよいよスタートラインに立ったかなという思いがあります。着工されれば打設音や振動が漁業にいちばん影響するのではないかと思っているので、その点の漁業補償についてもやみくもに漁業者に金をばらまく形ではなく、漁業者もきちっと納得するような形にするための事業者との話し合いを進めているところです。
法定と任意の協議会
長谷 その漁業補償というのは、打設音などに魚が反応して漁業収入に悪影響が出てしまった場合の補償ということですよね。それは基金にする協力金とは別だと。
冨田 はい、地元の地域や漁業の振興に向けて基金として積まれる協力金とは別のものですね。あくまでも協力金は、漁業支援や地域振興に役立てるものです。漁業補償は、洋上風力に起因して漁獲高が減少するなどの影響が生じた場合、基金とは別に漁業者に支払われるものです。
長谷 工事中に漁業に影響が出る可能性はどれくらいありますか。
冨田 地元の漁は、ヤリイカなどを主体に11月から翌年4月ごろまでが中心で、工事はその盛漁期を避けた期間で行う予定になっています。もしかすると、夏場の沖合で漁が行われるマグロはえ縄などは打設音などで影響が出る可能性はありますが、基本的に漁業と工事の期間の重複が避けられるので、沿岸漁業にとっての影響は少ないとみています。
長谷 なるほど。だから、第4回の法定協議会(2023年7月28日)の時点で協議会の構成員として「漁業に支障を及ぼさないことが見込まれる」ということで同意されたわけですね。でももし悪影響が出た場合として漁業補償というものを考えておられると。
冨田 そうです。ただ、温暖化の中で全国的に獲れる魚が変わっています。中には工事が行われる期間にも高値の魚が獲れる可能性もあるので、そうした状況をみながら柔軟にやっていくしかないということで漁業補償の話し合いを行ってきました。
長谷 第4回の法定協議会での意見の取りまとめの段階では受注企業は決まっておらず、事前の漁業補償なしに水域調整を行う仕組みになっているので、そこのところの頭の整理はとても大切ですね。受注業者が決まるまでもいろいろな企業グループとも話し合ったと聞きました。ほかの地域では気持ちのすれ違いやボタンの掛け違いなどいろいろなトラブルが起きていますが、問題などはありましたか。
冨田 洋上風力事業の黎明期、再エネ海域利用法ができる前のことですが、各社が行う調査のために警戒船とか作業船の奪い合いなどが起きて、ある港を他社に使わせないように占用しようとしたり、作業船として漁船を使う場合の価格つり上げ競争なども起きたことがありました。そんなことをしていてはまとまるものもまとまらない。そうしたことをやった事業者は組合長として私が出入り禁止にしました。事業者も、早く来たからとか好き嫌いで事業者を決めるようなことはせず、いかに真摯に取り組んでくれるかを重視して話し合いをしてきました。
長谷 法律で決められた事業者と関係者の話し合う場には法定協議会がありますが、冨田さんのところではどうされたのですか。
冨田 1回目の法定協議会(2020年12月25日)が開催された時に痛感したのは、このままこの協議会だけを議論の場としていたのでは、地元に合った地元の漁業者が納得できる計画にならないという危機感でした。単に個々の漁業者などとの金銭交渉が進んでしまったりしては意味がなく、地域の利益につながる事業にしなければなりません。もし、漁業者が個々にお金をもらうだけの計画になってしまえば、世間的には漁業者が自分たちの私欲のために洋上風力事業に反対してお金をもらおうとしている勢力にみえてしまう。それは絶対に避けたかったですね。洋上風力事業は30年先まで続く事業です。今の漁業者だけの利益だけで考えてはだめです。だからこそ、30年先の将来を含めた地元の漁業をどうするかを漁業者が本音で話し合える場として法定協議会とは別に(地元関係者のみによる)「任意協議会」をつくりました。法定協議会で法律に基づいた作業を進めていくのはいいですが、やはり時間をかけてしっかり話し合って決めなければいけない課題はたくさんあります。少なくとも漁業サイドの思いを一つにするための場として任意協議会は必要でした。確か21回開催しています。
長谷 20回を超える任意協議会で漁業者の意識はどう変化していきましたか。
冨田 回を重ねるごとにどんな話をする場なのかという意識や理解力が高まっていきましたね。最初は言葉の説明から始まりましたが、回を重ねるうちにイメージできるまでに理解が深まっていきました。とにかく法定協議会にどう臨むかという話し合いを任意協議会で重ねていった意味は結構大きかったと思います。任意協議会の存在はすごく大切だった。任意協議会の中で、法定協議会で質問することは任意協議会の了解をもらった質問として出していることが事業者も分かっているので、事業者にとってもよかったと思います。

