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水産振興コラム
20248
日本の浜を元気に! - フィッシャーマン・ジャパンの挑戦

『水産業の当たり前を変える』~三陸から持続可能な水産業への挑戦~
第5回 仲間が多い方が遠くまでいける

津田 祐樹
株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長

水産業の当たり前を打ち破るべく、我々ができることを、様々なアプローチで行ってきました。しかし、自分たちだけでやっていても限界があるということに気づいたのです。そこで、水産業の未来のために、もっと多くの仲間たちと力を合わせるべく、業界内外問わず、様々な人たちとの連携を行っています。今回の記事では、今までフィッシャーマン・ジャパン(以下、FJ)が行ってきた、業界内での連携や異業種との連携の事例をご紹介します。

1 業界内の連携

まず、業界内の連携です。前回の記事で、業界内でも協力し合うことが難しかった背景や、第三者が入ることで気づいたオープンイノベーションへの道をお伝えしました。FJではまず、同じ思いを持った漁師や水産加工会社、魚屋が連携し、魚の商品価値を高めるということにチャレンジしました。

漁師×魚屋の連携

従来、漁業では浜値(水揚げされた産地で最初に付く値段のこと)が高くなると水産加工会社や魚屋の利益が減り、逆に魚価が下がると水産加工会社や魚屋の利幅が増えるという構造がありました。結局売り値が変わらないので、利益を奪い合うことになるのです。そこで、最終的な売値を上げて、全ての関係者が利益を得られる仕組みを作る挑戦を始めました。

まずは、漁師の顔を前面に出すことで、漁師そのものを商品としてブランディングし、高価格での販売が実現しました。これにより、価格競争を避け、独自の価値を提供することが可能になりました。

FJ設立後に行った飲食店チェーンとの取り組み事例

消費者にとっても、単なる産地の魚よりも、生産者とのつながりが感じられる魚の方が魅力的であり、「この人の獲った魚が欲しい」と思えるようなブランディングが構築でき、直接エンドユーザーとつながりやすくなりました。このように、漁師と協力することで、消費者との距離を縮め、より高い価値を提供することができたのです。

地域内の連携

同じ地域の漁師や水産会社が協力し、情報や資源の共有化を進めました。共同でのイベントやプロジェクトを通じて、地域全体で利益を上げる体制を構築しました。

• 石巻食品輸出振興協議会

石巻食品輸出振興協議会とは、東日本大震災の影響により失った国内販路に代わる新たなマーケットとして、石巻市産農林水産物・食品の海外輸出振興を目的に2016年に石巻市が設立した組織です。現在は、市内30社ほどの農水産関連事業者が共同で海外販路の開拓、輸出促進等に取り組んでいます。株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング(以下、FJM)は2020年より事務局サポートを担っており、FJMの事務局加入後はアメリカ市場の開拓に力を入れています。2022年度は輸出売上1,000万円、2023年度は5,000万円と取引が急拡大していて、2024年度のアメリカ向け輸出は1億円を目指しています。

市内100社以上の水産加工事業者を有する石巻が、協議会とFJMを窓口として地域一丸となり、魚種から加工度まで顧客の様々な要望に幅広く対応することが可能となりました。この仕組みが取引実現、拡大に繋がるとともに、地域への波及効果に広がりを見せています。

その中でも、大きな取引に成長しつつあるのが、石巻市雄勝町を拠点とする株式会社マルカ髙橋水産の「活タコのあぶり焼き」。活きたタコからの商品づくりにこだわり、その高い品質がアメリカのバイヤーを魅了。FJMと現地パートナーと共に西海岸カリフォルニア州の取引先各社と関係を深め、2024年9月からは現地回転寿司チェーン全店での定番採用が決定しました。それ以外にも、石巻の水産事業者各社と二人三脚でアメリカ市場を開拓し、次なるヒット商品が生まれつつある状況です。

ミツワマーケットプレイスでの石巻フェアの様子

また、アメリカで有名な日系スーパーのミツワマーケットプレイス等でも、定期的に石巻フェアを開催できるようになり、様々な種類の石巻の水産物を現地の消費者の方々にお届けできるようになりました。1つの商品、1つのメーカーを売り込んでいくより、多数の魅力的な商品やメーカーを提案できれば、それぞれが相乗効果をなし、結果として個社の取引拡大にもつながるのです。地域で連携することで、このような好事例が生まれています。

• 東北・食文化輸出推進事業協同組合

東北・食文化輸出推進事業協同組合(以下、輸出組合)は、東北地方の食に携わるメーカーが連携して海外輸出に取り組む組織です。こちらもFJMが事務局を担い、水産加工品のみならず、農畜産物や、お酒、お菓子など幅広いメーカーが協力して主にアジア圏への輸出を行っています。

直近では、山形のワインメーカー7社が連携し、マレーシアへの共同輸出が実現しました。さらに、台湾やタイなどの国内最大級の展示会への出展や、高級レストランオーナーやバイヤーが集まるイベントを開催するなどして、順調に取引先や商品数、量ともに拡大しています。

