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水産振興コラム
20249
日本の浜を元気に! - フィッシャーマン・ジャパンの挑戦

『水産業の当たり前を変える』~三陸から持続可能な水産業への挑戦~
第6回 水産業の担い手育成~漁師を増やす~

津田 祐樹
株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長

東日本大震災の後、水産業から多くの人が離れ、現場の人材不足が深刻化しました。フィッシャーマン・ジャパン(以下、FJ)が誕生した段階で、人材育成と採用の必要性を感じており、すぐに行動を開始しました。今回は、水産業に関わる人の育成というテーマで、FJの活動を紹介します。

魚を食べられなくなるかもしれない

1992年に32万人いた漁師は、2020年には約13万5千人にまで半減しています。さらに、漁師の平均年齢は60歳を超え、「魚を獲る人がいなくなる」という問題は、震災以前より言われていました。

なぜ漁師が減っているのでしょうか。

漁師の仕事は、安定した収入が見込めないこと、体力資本であること、命がけであること。自然と対峙し、人々の食を支えるカッコいい仕事であるものの、非常にハードな仕事です。また、漁獲量も減っており、過去40年間で、世界の漁獲量は約2.5倍になっているにもかかわらず、日本は3分の1まで落ち込んでいます。そんな状況もあり、漁師の中でも「自分の子には継がせたくない」といったネガティブな声が出るようになり、悪循環を止められずにいました。そこに震災が追い打ちをかけ、震災後に多くの漁師が浜を離れていきました。

「このままではそう遠くない将来、私たちが魚を食べられなくなる日がくるかもしれない」との強い危機感から、まずは漁師を増やすための取り組みを開始しました。

水産業への入口づくり~「TRITON PROJECT」の発足~

FJは、2015年7月に「TRITON PROJECT」を立ち上げ、水産業の担い手育成事業の取り組みを始めました。当時は、漁師に興味を持っている人がいても、「どうやって漁師になるかが分からない」「どこに相談していいか分からない」「求人情報や仕事内容の詳細が見えてこない」「住む場所から探さなければいけない」など、一歩踏み出すにも非常にハードルが高いものでした。

そこで、水産業への入口づくりとして、以下の取り組みを実施しました。

① 水産業に特化した求人サイト

漁師にどうやってなるのか、入口がわかりにくいという問題に対しては、浜ごとに散らばっていた求人情報を集約するサイトを作成しました。水産業全体の仕事、給与や条件が可視化され、現在では、約200件の求人情報を掲載しています。

TRITON JOB  https://job.fishermanjapan.com/

② 漁業を学べる短期研修プログラム

求人情報を見ても、実際に体験しないと分からないことだらけの漁師という仕事。そこで、1泊2日など短期間で漁師を体験できる「TRITON SCHOOL」も開設しました。いきなり漁師になるのではなく、研修や体験会などで漁師の仕事を知ってもらい、ミスマッチを防ぐ目的もあります。

③ 新人漁師が暮らすためのシェアハウス「TRITON BASE」

漁師は職業上、浜の近くに住む必要がありますが、田舎の漁村にはちょうどよいアパートなどはなかなかありませんでした。そこで、空き家を改修し、市外から移住して漁師になりたい人のハードルを下げるために、シェアハウスを整備しました。現在は、宮城県内で6カ所のシェアハウスがあります。

④ コーディネーターの全面的サポート

ハード面も整備していきましたが、それでも一般的な就職や転職とはハードルの高さが全く異なる漁師という仕事。ソフト面の強化ということで、漁師に興味がある、漁師になりたい人が何でも相談できるコーディネーターを配置。求職者の経験や相談内容をヒアリングし、その人に合った適切な求人情報やプログラムを提案。漁業の形態や受け入れる漁師に合わせてマッチングし、見学や面接、研修の手配もします。やはり辛い時や苦しい時を支えてくれるのは、仲間や人の存在。

このようにして、ハード・ソフト両面から漁師を増やすための施策を行ってきました。

⑤ 地域全体でチームとしての協力と連携

上記施策も、FJ単体だけでは進みません。石巻市や、宮城県漁業協同組合との連携も欠かせないものでした。幸い、どの組織も、震災前よりもっとよい浜の未来をつくりたいという共通の想いがあったために、スムーズに進められた側面もあったかもしれません。しかし、行政などには担当者の変更というのがつきもの。同じ熱量で一緒に進み続けるために、想いのバトンを渡すことや多くの人を巻き込み認知度を高めながら事業を推進することにも努めてきました。

