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水産振興コラム
20245
私たちが見つめるのは100年後の農山漁村

(一社) うみ・ひと・くらしネットワークは、農山漁村で活躍する人たちを応援するための様々な活動を行っています。(一財) 東京水産振興会では水産振興事業の一環として、その前身組織である「うみ・ひと・くらしフォーラム」への支援を2008年度より継続して行い、シンポジウムの開催などを行ってきました。また、ウェブサイト『漁村の活動応援サイト』(gyoson.suisan-shinkou.or.jp)で様々な漁村の活動について紹介いたしました。2024年度は、農山漁村の地域活性化事例などについての発信を行うため、同ネットワークのメンバーによる新連載を開始いたします。ぜひ多くの方々にお読みいただければと思います。

第1回 変わり続ける「うみ・ひと・くらしネットワーク」
―― この連載でうみひとネットが伝えたいこと

久保 奈都子
(一社) うみ・ひと・くらしネットワーク広報チームリーダー

私とうみひとネットとの出会い

私が「うみ・ひと・くらしネットワーク」(以降、うみひとネット)に初めて出会ったのは、JF全漁連職員になって2年目の夏。2014年に鹿児島県の指宿で開催された「うみ・ひと・くらしシンポジウム」(以降、うみひとシンポ)だった。

それは、漁村女性の活躍をテーマに活動する女性研究者たちのグループ「うみ・ひと・くらしフォーラム」(※うみひとネットの前身)が主催の、異色のイベント。漁村で加工品をつくったり起業をしたりと、地域の課題にあわせて様々な活動をする女性グループが自慢の商品を持ち寄り、情報交換を行う。他の水産関係の会議やシンポジウムに比べて、とても華やかで賑やかで、率直な言葉が飛び交う空間だった。

うみ・ひと・くらしシンポジウム 2014 会場風景
うみ・ひと・くらし通信Vol.2より

当時職場の先輩で、「JF全国女性連」(漁協女性部の全国団体)の事務局を担当していた香取さん(現うみひとネット事務局長)に、「かねたん(私のあだ名です)も行ってみない?すごく勉強になると思う!」と声をかけてもらったのがきっかけだった。


水産政策を担当する部署で働いていた私は、入会してからずっと、“オカタイ” 仕事ばかりに携わっていたので、「これって本当にお仕事として行ってもいいのかしら」と戸惑ったことを覚えている(笑)。

仕事内容に優劣をつけるつもりはまったくなかったが、当時は業界全体的に、「資源管理」や「水産改革」等に比べて、「女性活躍」は、“その次” に考えるべき問題という雰囲気があったように思う。

そして私自身も、そもそも平成の時代に、まだ「女性活躍」を掲げて活動をする必要があるのだろうか、という疑問を持っていた。


そんな中、“JF全国女性連事務局の仕事” として行ったうみひとシンポ。
そこで私は、「漁村の女性たちのリアル」を知り、衝撃を受けたのだった。

1つ目の衝撃 ― 今も戦う女性たち

コロナ禍に実施したオンラインシンポジウムのようす。続けることの大切さを痛感

平成生まれの私は、幸いなことにそれまで男女の差で悩むことはほとんどなかった。「やりたい」と思ったことをさえぎられたことはないし、「女だから」という理由で何かを押し付けられたり妨げられることもなかった。進学も仕事も結婚も、自分の好きに決めてきた。

だからだろうか。初めてうみ・ひと・くらしフォーラムの存在を知ったとき、「女性たちを支援する」「女性活躍を推進する」という言葉に違和感があり、「もうそこじゃないんじゃない?」という勝手な感想を抱いた。


ところが、実際にうみひとシンポに参加してみてその考えは180度変わったのだ。


そこには、今も戦っている人たちがいた。戦おうとしている人たちがいた。そして、それを知ろうとして、支える人たちがいた。
「この人たちがいたから、私は未来に希望をもって生きてこられたのか」と気づかされたのだった。

2つ目の衝撃 ― 女性たちの本当の思い

漁村女性らが作った商品の一例。生産者や地域を思って生まれた加工品が多い。
消費者目線に立った丁寧な商品づくりも評判

しかし、よくよく皆さんの活動のことを知ると、必ずしも「女性の地位向上」や「女性活躍」ということを最初から掲げていたのではないようだった。
「とうちゃんが獲ってきた魚を無駄にしたくない」「地域の郷土料理を守りたい」「値段がつかなくて捨てられる魚がもったいない」「子どもたちに故郷への誇りを持ってほしい」と、身近なところにある課題に危機感を持ち、行動に移してきただけなのだ。

そんな課題を「どうにかしなきゃ」と動く中で、もどかしい、悔しい、理不尽な出来事が出てきたのだろう。


危機に目をそむけずに男社会の「すきま」を埋めるように地域を守ってきた女性たちの動きに、時代が追いつかず、結果的に漁村の女性たちは戦わざるを得なかったのだろう。

きっと諦めなければならなかった人たちもたくさんいたと思う。


でも、そんな湧き上がるような浜の動きが、紛れもなく、地域を守り、経済を動かし、文化をつないできた。

むしろその取り組みがなければ、地域が消滅していたのではないだろうか、と思う事例もあった。

変わるうみひとネットと社会
― 私たちが見つめるのは100年後の農山漁村

そんな漁村女性たちに光を当て、ともに歩んできたうみ・ひと・くらしフォーラムは2020年9月に、さらに幅広く、持続的に活動をしていくために一般社団法人うみ・ひと・くらしネットワークとなった。

フィールドは漁村から農山漁村へ。そして、女性に限らず、ともに地域と産業を盛り上げる仲間へ対象を広げた。

きっと、この変化は、これまでうみひとネットが考えてきた課題が、「女性だけが考えること」ではなくなったことを物語っているのだろう。「男か女か」ということでもないということも。

2023年シーフードショー出展時。学生も参加し、地域、世代を超えた仲間が集まりました

そして、設立から4年。今、うみひとネットの会員数は約90人。性別も世代も、仕事も様々な、漁村に魅せられた人たちのネットワークになっている。

ようやく業界が、そして社会が追いついてきたような気がする。


一般社団法人立ち上げメンバーは関いずみ、三木奈都子、副島久実、香取弘子。

今では私、久保奈都子も、この4人に導かれメンバーにジョインした。


この連載では、そんな私たち5人のうみ・ひと・くらしネットワークメンバーが、今こそ100年後の農山漁村に伝えたいストーリーをお届けしていく。

連載 第2回 へ続く

プロフィール

久保 奈都子(くぼ なつこ)

久保 奈都子

うみ・ひと・くらしネットワーク広報チームリーダー/漁業コミュニケーター。
東京海洋大学卒業後、2013年から2022年まで全国漁業協同組合連合会(JF全漁連)に勤務し、全国の漁業を対象に水産政策、漁業後継者対策、広報等に携わる。退職後、ソーシャルビジネスベンチャー勤務を経て、現在フリーランス。2022年からうみひとネットメンバーに。現在、実家の漁業を手伝いながら、水産会社広報やライター、漁業関係の新規企画立案・運営等、漁業の翻訳者として活動している。