総合市場の東京・豊洲市場全体を語るには水産だけでなく、青果(野菜や果物など)も欠かせない。青果最大の大田市場とは規模の差はあるが、外食店の提供する日本料理に欠かせない高級「つまもの」野菜の品揃えは豊洲が上。中食・内食向けも含めて幅広い扱いがある。第8回青果編ではその中から優れた経営手腕で知られ、各種メディアへの露出も多い青果仲卸・(株)西太の岡本光生社長(58) を取り上げる。
秩序維持への意識広く浸透
別の仲卸店舗に間借りをしていた年商1.8億円からの出発。毎日けんかばかりだった先代と決別するような格好で社長を継いだ。でっちに出されていた先の京都市場の修行時代から築いてきた人脈が自分の財産だった。
京野菜の導入を手始めに、産地開発や広域流通に手を染めて事業拡大してきた。2度3度とぶつかった年商の壁は、企業の合併・買収(M&A)や異業種との連携も辞さずにノウハウを吸収しながら乗り越え、数年前にはグループで年商60億円に乗せた。移転時の誤算と新型コロナウイルスでやや減少したが、移転から3年目の2020年度は、再びしっかりとした拡大路線へと軌道修正することができたと思う。
今、豊洲を流通するマツタケのシェアの35%を握る。およそ20の産地の農園と直接つながり、西太オリジナル商品を並べている。都内の名だたる高級飲食店や江東区の富裕層の方が店を利用してくれるのは、その品揃えのおかげだろう。
心掛けてきたのはバランスの取れた経営だ。青果物流通の中間として、やれる分野にはすべて手を付けてきた。百貨店、総合スーパー、食品スーパー、中食、外食、加工など。今回のように新型コロナで業務用食材が減った時には、スーパー関係の販路を強化していくことで相互にカバーできる。
今最も力を入れているのは、中核となる50〜60代から若手への人材の切り替え。市場は基本的に取引先都合で動かないといけない職場だから、関連法令を守りながら仕事をしていくには、個別に担当する商材の対応を誰もができる状況をつくらなければならない。
人気のオープン型
移転で閉鎖型施設になるにあたって強く求めてきた、旧・築地市場にはなかったオープン型店舗(売場にラインだけ引いた荷捌き専用スペース)と、広大な2階の事務所スペースが置けたのは収穫だった。特に前者は移転当時には抽選なしで取れたスペースだったが、閉鎖型施設で搬出入口が限られていると場内の荷捌きが必須作業であると再評価され、今や人気区画だ。
温度管理面が向上したのはいうまでもない利点だし、水産と違って平床にするなどして半閉鎖型施設にとどめたのは、結果的に密になる状態を避けたい今の時代にも最適だった。
衛生面や交通ルールといった場内の秩序も、青果のあるここ5街区では高いレベルで保たれている。違反者を見つけた仲卸組合幹部がすぐ注意して行為を正させている。秩序を維持する意識が全体に広く浸透しているからこそきれいな青果棟がある。
仲卸がつくる特性
豊洲市場は、旧・築地市場から移転する際に大手の事業者への配慮ばかりに目を奪われ、中小事業者をないがしろにした。それが、移転してからの全体の取扱数量が今日まで低迷を続ける大きな理由だと思っている。市場は大・中・小の規模を問わず地域のニーズに細かく対応できるような市場であるべきで、逆にそうでなくては成り立たない。移転元の築地市場の特性を無視し机上の空論で突き進んだ結果がこれだ。
行政が開設している公の市場なので、誰もが同じように仕入れできるようになっているのは大きな利点だが、にもかかわらず各市場には特性としての色が付いている。それのベースになっているのは地域の商圏に深くひも付いている仲卸の存在だ。
豊洲を今から活性化させるには、大・中・小の規模の共存・共栄を図ることがカギになる。そのためには、荷受(卸)が集荷に徹し、仲卸が販売に専念するという昔ながらの役割分担にいま一度立ち返る必要があると自分は考えている。(つづく)