一方で、採用する側の体制構築も非常に重要な課題でした。
後継者不足をなんとかしたいという点では、親方漁師も漁協の皆さんも想いは共通。しかし、実際に世代も育った場所も異なる、全くの初心者を受け入れるというのは、受け入れ側にも大きな挑戦でした。「すぐ辞めてしまうのではないか」「ちゃんと育てられるだろうか」などと様々な不安の声が上がります。

そういった感情も大事にしながら、受け入れ側の親方や関係者にも丁寧に寄り添い、想いを伝え続けました。受け入れが決定した親方漁師と担い手には、コーディネーターが定期的な面談や勉強会、交流会を実施しています。

新人漁師たちも早く受け入れてもらえるように、元気に挨拶し、積極的にコミュニケーションをとり、一生懸命仕事に取り組んでいました。そんなまっすぐな姿勢を見て、徐々に浜の人たちの不安が期待へと変わっていきました。

フィッシャーマンを1000人増やす

漁師を増やすために、考えられることはなんでもチャレンジした結果、現在漁師として活躍している人は石巻市だけでも53名。この数字は、全国の漁業地域で上位を誇る数字です。その後、水産業の人材育成事業は全国へ展開し、気仙沼市(宮城県)、宮城県、南伊勢町(三重県)、西伊豆町(静岡県)、北海道、黒部市(富山県)、高知県などにも広がっています。各地域に適した漁業の形を考え、そのために必要な人材をどのように確保するか、どうすれば受け入れてもらえるのかを整理しながら進めています。

さらに、2021年3月、漁船IoTベンチャーとしてIoT活用による水産業の課題解決に取り組む、株式会社ライトハウスとの連携がスタートし、事業推進のスピードが上がっています。

もちろん、何が何でも漁師に育てることがゴールではありません。実際漁師にはならなくても、体験に参加したり、別な形でFJや水産業の仕事を手伝ってくれたり、支えてくれる人たちを考えたら1000人を遥かに超える人たちが関わってくれています。団体設立当初に立てた目標である、2024年までに1000人フィッシャーマンを増やすという数字はまだまだ追いかけているところですが、日本の水産業の未来をよくしていくという点からは、私たちに見えてきた可能性は10年前よりずっと広がっています。

未来の漁師と海のために

最近、「単に『漁師になる』だけが正解ではない」ということをチームでよく議論します。漁業には繁忙期と閑散期もあります。全国の繁忙期を巡って漁師を手伝うという働き方、釣りでその地域の水産業を支える働き方、副業として漁師の仕事をするという働き方など、多様な働き方を模索しているところです。

さらには、受け入れる漁師側でも、効率的で持続可能な形である協業化やグループ化など、漁師の在り方を変えていく必要があると考えています。個人や家族経営が大部分を占める漁業において、高齢化や過疎化、漁場の空きなどの問題解決には、効率的に利益を上げながら複数で経営する漁業形態が求められています。

そして、漁業を続ける上での死活問題である海洋環境保全。私たちも漁師たちと一緒に、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」の概念を取り入れ、持続可能な漁業を目指す動きが絶対に不可欠です。例えば、資源管理の徹底や漁法の改善、海洋プラスチック問題への対策など、環境負荷を減らすための取り組みが求められています。海という現場に直接関わる私たちだからこそ、自分たちができるところから行動が必要です。

次世代に豊かな海と漁業を残すために、漁師の働き方やあり方、マインドなど、単に漁師の数を追うのではなく、現代に合った漁師や持続的な漁業環境をどう作り出していけるのか、今後の私たちの挑戦です。

まとめ

今回は、「漁師を増やす」という目標を掲げ、FJがどのような取り組みで水産業の担い手育成に取り組んできたかをお伝えしました。今ではその取り組みが石巻から全国へ広がっています。

そんな中、やはり漁師だけでなく、仲買人や加工業者をはじめとした水産業全体の人材不足問題も解決していかなければ、未来の水産業を守ることはできないと痛感しています。そこで次回は、漁師以外の水産業の担い手育成に関する取り組みを紹介します。

TRITON PROJECT HP
https://triton.fishermanjapan.com/

第7回に続く

プロフィール

津田 祐樹(つだ ゆうき)

株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長
宮城県石巻市出身のグロービス経営大学院卒業生。石巻魚市場の仲買を経て、東日本大震災の被害を受けて2014年にフィッシャーマン・ジャパンに参画。2016年には販売部門を株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングとして分社化し、代表に就任。国内外の販路拡大、飲食事業、コンサルティング、政策提言、海洋環境保全活動を推進し、日本の水産業の未来を切り開く。