私とうみひとネットとの出会い
私が「うみ・ひと・くらしネットワーク」(以降、うみひとネット)に初めて出会ったのは、JF全漁連職員になって2年目の夏。2014年に鹿児島県の指宿で開催された「うみ・ひと・くらしシンポジウム」(以降、うみひとシンポ)だった。
それは、漁村女性の活躍をテーマに活動する女性研究者たちのグループ「うみ・ひと・くらしフォーラム」(※うみひとネットの前身)が主催の、異色のイベント。漁村で加工品をつくったり起業をしたりと、地域の課題にあわせて様々な活動をする女性グループが自慢の商品を持ち寄り、情報交換を行う。他の水産関係の会議やシンポジウムに比べて、とても華やかで賑やかで、率直な言葉が飛び交う空間だった。
うみ・ひと・くらし通信Vol.2より
当時職場の先輩で、「JF全国女性連」(漁協女性部の全国団体)の事務局を担当していた香取さん(現うみひとネット事務局長)に、「かねたん(私のあだ名です)も行ってみない?すごく勉強になると思う!」と声をかけてもらったのがきっかけだった。
水産政策を担当する部署で働いていた私は、入会してからずっと、“オカタイ” 仕事ばかりに携わっていたので、「これって本当にお仕事として行ってもいいのかしら」と戸惑ったことを覚えている(笑)。
仕事内容に優劣をつけるつもりはまったくなかったが、当時は業界全体的に、「資源管理」や「水産改革」等に比べて、「女性活躍」は、“その次” に考えるべき問題という雰囲気があったように思う。
そして私自身も、そもそも平成の時代に、まだ「女性活躍」を掲げて活動をする必要があるのだろうか、という疑問を持っていた。
そんな中、“JF全国女性連事務局の仕事” として行ったうみひとシンポ。
そこで私は、「漁村の女性たちのリアル」を知り、衝撃を受けたのだった。
1つ目の衝撃 ― 今も戦う女性たち
平成生まれの私は、幸いなことにそれまで男女の差で悩むことはほとんどなかった。「やりたい」と思ったことをさえぎられたことはないし、「女だから」という理由で何かを押し付けられたり妨げられることもなかった。進学も仕事も結婚も、自分の好きに決めてきた。
だからだろうか。初めてうみ・ひと・くらしフォーラムの存在を知ったとき、「女性たちを支援する」「女性活躍を推進する」という言葉に違和感があり、「もうそこじゃないんじゃない?」という勝手な感想を抱いた。
ところが、実際にうみひとシンポに参加してみてその考えは180度変わったのだ。
そこには、今も戦っている人たちがいた。戦おうとしている人たちがいた。そして、それを知ろうとして、支える人たちがいた。
「この人たちがいたから、私は未来に希望をもって生きてこられたのか」と気づかされたのだった。
2つ目の衝撃 ― 女性たちの本当の思い
消費者目線に立った丁寧な商品づくりも評判
しかし、よくよく皆さんの活動のことを知ると、必ずしも「女性の地位向上」や「女性活躍」ということを最初から掲げていたのではないようだった。
「とうちゃんが獲ってきた魚を無駄にしたくない」「地域の郷土料理を守りたい」「値段がつかなくて捨てられる魚がもったいない」「子どもたちに故郷への誇りを持ってほしい」と、身近なところにある課題に危機感を持ち、行動に移してきただけなのだ。
そんな課題を「どうにかしなきゃ」と動く中で、もどかしい、悔しい、理不尽な出来事が出てきたのだろう。
危機に目をそむけずに男社会の「すきま」を埋めるように地域を守ってきた女性たちの動きに、時代が追いつかず、結果的に漁村の女性たちは戦わざるを得なかったのだろう。
きっと諦めなければならなかった人たちもたくさんいたと思う。
でも、そんな湧き上がるような浜の動きが、紛れもなく、地域を守り、経済を動かし、文化をつないできた。
むしろその取り組みがなければ、地域が消滅していたのではないだろうか、と思う事例もあった。
変わるうみひとネットと社会
― 私たちが見つめるのは100年後の農山漁村
そんな漁村女性たちに光を当て、ともに歩んできたうみ・ひと・くらしフォーラムは2020年9月に、さらに幅広く、持続的に活動をしていくために一般社団法人うみ・ひと・くらしネットワークとなった。
フィールドは漁村から農山漁村へ。そして、女性に限らず、ともに地域と産業を盛り上げる仲間へ対象を広げた。
きっと、この変化は、これまでうみひとネットが考えてきた課題が、「女性だけが考えること」ではなくなったことを物語っているのだろう。「男か女か」ということでもないということも。
そして、設立から4年。今、うみひとネットの会員数は約90人。性別も世代も、仕事も様々な、漁村に魅せられた人たちのネットワークになっている。
ようやく業界が、そして社会が追いついてきたような気がする。
一般社団法人立ち上げメンバーは関いずみ、三木奈都子、副島久実、香取弘子。
今では私、久保奈都子も、この4人に導かれメンバーにジョインした。
この連載では、そんな私たち5人のうみ・ひと・くらしネットワークメンバーが、今こそ100年後の農山漁村に伝えたいストーリーをお届けしていく。
(連載 第2回 へ続く)