東京・豊洲市場を利用している買出人のうち、最も古くからの事業者の一つが街の魚屋だ。彼らが加盟する東京魚商業協同組合の歴史は100年を超える。時代の流れとともに数を減らし、ピーク時に3000を超えた事業者数は直近で約290に絞られたが、毎朝足繁く水産仲卸売場に通って大衆魚中心に仕入れ、対面販売で消費者の日々の食卓に届けている。第5回魚商編での登場は、東京・世田谷の専門店街「尾山台いちば」に鮮魚店「魚辰」を構える三代目・大武浩社長(52)。
築地ルールの早期見直しを
地元・世田谷から走らせた2トントラックを水産仲卸売場棟4階の小口買出人駐車場の指定スペースに寄せたのが午前7時前。関連事業者の物販店舗を回り忘れないように必要な資材を買い足してから、1階の水産仲卸売場へ続く階段を降りる。
仕入れは会長である父がマグロを担当。それ以外が僕と分担している。父は1週間に数度、僕は毎日欠かさず通っている。478ある仲卸の中から築地時代からなじみの店に1日10か所程度、顔を出す。いつも寄る店もあれば、たまにしか寄らない店もある。掘り出し物を見つけて余計に買ってしまうのを防ぐ知恵だ。LINEで写真や値段を送ってもらってやり取りするものもある。
一流料亭の料理人が使うような高級商材を扱う仲卸ではなく、回るのは魚屋向けの大衆魚を扱う仲卸が中心。面白いもので高級魚クラスの魚も、旬を迎え全国的に水揚げが増えると、なじみの仲卸が値頃な価格で買って揃えてくれる。そうしたものを仕入れるのが楽しい。昨年暮れの天然ブリは最高だった。きょうだって千葉の〝カチカチ〟の高鮮度のサワラが安く手に入った。店で漬魚に加工して売ろうと考えている。
僕が魚屋でよかったと感じるのは、自分の目で見て、鮮度や値段で気に入った魚をいち押しとして店に並べ、それを買ったお客さまから後で「最高だったよ」と声をかけていただいた時だ。同じ「尾山台いちば」の八百屋の店主と一緒に仕入れた商品を並べて「これいいよな」とニヤニヤと笑い合うのが僕の日常の一コマ。だから、お客さまをがっかりさせたくないし、よいモノを安く提供して地元で愛される魚屋でありたい。そのため、何でも揃う豊洲市場は本当にありがたい場所だ。
快適に使える市場
豊洲市場に移転してきた最初の頃はどこに目当ての店があるのか分からず、買出しだけで1万歩近く歩いたが、慣れた今では3分の1程度の歩数で買い回りできているし問題ない。店の裏手などは築地市場の時代に比べると広めなので便利だ。
閉鎖型・低温管理型となって実感するのは、主に夏場の氷の残り具合。かつてを知るだけに買った魚の氷が店に着いたときにも全然溶けていなくて驚く。それだけ鮮度が違うということ。衛生面の敵だった小動物系も移転から2年以上、見た記憶がない。お客さまに安心して魚を売り込める。
トラックを待機させている小口買出人駐車場は全体が屋根に覆われているため、荷が雨でぬれたり風で飛ばされたりということがなくて、快適に使うことができている。
場内秩序回復求む
街の魚屋は、商売敵が減って事業環境的にはやりやすくなった。今も残る仲間たちは、何でも揃う世界一の魚市場である豊洲の使い方一つでいかようにも商売を広げられる余地があると思う。僕の店もすぐにでも人を増やしたいくらい忙しい。
ただ、早期に改善してほしいと思うのは場内秩序だ。おそらく内部で働く従業員のものだと思うが、本来の駐車位置でない場所に車が多数放置され、トラックで通行する際に危険を感じる。資材が山と積まれていて乱雑な印象を受ける区画もある。無法状態に近かった築地ルールそのままの市場利用のあり方を見直さねば、買出人を増やすこともままならない。
(つづく)