水産振興ONLINE
水産振興コラム
202212
船上カメラマンとして見つめた水産業
神野 東子
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凍てつく海

今年も寒い冬がやって来た。秋に比べて一段と冷たくなった風が肌に刺さると、意識が一気に冬へと向かう。寒さでピンと張り詰めた空気から感じる匂いも何だか冬っぽい。道行く人もマフラーにコートにと厚着になっていく。忙しない師走の雰囲気を感じるたび「もう今年終わっちゃうの?!」と毎年心の中で呟くのは私だけではないだろう。木々は葉を落とし、空の色も淡くなる。いつも見る景色が慎ましい色彩になると、みんなの感性がなんとなく豊かになって普段は気付かないことに気付いたりする。そんな季節の移ろいが日本人の細やかさを育んでいるのかもしれない。

感じる空気や風景からも季節を感じるが、やはり港へ足を運んで冬の漁の様子を見ると一番身が引き締まる。「地上でも寒さで震えて外にいるのが辛いのに洋上で仕事をするなんて!」と、ここでも毎年心の中で呟く。

冬の漁はどんなものか、冬が旬の魚を思い浮かべてみると分かりやすい。ブリやアンコウ、フグやタラなど日本食を代表する美味しい魚ばかりだ。そんな大切な食材たちは、冬の寒い中に出漁して漁獲されているのである。冬の漁で私が真っ先に思い浮かべるのは北海道のタコ漁だ。夏には薄着に日焼けした肌で定置網漁や昆布漁をしていた漁師さんたちが、今度は冬の装いで白い吐く息とともに出港していく。顔が痛くなる程の寒さの中、朝5時に出港し、帰港するのは15時くらいだ。風が吹く日は体感温度も下がり、冷凍庫に送風機を付けた感じ、と表現する漁師さんもいた。

(c) Toko Jinno

北の海には当然、雪の降る日もある。地上を真っ白に覆う雪は美しくもあるが、上手く付き合うには多少の知識と技が必要だ。船上に降る場合なおさらだ。タラの刺し網漁の最中にちらちらと雪が降り出し、止むどころかだんだん大粒の雪になって、船上に雪が積もった日があった。払っても払っても帽子や上着に降り積もる。雪に覆われる合羽や漁具もまた綺麗なのだが、船と長靴の間の雪が歩行の邪魔をしてツルツル滑るから厄介だ。合羽に長靴で歩く船内は普段も注意が必要なのに、雪の中の船内は一歩進むのも緊張した。

(c) Toko Jinno
(c) Toko Jinno
(c) Toko Jinno

船上では雪の日も晴れの日も海に投げ出されないよう細心の注意を払うのだが、海の中で行われる漁もある。その代表的なものとして挙げられるのがウニの潜水漁だ。夏のイメージが強いかもしれないが、冬の寒い時期にも潜水器によるウニ漁が行われている。冬の海の中だなんて、潜った経験が無い私にとっては寒さも恐怖も想像がつかない。ウニ漁を行う各船にいる潜水士さんが海に潜り、船に乗っている漁師さんは潜水士さんにホースで空気を送ったり、ウニを受け取ったりと、見事に連携しながらあうんの呼吸で漁が行われていく。潜水士さんにとって一番大事な自分と船とを繋ぐホースやロープを管理するのも仲間の仕事。これほど信頼関係が重要な仕事はあるだろうか。

(c) Toko Jinno
(c) Toko Jinno

厚岸町にてウニ漁を撮影させてもらった後、潜水士さんのご自宅でたびたび開催されているという仲間の漁師さんとの食事会に同席させてもらった。お酒を片手にみんなで網を囲み、ジュージューとお肉を焼いたり牡蠣を焼いたりおしゃべりしながら過ごす。そんな会も終盤に差し掛かった頃、潜水士さんがゆっくりこう話してくれた。

「自分にもし何かあった時に仲間のせいにして欲しくない。だから、こいつらが良い奴だって分かってもらうために自分の家族と一緒に食事をしている」と。

笑顔の奥にある想いの強さをひしひしと感じた瞬間だった。奥さんも静かに頷く。仲間の漁師さんも「こんな良い人を死なせる訳にいかない」と力強く言った。

昼間見た漁の様子が思い出され、一つ一つの道具や作業がいかに大切か思い知った。この日以降、皆の航海安全を願う気持ちがより一層強くなった気がする。

(c) Toko Jinno

季節の移ろいを見せてくれる自然は、時に優しく時に厳しい。厳しさを前に、人々は進化せざるを得なかったのかもしれない。季節の行事を通じてさまざまな願い事をするのも、安全に豊かに暮らすための先人たちの知恵だ。

厳しさと同時に自然は我々に命を吹き込んでもくれるし、何ものにも代え難い美しさがある。こうして自然と共にある事が、人々にとっての幸せなのだろう。その一端を、季節の変化によって感じているのかもしれない。豊かな気持ちで、季節を楽しめる自分でありたいものだ。さて、天気予報とにらめっこして、明日の服装を考えるとしよう。

プロフィール

神野 東子(じんの とうこ)

神野 東子 (c) Toko Jinno

荒々しく、時に優しく、自分の仕事に誇りを持つ漁師たちの生き様に惚れ込み、同行して撮影する船上カメラマン。釧路市生まれ。海とともに生きる漁師たちのさまざまな表情を追いかけると同時に、魚食の普及や後継者不足解消に向け、学校と連携した講座等を行う。富士フイルムフォトサロン札幌、豊洲市場内「銀鱗文庫」、豊海おさかなミュージアム等各所で写真展を開催。