水産卸が産地代表なら、水産仲卸はいわば消費地代表。料亭・割烹(かっぽう)・寿司店などの高級店、ホテル・レストランなどの業務筋、量販店・スーパー、鮮魚専門小売店が求める魚を、卸売場で品定めして調達し、時には加工して、相手が満足する形で受け渡す。約480ある豊洲の水産仲卸は、魚種や売り先に特化した専門仲卸が多く、まさに世界最高峰の魚のプロ集団だ。第3回の水産仲卸編での登場は、特種物(寿司種など)業会に属する伊藤晃彦(株)マルテル美濃桂社長(51)。
伊藤晃彦社長
顧客ニーズに合わせ選別
海からの授かりものの魚は、工場で作るものとは違って1尾たりとも同じものはない。全国から集まるたくさんの魚の現物を自分で毎日確かめ、より詳しく、より正確に、顧客それぞれのニーズに合わせて選別する「目利き」が僕たちの役割だ。
豊洲市場には、アジならアジ、サバならサバといった、その魚を専門として何十年と「目利き」の力を磨いてきた人々がたくさんいる。それぞれがさまざまな売り先を抱えて毎日の商売をしている。その数から生み出される市場の多様性はたぶん世界一。だから、上から下までさまざまなランクの魚が集まり、揃わないものがない市場になっている。
海洋の温暖化による旬のズレも、実物を無数に見ているからその変化に対応できる。話題になっている違法水産物の排除でも、われわれの知識で協力できることは多い。
僕は家業である特種物の仲卸業に27年従事したあと、豊洲開場を機に独立した。銀座かいわいの名だたる高級寿司店が売り先の中心。数少ない優れた魚を選んでもっていくこだわりのお客さまが多いので、毎日の仕入れからして油断できない。
お客さまに売り、時には失敗して怒られ、そこから学んで…。30年たった今でもまだ分からないことがいっぱいだ。ただ、信頼を寄せてくれるお客さまのことを深く知るため、休市前には得意先の店に通い、売った魚がどう調理されどんな仕上がりになるのか確認することをずっと続けている。自分の仕事の確認にもなるし、調理や演出などについての勉強にもなる。それを別のお客さまに紹介するなどしてヒントにしてもらい、さらに魚が売れていけば業界全体の底上げになる。
僕たちがお客さまのいちばん近くにいる自負がある。消費地でどんな評価か伝えることで、産地ではさらなる改善の手掛かりにしてくれていることだろう。仲卸もきょうまで進化をしてきたが、新しい時代に適応するための努力を皆でさらに継続しなければならない。
仕事面の負担減る
豊洲市場には、僕個人としてはずいぶん助けられた。完全閉鎖型で低温管理されているので、鮮度管理や衛生面の確保において(増し氷や小動物対策などの)気を使うところが少なくなったし、働く僕たちの体への負担も確実に減った。独立直後はかなり無理な働き方をしたので、築地で独立していたら夏場の繁忙期に病院へ直行していたかもしれない。働きやすい環境であれば、営業意欲も湧くというものだ。
公正公平な市場に
豊洲市場に来たいと思う人が、いつでも気軽に来られる環境は整えていかなければならない。開設2年を迎え、買出人がより多く来てもらえることにつながる課題も、市場関係者はおのおのみえてきていると思う。都には市場の開設者として、関係者の意見を聞き取りながら、買出人のあふれる活気のある市場づくりにつなげてほしい。
また、市場の一部で無法化の兆しがあるのも気になるところだ。施設の使用許可を受けて業務をしているわれわれとは別に、空きスペースを無断利用したり、外部から持ち込んだゴミを放置したりする事例が増えている。あいまいな部分に新たな場内ルールを定めるなど、不公平感が生じることがないよう、公正な運営を都と市場関係者が連携して取り組んでいける環境であることに期待したい。(つづく)