卸売業者の扱う品目以外の食品販売や、市場利用者の便宜を図るさまざまな物品販売やサービス提供をしている関連事業者。東京・豊洲市場で活躍する彼らの業態は実に多様だ。前回の輸送業者もその一つ。飲食店・物販店からなる「魚がし横丁」の知名度が群を抜くが、今回はその関連事業者146社の中で、魚箱をはじめとした包装資材販売業者に注目する。第7回関連事業者編で取り上げるのは東京魚類容器(株)の原周作社長(42)。
魅力的環境に意識変革必須
私が水産仲卸売場棟1階にある東京魚類容器6街区売場に出社するのは午前4時ごろ。基本は7街区容器棟2階事務所での執務だが、午前7時まで伝票チェックや電話番の業務をこなす。現場は私なしでも回るものの、昨今の働き方改革の流れの中、少しでも早朝の人員を減らすためにそのような体制を取っている。
場内で施設使用許可を受けて包装資材販売業を営む会社として、ピークタイムである早朝や年末に合わせ、手厚いお客さま対応ができる体制を維持し続けている。
豊洲市場に移転してからは、特に場外の販売業者の値段の安さを武器にした攻勢が強まった。価格では確かにかなわない。ただ、私たちは取引先の皆さんの側にいて(魚箱の販売単位で)最小の1本単位の小分けですぐに店舗まで持って行くといったような、便利さという付加価値を提供することで対抗している。繁忙期に対応不能になることのないように安定供給に努め、市場を陰で支えているという自負がある。
かつて売上高の6割を占めていた発泡スチロール製の魚箱の扱いは全体の30%。ただ、現在も発泡スチロール製の魚箱だけで40〜50種類あり、そのほかトレーやドライアイス、段ボール、紙袋、ビニールシートなどを豊富に品揃えする。
包装資材は最終的にゴミになるものだが、それなしでは高鮮度流通を維持したり、食の安全・安心を守ったりは難しい。「包装資材なくして食の流通はない」との思いを抱いて取り組んでいる。
労働環境の改善大
14年前に社長を引き継いだ時には正社員の平均年齢が60歳代という高齢で、所属している社員も同じ方向を向いておらず、社内の体制も揺らいだ状態にあった。それからは包装資材の調達先として「あなたから買いたい」と取引先に選ばれる会社になるためには教育が大事と考え、新卒採用中心に進めて人材育成を一から進めてきた。
経営理念は幾度か改訂し今の「包装資材を通じて信頼と笑顔をつなげていきます」で始まる現在の理念へと行き着いたが、すべて創業者の祖父の日記の一節を参考にしてきた。今では正社員の平均年齢は30歳代に若返り、創業者に通じる経営理念が浸透できている。
完全閉鎖型の豊洲に移転し、吹きさらしだった旧・築地に比べて社員の労働環境が大きく改善した。場内の皆さんと同じ時間帯に働くことは一般的な労働市場からするとただでさえ厳しかったので、人材確保面でも大きい。売り上げやもうけを追うのだけでなく、社員教育と並行して働く環境を整えたい。一見して回り道にみえるが、成長への早道だと思う。
廃プラ問題に関与
豊洲で働く人々の皆が潤い、当社を含めて若い人々が就職したいと思えるような魅力的環境をつくりたい。そのためには外側の建物が更新されたことだけでなく、内側で働く人々の意識の変革が必要と切に感じる。いまだに旧・築地の常識を引きずった事例が多くみられる。都の職員も動いてくれているけど時間がかかる。今から教育含めて大きく変えていかないと20〜30年後に手遅れになる。
ほかにも、後継者に悩む各地の漁港の包装資材販売業者との人材交流、障害者雇用の促進、海洋プラスチック放出で注目度が高まる廃プラの問題に取り組んでいる。特に発泡スチロール製魚箱だけで年間に約1800トンが集まる豊洲の動向は重要。安価なインゴット化ではなく、高付加価値の再生原料化が理想だろう。実現に至るまでの壁は高いが、この問題の解決に関与していきたい。(つづく)