卸売市場のうち消費地市場に分類される東京・豊洲市場は、日本全国津々浦々、そして海を越えて世界中の産地とつながり、さまざまな輸送手段を講じて市場に魚を集めている。主にその集荷機能を担うのが水産卸だ。漁港に面した産地市場ではないので魚は外部から運んでくるのだが、特に鮮魚やマグロの扱いにかけては場外の大手企業もかなわない。総合卸の5社(ほか塩干専業卸が2社ある)のうち、第1回の水産卸編(鮮魚・マグロ)での登場は、伊藤晴彦中央魚類(株)社長(53)
上乗せした低温化機能
先人たちが築いてきた市場機能は素晴らしいものがある。卸であるわれわれが全国の産地から荷を集め、仲卸の皆さんが買出人に販売するという役割分担が長い歴史の中で形づくられたことで、今日まで存続してきた。
入荷の安定しない天然の魚が毎日大量に集められ、それが市場を利用する誰かに買われて捌けていく仕組みは、誰かが一朝一夕に新しくつくれるものではないと日々感じている。
最近は天然の魚が減少し、限りのある資源を大切に活用しなければならないという思いを強くしている。出荷者の皆さんから預かった大切な魚を適正な価格できちんと販売を継続していくのがわれわれの使命。大量に獲れたから二束三文になってしまうのをどれだけ減らすことができるのかが荷受と呼ばれるわれわれ水産卸の大切な役割だ。
低コスト輸送に魅力
減少傾向の天然の魚の穴を養殖魚が埋めているほか、一方で下処理(一次加工)までした魚へのニーズが強まっているのが昨今の状況。天然の丸魚に比べれば計画的に生産・流通ができるものがいまだにここを経由するのは、豊洲市場と全国の産地とをほぼ毎日つなぐ大量のトラック便があってこそ。市場が歴史を重ねる中で築かれてきた物流の巨大ネットワークが低コスト輸送を可能にしていて、豊洲市場の競争力の源泉となっている。
一部を除いて開放型だった旧・築地市場から、完全閉鎖型の豊洲市場に移転した際、卸売場の低温化機能を上乗せした。建物の設計温度の25度Cではなく、卸売場は年中15〜16度Cで運用する。夏場には、鮮度の維持に氷を足すなどの手間がかかっていた旧・築地市場と比べれば、初めから低温環境下にあるという意義はかなり大きい。
形態の多様化がカギ
かつては水産卸の営む事業の大きな柱だったマグロは、市場外での直接取引が増えたことや、輸入を中心とした生鮮サーモンという強力な競争相手が現れたことで苦境に立っている。現状打開のために進めているのが販売形態の多様化だ。例えば当社では刺身スライスや刺身パックの販売に着手したが、コロ(塊状のもの)に加工するだけでも売り先の可能性が広がる。
春からのコロナ禍で、高級飲食店中心に使われていた活魚需要の低迷が大きな問題となったが、回復にはそれなりの時間がかかるのではないか。高・中級の評価を受けていた鮮魚も同じ。これらは飲食店の復活を待つしかないと思うので、まずは天然や養殖のそれぞれの鮮魚を、量販店・スーパーや鮮魚専門店といった小売ルートにしっかり販売していくつもりだ。
加工・仕分け要強化
現時点の豊洲市場に絶対的に不足しているものは、加工機能と仕分け機能の2つだ。現在の水産物流通のビジネスでは、この2つの重要度が非常に高い。場内に現存する加工機能は小規模すぎるし、場内物流もいまだ人海戦術。都内の花き市場などは自動仕分けや機械ゼリで動いているのに比べてかなり遅れを取っている。ITなどを取り入れて生産性を高める一方で、場内には機能強化するための空きスペースが足りないので、連携して動ける場外施設を整備する必要がある。(つづく)