タイ国内最大級の展示会への出展

輸出組合が大切にしているのは、直接貿易の推進と支援です。
石巻の多くの水産業者は、昔から東京の商社経由でかなりの水産物を輸出しており、現在も状況は変わっていません。しかし、それだと売上げが上がっても多くの利益を東京の会社に取られてしまい、地域に残らないという課題があります。
それを解消するため、地域の会社が直接、海外の輸入会社と取引をできるようにノウハウを提供したり、一緒に海外の商談会に行ったりしています。
メーカーとしても、高く売れるというのは利益増に直結します。景気が好調な国や富裕層にアプローチすることで、会社として、ひいては地域としても活性化に繋がります。東北地方の各企業のいい商品を輸出するのはもちろん、地域の価値や利益に貢献できるように、力を入れている取り組みです。

2 異業種との連携

様々な分野と情報共有を進めることで、業界外から多くの協力者を得られました。特に、業界が遠ければ遠いほど、その連携によるニュースバリューや価値の高まりに気づきます。

ガストロノミーとのコラボ

FJは宮城県を代表する一流ホテルと連携して、三陸の海の幸を探求する新たな試み、「三陸シーフードガストロノミー」というプロジェクトも行っています。
温暖化などの影響により、三陸で水揚げされる海産物の種類は大きく変化しており、浜の近くでは当たり前に食されていても、県内の内陸部にはめったに出回らない希少食材もまだまだ残っています。生産者、水産会社、料理人がタッグを組んで新しい魚種、知られざる魚種に挑み、東北宮城ならではの食べ方を提案し、変わりゆく海洋環境に対応し、食文化を再構築しようとする試みです。

この取り組みは、メディアにも多く取り上げられ、地球環境の変化が水産業にどのような影響を与えているのか、生産者や水産会社だけでなく、料理人や、実際に食べる人にも新たな「学び」を提供することができました。

アパレルとのコラボ

漁師とアパレルという、一見すると対極にいるような業界とのコラボレーションも多数実現してきました。FJは2015年から、毎年株式会社アーバンリサーチとコラボレーションしたプロダクトを発表しています。漁業者向けに開発した、シティユースでも使えるウェアや、プロユーズとしてファンも多い漁業用カッパなど、ウェアを通して若者と水産業を繋いでいます。

さらにその一環として、誰でも海の環境問題に貢献できるプロダクト “KAISO” を、FJとアーバンリサーチ、及び株式会社ファーメンステーションとタッグを組んで開発しました。

“KAISO” は宮城県石巻市の磯焼け対策用昆布から抽出したエキスと岩手県奥州市のオーガニック米もろみ粕エキスを配合し、天然由来成分98%と環境にほとんど負荷をかけない商品で、大人から子供まで使うことができる石鹸やハンドクリームです。プロモーションでは海洋環境の変化についても訴求し、売上は海洋環境保護の活動に活用。水産業とは全く接点のない層にも海洋環境の変化を知ってもらうよいきっかけになりました。

G-SHOCK

さらに、FJの10周年を祝して、G-SHOCKとの新しいコラボレーションモデルを発表しました。石巻を舞台とした総合芸術祭を主催する「Reborn-Art Festival」とG-SHOCKを手がけるカシオ計算機株式会社との3社コラボです。

サステナブルな漁業への移行。職人技による最高の一皿の追求。水産業にかかわる「フィッシャーマン」のさらなる育成。そんな門出を祝う新たな大漁旗がモチーフとなったスペシャルモデルで、売れ行きも好調です。

真正面から問題を訴えても、なかなか当事者意識をもってもらうことが難しい水産業。このような大手ブランドと連携することで、間接的にでも、水産業が直面する課題に少しでも興味関心を持つきっかけになっているのではないかと思っています。

ここでは書ききれないですが、同じ志を持った多くの方々とコラボさせていただいています。もしFJと何か水産業の未来へ向けてできるのではないかと思われたらぜひご連絡ください。

まとめ

自分たちだけでは限界があると気づき、業界内外を問わず、多くの仲間たちの手を借りて、水産業の当たり前を変えようと行動してきました。メディアからも多数取材してもらったり、水産業仲間や周囲からも好評で、多くの人に水産業の現状や未来のための行動へ間接的にでも関わってもらえる機会が増えました。そのようにして実績は増えていったのですが、外部の力を借りたり新しいコラボレーションをしていくためには、我々自身ももっと学び、社内だけでなく水産業に関わる人材を育てていく必要があることに直面します。

次回は、人材育成についてFJがどのような取り組みを行っているかをご紹介します。

第6回に続く

プロフィール

津田 祐樹(つだ ゆうき)

株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長
宮城県石巻市出身のグロービス経営大学院卒業生。石巻魚市場の仲買を経て、東日本大震災の被害を受けて2014年にフィッシャーマン・ジャパンに参画。2016年には販売部門を株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングとして分社化し、代表に就任。国内外の販路拡大、飲食事業、コンサルティング、政策提言、海洋環境保全活動を推進し、日本の水産業の未来を切り開く。