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水産振興コラム
20228
ブルーカーボンで日本の浜を元気にしたい
第7回 漁業者としてのブルーカーボンの取り組み
川畑 友和
山川町漁業協同組合
海藻に群がる植食性魚類(イイズミ)

私からは漁業者としてのブルーカーボンに関する取組についてご紹介します。

1) 漁業を取り巻く環境

私が地元で定置網漁業に就業したのは平成15年12月。当時から “魚価安、燃油高、資源の減少、高齢化” など今でも続く問題が多くありました。

将来の水産業に危機感を抱いた私たち若手漁業者は、平成17年9月に山川町漁協青年部会を発足させ、これらの問題を解決するべく活動を開始しました。しかしながら、魚価安においては漁業者だけで解決できず、燃油高も国際相場によって決まり、高齢化も魚価安が直結するため世代交代や新規就業に当たって魅力を発揮できないなど、青年部として解決できることはないのではないかと、たちまち路頭に迷いました。

2) はじめて認識した海藻・海草の重要性

そのような中、平成18年5月に鹿児島県水産技術開発センターによる沿岸域の藻場調査に同行する機会があり、私たちの活動は大きく前進しました。

それまで海藻・海草の存在はなんとなく知っていたのですが、調査を通じて種類や分布域、現状など多くのことを学ぶとともに、県庁の方から海藻・海草の役割や重要性を教えていただき、これで「水産業の問題である“水産資源の減少”に歯止めをかけることができるかもしれない!」と希望を抱き、早速、同年8月から山川町漁協の支援を受け、藻場造成活動(ウニ駆除や母藻の設置)、アマモ場造成活動(アマモの種まきや、繊維状のマットに種を仕込んだ人工アマモマットの設置など)の取組をスタートしました。

アマモマットから発芽したアマモ

3) 七転び三起き(藻場造成の難しさ)

しかし、知識も乏しく、若さという体力だけを武器にした、めったやたらな活動では当然うまくいくはずもなく、活動当初に描いた「翌年には広大な藻場を形成させる」という夢は見事に打ち砕かれました。

藻場造成の一番の難しさは、成果が出るのに時間がかかることです。平成18年にスタートした地元でのアマモ場造成は現在でも有意な成果には至っていません。藻場造成に関しては海藻を食べるガンガゼウニを駆除することによって一定の成果が得られてきました。しかし、近年の海水温上昇に伴ってなのか、植食性魚類が一部の海域で多く見られるようになり藻場が消失した場所もあります。

海藻・アマモ場造成は環境の変化、活動量などによって大きく左右されます。なので諦めずに継続していく鋼の精神を持ち合わせていることが求められると思います。

私はいい意味で負けず嫌いです。失敗したから諦めるのではなく、“失敗は成功のもと”とポジティブな面も兼ねそなえています。なので今現在でも藻場造成活動を続けているのかもしれません。

4) 環境生態系保全活動支援事業 ⇨ 水産多面的機能発揮対策事業

それまで単独の青年部活動として藻場造成活動を続けていましたが、平成21年度から水産庁の環境・生態系保全活動支援事業がスタートし、全国の漁業者が沿岸域の藻場を増やすための取組を、国、都道府県、市町村の支援を受け、取り組めるようになりました。

支援事業に参画して気付いたことは、漁業者が、藻場保全の取り組みについて他の地域の漁業者と交流・情報交換を行なっていたことです。普段、漁業者はいわば企業秘密の漁場の情報、使用している漁具について、一切情報交換をすることはありません。しかし、藻場造成については情報を共有し、交流を持っている。「全国の漁業者が共通の問題点に直面すると団結することができるんだ。」と感じました。そこで意を強くした私は、もっと多くの関係者と情報交換したいと企画し、多くの専門家や関係者のご協力をいただいて平成22年に「全国アマモサミット2010 in 鹿児島」を指宿市で開催し、藻場の現状や保全活動の重要性を共有し、発信しました。

その後、平成25年から水産多面的機能発揮対策事業として現在も全国の漁業者と情報交換しながら藻場造成活動が続いています。

5) ブルーカーボンとの出会い

これまで、海藻・海草を増やすことは、水産資源の維持、増加を目標として活動してきました。しかし、平成29年6月に発行された “ブルーカーボン 浅海におけるCO2隔離・貯留とその活用”(編著:堀正和氏、桑江朝比呂氏)を拝読し、「海藻・海草の役割は水産資源を増やすだけではなく、大気中の二酸化炭素が海洋に溶け込んでいるのを光合成によって吸収し酸素を放出している。しかも、単位面積当たりの二酸化炭素吸収割合は陸上の森林と比較して数倍にも相当する。また、枯れた後も有機炭素として海底に固定、貯留するため陸上植物の0.05%しかない沿岸顕花植生域(マングローブ林、塩性湿地、海草藻場)の年間炭素貯蔵量は地球上のすべての陸上植物が貯蔵する炭素量に匹敵する。」ことを知りました。

まだまだ勉強していかないといけないのですが、私にとって、このような情報は藻場造成活動を続けていくうえで、強烈な原動力になります。

6) 今後、漁業者としてのブルーカーボンの取り組み

大変おこがましい言い方ですが、私たち漁業者は漁業権という権利のもとに漁業をしています。権利を主張するのであれば、地域や社会における義務も果たさなければいけないと考えています。それには藻場造成だけではなく海岸清掃や漁場の管理、国境監視などがあると思います。

その中でも藻場造成活動は時間も労力もかかります。しかしながら、単に豊かな海を未来に残すためというだけでなく、私たち漁業者が地球温暖化対策にも貢献できる非常に重要な取組であると思います。

私事ではありますが、今年6月にJF全国漁青連の会長に就任しました。

昨年12月にJF全漁連の計らいで実現した小泉前環境大臣とJF全国漁青連との懇談の中では、ありがたいことに小泉前環境大臣から「青年部活動の一環としてブルーカーボンの取組をしてみてはどうか。」とのお言葉もいただいております。

小泉前環境大臣との懇談

今後も、全国の若手漁業者が水産資源の問題、海洋・地球温暖化問題を深刻にとらえ、多くの有識者の意見をいただきながら効果的な活動ができるように努力して参ります。

第8回へつづく

プロフィール

川畑 友和(かわばた ともかず)

川畑 友和(山川町漁業協同組合)

1978年生まれ。
2005~山川町漁協青年部会 会長
2017~山川町漁業協同組合 理事
2022~全国漁協青年部連合会 会長