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水産振興コラム
20228
ブルーカーボンで日本の浜を元気にしたい
第8回 磯焼け対策としての藻場再生—現場の声
袈裟丸 彰蔵
JF全国漁青連
20年以上の活動をとおして改善した藻場(例1)

今、私の目の前には海藻が繁茂した美しい光景が広がっています。海洋生物の社会では仔稚魚や小魚の住処であり、産卵場であり、レストランでもあり、人間社会では今まさに世界中が注目するカーボンニュートラルの実現性を秘めたCO2を吸収する海の森、すなわちブルーカーボンです。

代々続く漁師家系で育った私は迷うことなく高校を卒業すると同時に海士漁業(素潜り漁)を生業とし、2000年頃より藻場保全活動をおこなっています。新米漁師の頃、禁漁期以外は毎日のように海の中へ潜ってはアカウニ、アワビ等を漁獲していました。漁師になり立ての頃は漁獲量を上げることに必死で何も見えていなかったのかもしれませんが、そんなある日、海中の様子に違和感を感じました。それは海藻が減っていること、そして年を追うごとに加速するように海藻が減っている様を間近で見ることにより、違和感は危機感に変わりました。

2000年頃、当時は磯焼けという言葉があまり根付いていませんでしたが、私は直感で行動することになります。とは言っても何をすればいいのか?まず着目したのは地元では漁獲対象外であるガンガゼやムラサキウニが増えてきていること。いわゆる食害生物です。私を含め漁業者がアカウニやアワビといった金銭的に価値がある生物だけを漁獲し、一方で食害生物を放置した結果、生態系のバランスが崩れてしまい、海藻を餌とする生物の食圧に耐えることのできない藻場になっていると仮説を立てました。そこから食害生物の除去をすることで生態系のバランスを元に戻そうと行動に移しました。当初、地元漁業者からは「お金にもならない事に精を出し、あいつは何をやっているんだ」と理解されることもなく、孤独との闘いでした。ただ、誰かがやらなければ海藻はいずれ消失し不毛の磯になってしまう、そうならないようにしなければならないという想いだけで活動をおこなってきました。

磯焼けしているときに活動していた駆除風景

マンパワーには限りがあるため、広域に捉えずエリアを絞って重点的に行動すると僅かながらに結果として現れました、年を追うごとに減っていた海藻が維持できるようになり、微増ではあるが増える年もありました。もちろんすぐに成果が出ないエリアもありますが、それでも手入れは欠かせません。何故なら海藻が生える瞬間に食害を少しでも抑制できる環境が整っていることが重要だと感じたからです。その効果は数年後に突然やってきました。今まで全く繁茂していなかったエリアに海藻が繁茂していたのです。それだけではありません、活動してから10年程経過し、私の活動に共感してくれる地元漁業者の方が少しずつ増えていき協力者も現れました。2010年には環境・生態系保全活動支援事業、2013年からは水産多面的機能発揮対策事業といった国の助成制度も受け、無論、助成金以外での藻場保全活動もずっと続けてきました。主に素潜り漁の最中に隙間時間を作っては海の手入れをおこなっています。

そして今では自分で言うのもおこがましいですが、地元の磯は自慢の藻場へと変貌を遂げました。決して私一人の力とは言いません、協力してくれる地元漁業者や関係者の力も借りて自然がそれに応えてくれたのです。磯焼けの終わり、それは藻場を守るための始まりでもあるのです。これから先、後世へこの美しい藻場を残すためにも活動に終わりはありません。

20年以上の活動をとおして改善した藻場(例2)

私は次のステップとしてYouTubeで“袈裟丸チャンネル”を開設し、啓発活動をおこなうことにしました。藻場保全活動から得た経験を軸に、世代を超えて幅広い層の方に藻場の重要性を伝えたいという使命感からきていることだと感じています。日本各地では、未だ磯焼け問題が解消していない地域が点在していること、海藻・海草には様々な可能性があること、私が今まで行ってきたことなど動画を通じて水産資源の大切さを知っていただき、一人でも多くの方の心を動かせるようにと、そして共感を得た人が行動するためのきっかけになればと想いを馳せながら投稿をおこなっています。動画投稿が増えていくと励ましのコメントをもらうこともあり、今では私を突き動かす原動力ともなっています。

20年以上の活動をとおして改善した藻場(例3)

最後に、藻場保全・再生のために私が常日頃に意識していること、それは如何に磯焼けにならない状況を造っておくか、如何に海藻が生えやすい環境を造っておくかに他ならないと思います。そして、その地域毎に特性はあるものの、一番海の中を見ている・知っている人こそが漁業者だと思います。いつも同じ海の中に潜っているからこそ、いつも色んな魚介類を獲っているからこそ小さな違いに気づかなければいけないし、海を生業の場にしているからこそ、漁業者はお世話になっている海へどのような形で還元できるかを考えなければなりません。例えば自分の土地で野菜を作っていたとして、その時どういう行動をしますか?きっと一生懸命になって土づくりをするでしょう、草むしりをするでしょう、それは漁業も同じことだと思います。“海づくりは食づくり”環境の整った磯で獲れる漁獲物は味も良くなります。そして海づくりのたどり着く最終局面は地球を救うことだと確信しています。

最近、私は、藻場再生の大切さを多くの方々に共感してもらう活動を行うことを目的に、藻場造成を行う主体として袈裟丸マリン合同会社を立ち上げました。まだ模索中の段階ではありますが、地元の藻場だけではなく、もっと広域的に藻場造成に取り組めるよう更なるチャレンジをおこなっていきます。

20年以上の活動をとおして改善した藻場(例4)

第9回へつづく

プロフィール

袈裟丸 彰蔵(けさまる しょうぞう)

袈裟丸 彰蔵(JF全国漁青連)

1978年生まれ。
2015年~ 佐賀県玄海水産振興研究会 会長
2019年~ 佐賀県玄海水産振興研究会 顧問
2020年~ 全国漁協青年部連合会 理事
2022年~ 佐賀玄海漁協青壮年部 部長