第9回　生産者から消費者へ、笑顔の輪を広げる新たな挑戦
—うみひとネット会員 深川沙央里さんの活動紹介—

「100年後も天草の地で安⼼して⽣産活動を続け、地域のおいしい特産品で全国・世界に笑顔の輪が広がりますように」。そんな思いで地域に事業を起こし続けるうみひとネット会員がいる。

熊本県・天草市の株式会社クリエーション WEB PLANNING（以下、CWP）代表、深川沙央里さんだ。漁家に生まれ、自身も車エビ養殖場を経営する。今では養殖にとどまらず、EC、卸、加工等多角的に事業展開し、CWPは地元の生産者に寄り添う地域商社になった。

創業から11年目を迎えた2024年、深川さんは自分の思いを言語化し、伝える活動を強化した。広報活動による情報発信に加え、消費者と直接つながる機会を積極的につくってきた。

今回は、深川さんが東京で開催したポップアップイベント、「産地とつながるWEEK」について紹介する。

「消費者に生産者の思いを伝えたい」「生産者には消費者の声を届けたい」と思い開催したこのイベントで、深川さんは新しい気づきを得たという。

試食会の様子。天草の養殖場とオンラインでつなぎ、深川さんから生産現場の工夫を紹介

深川さんは2024年11月16～21日の6日間で、自社の水産加工品をPRするポップアップイベントを開催した。場所は東京の自然派飲食店 美－菜巣Angelino（代表：小澤紀子さん）。食への感度が高いお客様が多数来店するお店だ。

期間中には、CWPの車エビ養殖場・水産加工場とオンラインで繋ぎながら試食を行う「産地とつながる試食会」を開催したほか、オープニングイベントとして天草出身のプロマジシャン水嶋ユウさんによるマジックナイトも開催。

ランチやディナーの来店も含めて、6日間で80人以上がCWPの産直水産物を堪能した。

このポップアップイベントは、首都圏の消費者にCWPの商品を知ってもらい、生産現場への理解を深めるために企画した。

国産水産物にこだわり生産・加工を行う中小事業者であるCWPは、大企業などに比べて売価が高くなってしまう一方、生産者から適正な価格で買い取ることで、地域の一次産業の持続的な生産活動に貢献してきた。深川さんは、そんな実態も伝えていきたいと思っていた。

試食会で、CWPの水産加工品を使ったオリジナルメニューを紹介する美－菜巣Angelinoオーナー小澤さん

「産地とつながる試食会」は、商品の誕生秘話や、CWPの生産現場における「環境と人にやさしい」取り組み等を伝える内容にした。

東京のイベント会場と天草の養殖場をオンラインでつなぎ、深川さんは養殖場と加工場を背に生産現場の様子を紹介した。その後、参加者に実際に車エビ等を味わってもらう構成だ。

24時間365⽇稼動するセンシング機器を養殖池に導⼊し、危険な作業や職業病などの不安を取り除いたことで、女性でも生産管理ができるようになったことを紹介すると、思わずうなる参加者。

また、衛生管理が行き届いた加工場を映像に映し出すと、「キレイ！」と感嘆の声が上がった。加工場の従業員に地域の元気な高齢者を雇用し、多世代がそれぞれの特性を活かして活躍するCWPの強みも紹介した。

小澤さん考案メニュー

試食には、美－菜巣Angelinoオーナーの小澤さんがCWPの加工品を使って開発したオリジナルメニューを提供。コロナ禍により出荷量が激減した養殖魚をなんとか食べてほしいと、天草のホテルと連携して開発した「ブリとマダイの冷凍総菜」は、米粉キッシュにアレンジされた。

また、ロットや規格がそろわず買い手が付きにくかったレンコ鯛を使った「鯛のハーブ焼き」は、アクアパッツァにアレンジされるなど、商品の特徴を活かしたオリジナルメニューが次々に登場。

深川さんも驚きのレシピで商品の魅力を引き出した。

試食会の参加者とオンライン画面越しに記念撮影

創業期からずっと「地域と産業を守ることが大前提」と思い走ってきたという深川さん。今回も「私たちの思いを伝えたい」という趣旨でイベントを企画したが、結果的に消費者や飲食店と直接つながり、顔を見て、声を聞けたことが何よりの成果になった。「おいしい」という言葉や、オンライン画面の先にある参加者の笑顔、にぎやかな雰囲気を通して、「私自身もエネルギーをもらった」と振り返る。

「これまで、『地域』と『産業』を守りたいと思い事業を行ってきたが、『お客様の笑顔と健康』も、私が守りたいものに加わった気がする」と、自身の中に芽生えた新たな感情に希望を見出す。

そして今度は、深川さんが感じたこの感動や気づきを、地域の一次産業に携わる生産者の皆さんにも届けられるようになりたいと語る。