前回、鮮魚やマグロなどの水の出やすい商品を扱うウエットエリアである水産卸売場棟1階を中心に紹介した。今回は湿り気のない環境に保たれたドライエリアの水産卸売場棟3階に目を移す。1階でも活躍する総合卸5社に塩干加工品専業卸2社を加えた、計7社が日々活発に取引を行っている。シラス干などの入札品や開き干・ねり製品などの相対品、雑多な日配品まで、取り扱う商品は実に多様だ。第2回の水産卸編(塩干・加工)の主役は、畑末新太郎丸千千代田水産(株)常務(59)。
畑末常務
セリ人の力さらに磨く
僕たちは長らく、全国の生産者(荷主)の皆さんに代わり、販売代行業をしてきた。魚やそれにまつわる加工品を買う手段が市場以外にない時代はそれでよく、待っているだけで構わなかった。しかし、扱いの簡単な塩干・加工品を中心に市場を通さない流通が増えるにつれ、求められる仕事は得意先(仲卸・買参人など)の仕入れ代行業に変わったと感じている。
得意先からは、市場として何が差別化できるのかということが問われるようになった。つまりサービスの質、付加価値が重要になったのだ。僕は今の豊洲市場の最大の付加価値は、セリ場を核とした情報の収集・発信能力にあると考えている。
取引は電話やネットで容易にできるが、魚に関する高鮮度な“生”の情報はなかなか手に入らない。限られた相手との狭いネットワークや膨大なネットの海からは、時流に合った的確な情報を入手するのは至難の業だ。
全国のたくさんの産地とつながり、多様な人や商品が行き交う豊洲市場のセリ場には“生”の情報がある。その付加価値を最大化するために僕たち卸のセリ人は、情報収集力・発信力・集荷力・提案力・目利き力(適切な評価を行う力)・販売力に磨きをかけ、今以上にプロフェッショナルな存在になる必要がある。
ハード面追い付く
豊洲市場は、2018年10月まで仕事をしていた築地市場と比べると、完全閉鎖型で低温管理のレベルを高めたことにより商品にとって確実にやさしい環境になった。水産卸売場棟3階は常時14度C前後で運用しているし、10度C以下の要冷蔵商品の保管に対応するスペースもある。築地時代の一部施設は半閉鎖型であっても、台風では風雨の被害を受けた。豊洲では、関東圏に台風上陸が相次いだ19年秋も気にせず営業できた。
とはいえ勢いを増す市場外流通と比べ、豊洲市場は施設(ハード)面で並んだにすぎない。また、移転はおおむね順調だったが、築地での仕事を豊洲市場の施設で引き続き行えるようにしただけで、得意先の求めるニーズに合わせた商売はできているとは言い難い。
ルール再考必須に
ルールを見直す時期にきている。例えば市場外流通に比べて機能として劣る24時間365日への対応や、得意先の皆さんが駐車スペースを借りるコスト、稼働率の悪さに改善の余地がある。
今は、入荷が不安定な天然の鮮魚をうまく扱える流通拠点がほかに存在しないため、豊洲市場にトラックが集まり、「ついでに塩干・加工品の仕入れも」という一定の利用者がいるし、セリ場の“生”の情報に価値を認めてくれる得意先がメリットを感じて活用してくれている状況にある。
ただ、デメリットが上回ると見切られれば、豊洲離れが加速する心配がある。開設者である東京都と、水産卸売場棟のある7街区の関係者で組織する「7街区協議会」中心に、市場活性化につながる前向きな話し合いをもつべき時期にきている。
時代のニーズに合わせるのはもちろん、今まで培った市場の経験値・経験則を武器に、従来機能にさらなる付加価値を加え、豊洲を利用するすべての人々、最終的には消費者から必要とされる市場にしていきたい。(つづく)